秋野暢子「食道がんステージ3」が胸部まで広がる悲劇。試練続く闘病の全貌(2/2ページ)

秋野暢子「重複がん7~8個発覚」再発の不安と闘う現在の姿とは

千田先生
食道がんの治療にはさまざまな方法がありますが、秋野さんはどのように治療方法を選ばれたのでしょうか?
秋野さん
がんが声帯の近くにあり、一番大きなもので4cmほどありました。外科の先生からは声帯を取り除き、気道と食道を分けるような手術が必要と言われましたが、私の仕事は話すことなので、声を失うと人生が大きく変わってしまうと考えると、手術を受ける決心がつきませんでした。
千田先生
声を失うことは大きな決断になりますよね。その後、どのように治療方法を決めたのですか?
秋野さん
その後、抗がん剤と放射線を用いた化学放射線療法という選択肢があると聞きました。抗がん剤は効く人と効かない人が分かれると説明を受け、もし効かなかった場合は、その後の手術がより困難になるリスクがあると言われましたが、私は直感的に効くと思い、迷わず化学放射線療法を選択しました。
千田先生
頸部食道以外の部分は特に問題なかったのですか?
秋野さん
実は、重複がんと診断されていました。頸部食道以外にも小さいがんがいくつかあり、食道には全部で7〜8個のがんがありました。胸部食道がんはステージ0か1のため、頸部の治療が終わった後に内視鏡で治療するということで、抗がん剤治療が開始されました。食道の重複がんはよくあるのでしょうか?
千田先生
食道は一本の管になっていますので、複数箇所の慢性炎症により重複がんになっているケースは非常によく見られ、秋野さんの治療手順も一般的な流れだと思います。治療を選ぶ際、自由診療などほかの選択肢もあったかと思いますが、標準治療を選んだ理由は何かありましたか?
秋野さん
治療法を提案されたとき、医学論文やガイドライン、インターネットの情報など、あらゆる資料を読みました。調べるほどに、標準治療がいかに長年の研究の積み重ねによって国が認めた最も安全で効果が期待できる治療法かと理解することができました。だからこそ、私は標準治療一本で治そうと決めました。
千田先生
おっしゃる通りです。標準治療は科学的根拠に基づいた治療法ですので、医師も患者さんにしっかり説明する責任があると感じています。
秋野さん
抗がん剤といえば、吐き気や嘔吐がひどいというイメージがありますが、最近はそのような副作用は減っているのですか?
千田先生
現在では制吐剤(吐き気止め)を事前に投与することで、副作用を軽減できるようになっています。抗がん剤の副作用で吐き気が出てしまうと、トラウマになり治療を続けられなくなる患者さんも多いため、医師も最大限の対策を考えています。
秋野さん
私も多くの制吐剤を投与していただき、吐き気はありませんでした。倦怠感や口内炎、しゃっくりなどの副作用もなく経過したので本当に助かりました。
千田先生
抗がん剤の副作用は個人差が非常に大きいので、投与量を調整しながら治療を進めることが重要です。副作用が強く出る方もいれば、比較的軽い方もいます。
秋野さん
私が選択した以外の治療方法についても教えてください。
千田先生
食道がんの治療方法には手術療法や放射線化学療法、放射線単独療法の3つがあります。それぞれ特徴が異なりますので、患者さんの状態や病期、部位によって適した治療方法を選択します。手術療法は、がんのある部分を切除し、胃や小腸の一部を使って食道を再建する方法です。手術の前には抗がん剤治療をおこない、がんを小さくしてから手術をする流れが一般的です。
秋野さん
私の選択した放射線化学療法については一般的にも効果が期待できる治療方法なのでしょうか?
千田先生
食道がんの多くは扁平上皮がんと呼ばれるタイプのがんで、放射線がよく効く性質を持っています。放射線化学療法は、放射線と抗がん剤を組み合わせる治療で、それぞれの治療効果を相乗的に高めることができます。そのため、食道がんに対して非常に効果的な治療方法であると言えます。
秋野さん
放射線単独療法はどのような方に適用されるのでしょうか?
千田先生
80〜90代の高齢者や手術に耐えられない患者さん、あるいは初期の食道がんで抗がん剤を使わずに治療が可能な場合などに選択されます。実際に抗がん剤治療をされていた時の心境はいかがでしたか?
秋野さん
抗がん剤治療は髪の毛が抜けてしまうイメージが強かったので、それならば自分でスキンヘッドにしようと決意しました。

