目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 東ちづる、胃潰瘍から「胃がん」の疑い… “過信”が招いた落とし穴とは

東ちづる、胃潰瘍から「胃がん」の疑い… “過信”が招いた落とし穴とは(1/2ページ)

 公開日:2025/08/04

「自分は大丈夫」という過信が早期発見の機会を逃すこともあると語るのは、初期の胃がんを偶然発見された東ちづるさん。コロナ禍での不調から胃潰瘍が判明し、胃カメラをおこなったところ、胃潰瘍と別部位に胃がんの疑いがありました。治療方法を自ら選択した背景には、冷静な思考と強い意志があったようです。今回は、胃がん発覚の経緯や治療方法、早期発見・早期治療の重要性などについて、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医の渡海義隆先生と東ちづるさんにお話していただきました。

【独占写真】東ちづる「胃がん手術」を終えた現在の姿とは

東ちづるさん

東 ちづる(俳優・一般社団法人Get in touch代表)

プロフィールをもっと見る

広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。ドラマや映画、情報番組、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは、骨髄バンクや障がい者アートなどのボランティア活動を30年以上続ける。2012年アートや音楽、映像、舞台などのエンタメ通じて、誰も排除しない“まぜこぜの社会”をめざす、一般社団法人Get in touchを設立。代表として活動中。自身が企画·構成·キャスティング·プロデュース·出演する映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」はU-NEXTなどで配信中。また、自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した著書「妖怪魔混大百科」(ゴマブックス)を基に、今夏、漫画やマスコットを展開予定。2021年2月、初期の胃がんが発覚し緊急入院、治療を受けた。

渡海義隆先生

監修医師
渡海 義隆(日本消化器内視鏡学会専門医・指導医)

プロフィールをもっと見る

2008年筑波大学医学専門学群(現・筑波大学医学群医学類)卒業。2008年4月がん・感染症センター都立駒込病院にて研修医、2017年4月がん研究会有明病院消化器内科、2021年4月より上部消化管内科医長、2023年9月より頭頸部がん低侵襲治療センター兼務。がん研究会有明病院のレジデント時代には、胃カメラでの腫瘍発見率8.7%とトップの成績で表彰される。また、がんに関するAIの研究にも広く携わった。患者さんともっと近くでかかわりたいという思いと、内視鏡治療可能な段階での消化管がんの早期発見を患者さんに提供したいという思いから2024年に半蔵門 渡海消化器内視鏡クリニックを開院。内視鏡診断・治療をはじめ、幅広い消化器疾患の診療に従事してきた豊富な経験を活かし「楽だけではない、質の高い内視鏡検査・消化器診療」を掲げ診療にあたっている。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会学術評議員。

「99%問題なし」から一転。黒い便から判明したまさかの病名

「99%問題なし」から一転。まさかの「胃がん」告知に震えた瞬間

渡海義隆先生渡海先生

現在の体調はいかがですか?

東ちづるさん東さん

今が人生で一番体調が良いと感じています。若い頃は体調を気にせず無理をしていましたが、今は日々の生活や身体の状態に目を向けながら過ごすことができています。

渡海義隆先生渡海先生

安心しました。生活習慣や体調を気にかけることも大事なことだと思います。胃がんが発覚した経緯についてお聞きしてもいいですか?

東ちづるさん東さん

発覚のきっかけは、コロナ禍での体調不良でした。当時、仕事のキャンセルが相次ぎ、生活リズムが乱れたうえに、夜遅くまでの飲酒が続いていたことがありました。胃の痛みはその影響だと自己判断し、医療現場が逼迫していたこともニュースで知っていましたから、しばらく放置してしまっていたのです。ところがある日、便が黒くなっていることに気づき、これは胃からの出血かもしれないと不安になりました。それでもしばらく我慢してしまい、最終的には貧血で立っていられなくなり病院に駆け込みました。

渡海義隆先生渡海先生

立っていられなくなるほどの状態であれば、かなり重度の貧血だったと考えられます。検査の結果、どのような診断を受けたのですか?

東ちづるさん東さん

すぐに入院となり、胃カメラ検査を受けたところ出血性胃潰瘍と診断され、同時にピロリ菌も陽性と判明しました。

渡海義隆先生渡海先生

その際は、まだ胃がんの診断はされなかったのですね。胃がんと診断されるまでは、どのような経過だったのですか?

東ちづるさん東さん

その時は重症化することなく無事に退院しました。ピロリ菌の除菌もおこない、胃カメラの検査結果についても主治医からは「99%大きな問題はない」と言われていました。しかし、数日後に「病院に来てください」と連絡があり、そこで、初期の胃がんの疑いがあること、PET検査や血液検査ではまだわからないレベルであることを聞かされました。胃がんが発見されたのは胃潰瘍の部位とは別の場所でした。

渡海義隆先生渡海先生

東さんの胃がん発覚の経緯は非常に稀なケースだと思います。初期の胃がんは胃潰瘍と違って症状が出にくいため、普段から内視鏡を受けていない場合には発見が非常に困難です。しかし、東さんの場合は初期の胃がんとは別に胃潰瘍が存在したため、胃潰瘍の症状から内視鏡をおこない、本当に偶然に初期の胃がんが見つかったのだと考えられます。

東ちづるさん東さん

はい、発見が本当に偶然だったということで先生には非常に感謝しています。

渡海義隆先生渡海先生

胃がんと診断を受けた時の心境はいかがでしたか?

