ダイヤモンドプリンセス号の
乗客受け入れ
内田さん
新型コロナウイルスの診療開始したときの決意と葛藤につきまして、教えていただきたいと思います。まずダイヤモンドプリンセス号の乗客の受け入れにつきましてはどのような体制で迎えられましたか? 明石理事長からお願いいたします。
明石理事長
当時は大学病院長であった北川先生、そして、副院長であった大坪先生が、乗客を受け入れるべきか私のところに相談にやってきました。受け入れたらスタッフの命も危ない、それから他の患者さんは来なくなるだろうとか、色々と考えました。これは大変なことが起きるであろうというのは皆分かっていたわけですが、本当に困っている人がいるわけですので、もう私たちがやるしかないという非常に単純な動機で、受け入れを決断いたしました。本学の救急担当者たちは、普段から「なにかあったら本学で診ます」という姿勢でやってきていますので、いつも通りにやれるのではないかという信頼がありました。ただ、負担に感じてしまうスタッフがいるかもしれない、看護師とか事務の方とか、そこは心配でした。
内田さん
困っている方がいたら手を差し伸べる。その理念で乗り出したということですが、当時の病院長としては今ほど解明されていないウイルスに対して受け入れるということは大きな判断ですよね。
北川学長
教職員がついてきてくれるか、当初は不安でしたが、皆がついてきてくれることが分かると、非常に先に進みやすくなりました。マスク、手袋、何もなくなった時にどう戦えばよいかという問題に直面した時にも、世界各国の物流システムや国内の物流システムの情報を迅速に提供してくれたり、また、家族への感染を恐れて帰宅を控える教職員が発生した時にも、滞在できる部屋を迅速に確保してくれたり、様々な部署の教職員が一致団結してサポートしてくれました。このようなサポート体制を迅速に構築して対応したことが、最初の歯車を回す一つのきっかけとなったと思います。
内田さん
素早い決断でしたね。
北川学長
そうですね、困った人がいたら手を差し伸べるというキリスト教的人類愛の理念が教職員に染み付いていることを実感した最後の2か月でした。
明石理事長
聖書の中に「光は闇の中に輝いている」という言葉があります。あのとき、私たちが希望の光になれるという思いがありました。また、それが喜びでもありましたので、学内ネットワークを通じて教職員へメッセージを送りました。「世界中の人々が暗闇の中にいるのだから、私たちが希望の光になろう」と。
内田さん
当時副院長として支えられた、大坪病院長はどのような姿勢で臨まれたのでしょうか。
大坪病院長
ダイヤモンドプリンセス号へDMAT隊(Disaster Medical Assistance Team:災害派遣医療チーム)の派遣要請が出た時に災害担当の副院長であった私は、直ちに災害対策本部の設置を病院長にお願いしました。乗客を引き受けると他の患者さんが来なくなるのではという心配はありましたが、私たちがやるしかないという思いで臨みました。
内田さん
本当に素晴らしい一歩であったと思います。コロナ禍で医療従事者不足問題や感染者用の病床数の増加など、人材、製品、場所、情報という観点から様々な問題があったと思いますが、大坪病院長いかがですか。
大坪病院長
それが、実はあまり苦労しませんでした。災害対策本部を設置して以来、これまで経験したことのない問題が続々と現場から上がってきましたが、全部その場で決断し、素早く現場に戻すことができました。そのようにして実行に移したことが次の日にうまくいかない場合は、土日問わず災害対策本部の会議を開催し、訂正し、解決していきました。 また、決まったことを直ちに教職員にメールで配信したり、会議をオンラインに切り替えることにより、病院全体で本気で取り組んでいることを教職員に伝えることができたと思っています。皆が同じ目的に向かってチームとして進んでいる時には、誰もできない理由を言わず、「なんとかします」という返事でどんどん問題が解決できましたので、あまり苦労を感じませんでした。 1−2ヶ月間休みなく会議を開き、問題に対して迅速に対応してきたことで、病院全体が本気でやっているんだなとわかるなかで、私たちもできないなんて言ってられないなっていう考え方が皆に伝わったと思います。
内田さん
お話を聞いているだけで病院全体が一致団結して一つの課題に取り組んでいる姿勢がとても伝わってきます。明石理事長、これはやはり日頃の積み重ねがあったからなのでしょうか?
明石理事長
メンタリティの面ではそうであると思います。3〜4年前から法人を上げてIT化に関しては相当力を入れてきました。ITを担当する役員もおりますし、インフラが相当整備されていました。そのような環境が既に整備されていたからこそ、教職員全体に決まったことを直ちに伝達することができ、また、学生教育も遠隔に直ちに切り替えることができました。更にはホームページや学内のポータルサイトの情報もどんどん新しいものに更新されるという環境が既にできていて、最大限に活用されたことが非常に大きかったと思います。
新型コロナ感染症後外来の設立
内田さん
ありがとうございます。聖マリアンナ医科大学が現在行っている有名な施策、後遺症に対する感染症後外来について、なぜ世界的に注目されているのか、またどうして導入が早かったかということについて、大坪病院長からお話をいただけますでしょうか。
大坪病院長
コロナ感染後に後遺症に悩まれる患者さんが増えるだろうというような先見の明があったわけではありません。各種報道や2020年11月頃に発表された様々な後遺症をまとめたレポートを見て、これは絶対大学でやるべきであると思いました。しかも、診療科間の連絡が密なところでやらなきゃいけないと。そこで、総合診療内科を中心に約10の診療科に集まってもらい、協力をお願いしましたが、皆二つ返事で担当を決めてくれましたし、さらには、画像診断部や検査部の協力の下、メディカルコーディネーターが予約に関して午前中に必要な検査を組んで午後から診察という1回の受診で済むような今の形を構築してくれました。皆病院の方向性をわかってくれて、誰もできない理由を言わずに、やってくれました。本当にコロナを真っ先に診てきた病院だからこそできた動きだと思っています。
内田さん
コロナに対していち早く対応したからこそできた結果かと思いますが、北川学長いかがでしょうか。
北川学長
コロナをきっかけに色々な診療科が今まで以上にまとまって、色々なアイデアを出し、このような体制を作れたと思います。このようなところがコミュニケーション能力にも繋がってくると思っています。特に大学の壁が高いと言われないように、学生時代からコミュニケーションを学んでいかなければいけないと思いますし、そして、さらに知識もあって研究もできるという人が育つ土壌を作りたいと思っています。
内田さん
確かに後遺症で悩んでいらっしゃる方、そしてすごく恐れを抱いている方は多いと思います。そういった中で専門外来があるということは、明石理事長、大きいですよね。
明石理事長
そうですね。私たちは医科大学ですから、蓄積したデータを後世のために、そして今悩んでいる人のために、科学的に解析して纏め、報告することも責務であると思います。