千田先生
先生やご家族に驚かれたのではないですか?
秋野さん
回診の際に驚かれましたが、「秋野さんに使う抗がん剤は髪の毛があまり抜けないものだよ」と先生に言われ、笑い話をしていました。家族は私の性格を知っているので、特に驚かれることもありませんでした。このようなハプニングもありましたが、自分で決断して剃ったことで気持ちもすっきりしましたし、治療に前向きに臨めました。
千田先生
ほかにも、治療に対して前向きに臨むことができた要因はあるのでしょうか?
秋野さん
治療中はコロナ禍だったので面会はできず、一人の時間が多くありましたが、ブログを書き、がんに関する情報を発信していたことで、多くのがんサバイバーの方やサポーターの方々と繋がることができました。「くよくよしても病気は良くならない。どうせなら笑って治療しよう」と考えられるようになりました。
千田先生
秋野さんのような前向きな姿勢は治療を続ける上でとても大切だと思います。実際に前向きな患者さんの方が治療を順調に進められることが多いです。
秋野さん
近年のがん治療は大きく進歩しているのでしょうか?
千田先生
非常に進歩しています。転移や再発を起こした患者さんは、体内の免疫細胞がしっかりと働ける状態を作る免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる新しいタイプの抗がん剤を組み合わせた治療が開発され、高い有効性を示しています。また、がんの遺伝子情報を解析し、それに合わせた治療法を選択するゲノム診療というものもあり、個々のがんの性質に合わせたオーダーメイド治療が可能になりつつあります。
秋野さん
どのような場合に、オーダーメイド治療が有効なのでしょうか?
千田先生
標準治療が終了した後や再発した場合、従来の抗がん剤が効かなくなった場合、副作用が強く標準治療を続けられない場合に、次の一手として検討されます。
秋野さん
なるほど。食道がんは再発のリスクが高く、治療後2年以内に再発するケースが約50%、5年以内に再発するケースは約25%と聞きますが、実際にはどのような形で再発することが多いのでしょうか?
千田先生
おっしゃる通り食道がんは再発率が比較的高いがんと言われています。元々がんがあった部分に再びがんが発生する局所転移と血液やリンパの流れに乗って、別の臓器に転移する遠隔転移の2パターンに分けられます。さらに、食道がんは再発すると完治することが難しく、最初の時点で完治を目指した治療がおこなわれることが多いです。
秋野さん
検査にはどのくらいの期間が必要になるのでしょうか?
千田先生
5年間が一区切りになりますが、その間はCT検査をおこない、再発が見つかればすぐに治療することになります。秋野さんは今どのくらいの頻度で検査をされていますか?
秋野さん
造影剤を入れるCTやMRIは半年に1回の頻度になりました。重複がんだったので、内視鏡検査は3ヵ月に1回の頻度でおこなうことになっています。予防のためにも定期的な検査は重要ですか?
千田先生
定期的な検査は非常に重要で一度も検査をしたことがないということ自体がリスクになります。食道がんの場合は60〜70代の方が多く罹患するので、その前の中高年の方や特に飲酒と喫煙をされる方は検査するべきだと考えています。
秋野さん
そうですよね。定期的な検査が重要だと改めて理解しました。私も残り2年半、再発しないように頑張ります。
千田先生
秋野さんが前向きな発信を続けられている理由とがんサバイバーの方へメッセージをお伺いしてもよろしいでしょうか?
秋野さん
私は、がんは特別な病気ではないと身をもって感じました。そして、落ち込むのではなく、この経験をどう生かせるかを前向きに捉えて、発信することが私の役割だと考えています。がんを知る、病気を知ることで予防できることもありますので、どんな状況でも明るく、前向きに生きて、人生をより豊かにしていきましょう。
編集部まとめ
秋野暢子さんの体験は、がんと診断されたときに「どう向き合うか」の大切さを教えてくれました。治療方法の選択肢や前向きな心の持ち方、定期健診の重要性に至るまで食道がんについての理解が深まる内容でした。がんは誰にでも起こりうる病気ですが、正しい知識を持ち、早期発見に努めることで乗り越えられる可能性が広がります。「がんは特別な病気ではない」という秋野さんの言葉が、多くの方の支えとなりましたら幸いです。