東ちづるさん東さん

大きな恐怖やショックはありませんでした。30年以上、骨髄バンクや難病患者の支援に関わる医療ボランティア活動を通して、白血病や治療方法が定まっていない難病の患者さんを間近に見てきた私にとって、治療方法がある胃がんは前向きに受け止められる病気でした。

渡海義隆先生渡海先生

おっしゃる通り、胃がんは標準治療が定まっていますし、超初期であれば完治する可能性も非常に高い病気ではあります。病気についてある程度知っていることで前向きに考えられるということは大事な点だと思います。

東ちづるさん東さん

心に浮かんだことは「見つけてくれてありがとう」という感謝と、どう家族やスタッフに伝えるかという冷静な思考でした。ちなみに、胃がんの原因として考えられるものは何ですか?

渡海義隆先生渡海先生

WHO(世界保健機関)はピロリ菌を胃がんの確実な発がん因子と認定しています。報告によって異なりますが、胃がんの原因の約99%はピロリ菌が関与していると言われており、ピロリ菌の感染が胃がんの最も大きな原因と考えられます。その他は遺伝的な要素や喫煙、過度な塩分摂取、ウイルスなどもリスク要因とされています。ピロリ菌は幼少期の母子感染、かつては食事の口移しをおこなっていたことで感染していました。また、井戸水を飲む習慣があった地域では感染リスクが高くなります。

東ちづるさん東さん

99%もピロリ菌が関与している可能性があるのですね。私も幼少期に井戸水も生活に活用していたことで、ピロリ菌が感染していたのだと理解しました。私は胃潰瘍になったタイミングで初めて検査をすることになりましたが、検査して除菌することが非常に重要ですね。胃がんの初期症状や好発年齢はいかがでしょうか?

渡海義隆先生渡海先生

胃がんは、かなり進行するまで症状が現れない病気です。胃がん細胞が粘膜下層を超えて固有筋層にまで達した進行胃がんになって初めて、出血や胃痛、黒色便、貧血といった症状が現れるケースが多いのです。がん細胞が発生してから内視鏡で発見できるサイズに成長するまで、約10年かかるとも言われています。発症年齢は50〜70代がピークですが、遺伝性の場合は若年層でも発症します。

東ちづるさん東さん

初期症状が無いのは怖いと思います。より一層、検診による早期発見が重要になるということですね。私の場合は家族にがんを発症した人がいないからこそ「自分は大丈夫」という過信がありました。

渡海義隆先生渡海先生

東さんに限らず、多くの方が「自分は大丈夫、がんにはならない」と思い込んでしまっていると感じます。そのため、胃カメラを受けたことがない、ピロリ菌検査を受けたことがない方も多くいるのだと思います。

東ちづるさん東さん

私の場合は、胃潰瘍をきっかけにたまたま胃がんが見つかりましたが、胃潰瘍と胃がんはどのように見極めればよいのでしょうか?

渡海義隆先生渡海先生

見分けるのは非常に難しいと思います。いずれも胃痛や黒色便、吐血などの症状が現れますが、胃潰瘍は空腹時に痛みがあり、食事を取ると少し緩和するのが特徴です。一方で、胃がんでは食事による痛みの軽減は見られません。また、がんが進行すると急激な体重減少や食欲不振といった全身症状も現れます。

東ちづるさん東さん

症状が似ているからこそ、日々の症状を甘く見るべきではないですね。スキルス胃がんという言葉を最近よく聞くのですが、どのような胃がんなのでしょうか?

渡海義隆先生渡海先生

スキルス胃がんは未分化型胃がんに分類され、粘膜の深い層を這うように広がる特殊なタイプです。内視鏡で表面を見ても異常がわかりにくく、発見が遅れやすい点が特徴です。特に若年層の女性に多く、遺伝性の要素やピロリ菌による慢性炎症が原因だと言われています。

東ちづるさん東さん

胃がんの診断や進行度を調べるためには、どのような検査がおこなわれるのでしょうか?

渡海義隆先生渡海先生

まずは内視鏡検査で病変を直接観察し、がんの深さや大きさを評価します。必要に応じて生検(組織の一部を採取)をおこないます。その後、がんの広がりを確認するためにCT検査をおこない、リンパ節や肝臓などへの転移をチェックします。さらに、進行度合いに応じてPET検査や核医学検査も実施されます。血液検査では全身状態を確認し、治療に向けた総合的な評価がおこなわれます。

東ちづる“自分は大丈夫”という過信を後悔。納得の治療に至るまで

この記事の監修医師