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【医師解説】「十二指腸がん」の初期症状や原因、進行スピードは? 診断や治療方法も

 公開日:2023/11/06

十二指腸がんは自覚できる初期症状がほぼ出ないため早期発見が難しいとされています。

また十二指腸がんを含む小腸のがんは、消化器系のがんの中でも5パーセント以下のめずらしいがんです。

一般的にあまり知られていないのがんのため、十二指腸がんを疑われたりステージが進んでいると言われたりした方は非常に不安な思いをしているのではないでしょうか。

原因や症状・診断・検査・ステージ・進行スピードなど、十二指腸がんについて知っておきたい項目を詳しく解説します。

中路 幸之助

監修医師
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)

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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。

十二指腸がんの症状と原因

クスリ瓶と注射器

十二指腸がんはどのような病気ですか?

小腸は「十二指腸」「空腸」「回腸」の3つから成り、胃に一番近い所にあるのが十二指腸です。この十二指腸に発生する悪性腫瘍を十二指腸がんといいます。また十二指腸の胆管と膵管につながる部分にできるがんは「十二指腸乳頭部がん 」です。
十二指腸がんを含む小腸腺がんの発生率は全ての悪性腫瘍のうちの0.5パーセント以下であり、全ての消化器系の悪性腫瘍のうちでも5パーセント以下といわれ希少がんのひとつに数えられます。小腸に発生するがんは重篤な状態になるまで自覚症状が少ないのが特徴で、十二指腸がんもステージⅣになるまで自覚症状がほとんどありません。
また通常の内視鏡検査では十二指腸の状態が見えにくいため発見が遅れ、ステージが進んで貧血や腹痛を起こすようになってしまってから発見される場合が多いのが特徴です。

主な症状・末期症状を教えてください。

十二指腸がんは多くの場合、自覚できる初期症状がありません。
十二指腸がんが進行して腫瘍が大きくなり十二指腸をふさいでしまうと貧血を起こしたり腹痛や腸閉塞を起こしたりします。またお腹が張っている感じや吐き気・食欲不振・体重減少などの症状もありますが、これらの症状は一般的な「何かお腹の調子が悪い感じ」と似ているため見過ごされがちです。
がんは一般的に亡くなる2~3カ月前までは日常生活を比較的支障なく送ることができる病気です。十二指腸がんの末期も同様で比較的穏やかに日常生活を送ることができますが患部の痛みがあるでしょう。やがて倦怠感が強まり食べられなくなります。衰弱が始まり、意識が朦朧とした状態が続き死に至ります。

十二指腸がんを疑うべき初期症状はありますか?

十二指腸がんには特徴的な初期症状がなく、腹痛や貧血などの症状は進行期に入ってから現れます。しかし腹痛や貧血は他の病気でもよく現れる症状であり、特に十二指腸がんを疑う症状とはいえません。
希少がんであるだけに、データも少なく早期発見が難しいのが十二指腸がんです。しかし通常の胃がん健診などの内視鏡検査でも、内視鏡専門医が拡大内視鏡や特殊光内視鏡を用いることで、十二指腸がんを初期段階で発見できるケースも増えてきました。
自覚できる初期症状がないからこそ、定期的な健診が大切です。

発症する原因を教えてください。

残念なことに十二指腸がんの発症原因は特定されていません。繰り返しになりますが、十二指腸がんは希少がんであり臨床データが不足しています。「喫煙=肺がんのリスクが高い」というような具体的なリスク要因も特定されていないのが現状です。
しかし因果関係は特定されていませんが、以下の疾患を持つ方が十二指腸がんになるリスクが高いことが分かっています。

  • クローン病(自己免疫疾患)
  • 潰瘍性大腸炎(自己免疫疾患)
  • ポイツイエガース症候群(遺伝性疾患)
  • リンチ症候群(遺伝性疾患)

また、ご家族に大腸腺種症の方がいる場合も十二指腸がんの発生率が高いとされています。

十二指腸がんの診断と検査

医師

どのような検査で十二指腸がんと診断されますか?

十二指腸がんの診断には一般的に以下の検査を行います。

  • 血液検査
  • 腹部CT検査
  • 内視鏡検査

血液検査では腫瘍マーカーと呼ばれるがんより作られる特徴的なタンパク質の有無や量などを調べます。腫瘍マーカーの値が高ければがんがあると推測できますが、どこに発生しているのかまでは特定できません。CT検査や内視鏡検査でのがんの発生個所の特定が必要です。
内視鏡検査は胃カメラ・カプセル内視鏡などがあります。またがんの確定診断には細胞組織が必要です。多くの場合は内視鏡検査と同時に変異した細胞を採取しがんの診断をします。

治療方法を教えてください。

十二指腸がんの治療方法は大きく分けると「外科的な手術」と「化学療法」に分かれ、がんが切除できる大きさであれば外科的な手術で切除します。体への負担を考えると小さな病変であれば内視鏡で切除するのが望ましいのですが、内視鏡で切除しきれない大きさの場合は開腹手術です。
前もって抗がん剤による化学療法で病変を小さくし手術で切除する場合もあります。十二指腸がんが進行し手術では切除できないと判断した場合、抗がん剤による化学療法を行うのが一般的です。
抗がん剤は体への負担が大きく、吐き気・頭痛・食欲不振・めまいなどの副作用が出やすいため、初めての抗がん剤治療は入院し医師の管理の下で受けることをおすすめします。

手術ができない場合もあるのでしょうか?

十二指腸がんの病変を手術では完全に切除しきれないと医師が判断した場合や、がんが進行し他の器官に転移している場合は手術できません。体への負担が大きい手術をしても治療効果を望めないため、手術をしないのです。
手術を患者や家族が強く望めば切除できる部分だけを手術で切除するという選択もありますが、多くの場合は手術ではなく抗がん剤による化学療法を薦められるのが一般的です。

十二指腸がんの合併症を教えてください。

十二指腸がんの手術から数年後に発症する可能性がある合併症には糖尿病と脂肪肝があります。十二指腸がんの手術では十二指腸と一緒に膵臓や肝臓の一部を切除するケースがあり、膵臓を切除すると糖尿病に、肝臓を切除すると脂肪肝になりやすくなります。
これらの合併症の予防には生活面での注意が必要なため、退院前や通院中に主治医から注意点をよく聞いておきましょう。また十二指腸がんは手術後に合併症の発症率が高い病気です。
手術から数週間以内に発生しやすい主な合併症には、膵液漏・腹腔内膿漏・腹腔内出血・胆管炎・創感染・胃内容排出遅延などがあげられます。これらの合併症には手術後の経過を見ながら適時治療を行うのが一般的です。

十二指腸がんのステージと進行スピード

がん細胞

十二指腸がんのステージを教えてください。

十二指腸がんのステージはステージ ⅠからⅣまであり、ステージの数値が大きくなるほど進行した状態を表します。ステージ Ⅰは所属リンパ節に転移がなく後腹膜までがんが達していない状態です。
ステージ Ⅱは所属リンパ節に転移がなく、後腹膜までがんが達しているとステージ ⅡA、他の臓器に達しているとステージ ⅡBになります。ステージ Ⅲは所属リンパ節に転移があり、2か所以下の転移でステージ ⅢA、3か所以上の転移でステージ ⅢBです。
十二指腸以外の臓器にも転移している場合はステージ Ⅳに分類されます。一般的に手術で摘出が可能なのはステージ Ⅰからステージ Ⅲまでです。

十二指腸がんは進行スピードが早いのでしょうか?

十二指腸がんは希少がんであるため、正確な進行スピードを提示できるデータがありません。一般的ながんの進行スピードは早期がんで年単位・進行がんで半年単位・末期がんで月単位ですが、十二指腸がんの場合は参考程度と考えてください。

生存率を教えてください。

十二指腸がんは自覚できる初期症状がほとんどない、一般的な消化器の検診で発見しにくいといった理由から発見された時点でステージが進んでいるケースが多い病気です。そのため生存率は高いとはいえません。
ある研究では十二指腸がんの全ステージを合わせた5年生存率は約30パーセント、平均的な生存期間は19か月とした結果が出ています。これらの数値は大々的に統計を取った結果ではありませんので、十二指腸がんの全て患者に当てはまるわけではないことに留意してください。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

十二指腸がんは発見が遅れやすいがんですが、定期的な消化器系の検診を受けることで発見されやすくなります。また定期健診は十二指腸がんだけではなく他の病気の発見や予防という意味でも大切です。
早期に発見するほど寛解を望めますので、年に1度の定期健診の受診をおすすめします。

編集部まとめ

看護師
十二指腸がんは自覚症状があまりなく、貧血や腹痛など体の異変を自覚したときにはステージが進んでいるケースが少なくない病気です。

ある研究で5年生存率が30パーセント・平均生存期間が19か月となったのはステージが進んでいたことも影響しているのでしょう。

十二指腸がんは希少がんであるため正確な統計を示す臨床データがありません。まだまだ謎が多いがんですが、やはり早期発見が寛解のポイントです

年に1度の定期健診で早い段階で病気を見つけてくださいね。

この記事の監修医師