マツキヨココカラが女性の健康支援で新施策―「女性活躍」の壁 克服目指す

全国に約3600店舗を展開するドラッグストアグループ、株式会社マツキヨココカラ&カンパニー(以下「マツキヨココカラ」)は大塚製薬株式会社と連携し、女性の健康と働きやすさを支える新たな取り組みを2026年2月に開始。同月16日に東京都内で開催した女性の健康プレスセミナー「女性の健康と働きやすさを支える新たな挑戦」で、その背景と狙いなどについて説明しました。ライフステージに応じた健康維持は、女性のキャリア継続と組織の持続的成長に直結する重要な社会課題です。日本社会で何が「女性活躍」の壁となっているのか、どうすればそれを越えられるのか――同セミナーの内容をダイジェストでお届けします。
人的資本投資、健保負担適正化の両立への先行事例に
全従業員の7割以上を占める女性の健康課題は、キャリア継続と組織の持続的成長に直結する重要なテーマと、マツキヨココカラは認識しているといいます。施策を通じて「継続就業と健康管理の両立」「増え続ける健保の医療費負担」という二つの課題解決を目指します。
経済産業省の試算によると、女性特有の健康課題による社会全体の年間経済損失額は約3.4兆円とみられます。その約6割(約1.9兆円)を占める更年期症状による経済損失への対応は重要です。
一部の不妊治療が2022年から健康保険適用となり、健康保険組合の医療費負担増の大きな要因になるとみられています。また、同社には40~50歳代の女性従業員が約8000人いるため、更年期障害の治療費も健保組合の運営に大きな影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。
その解決策として、同社は健保組合と協同して自律的な健康管理を行うきっかけづくりを支援することで従業員のヘルスリテラシーをより高め、自身の健康や体調に関心を持ってもらい、従業員の満足度とエンゲージメント向上の実現を目指します。
「この自律的な健康管理を行うきっかけづくりの支援が、今回の施策です」と、マツキヨココカラ常務取締役の小部真吾さんは説明しました。同社グループの強みは人的資本をはじめとする非財務資本であり、新たな施策はこれを強化・活用することで中長期的な企業価値の向上につなげる「成長戦略」と位置付けられています。福利厚生の充実だけではなく、女性が生き生きと働くことが人材リスクの低減や人材スキルアップにつながり、それがコスト低減や成長率の向上に寄与し、最終的に企業価値を高めると考えられているのです。
大塚製薬と提携するのは、単なる一企業の活動にとどめず、社会を変える業界のロールモデルにしたいという思いがあるからだといいます。「啓発、研究、社会貢献という視点から信頼性の高い発信を行い、人的資本投資と健保負担適正化の両立という社会課題に対する一つの先行事例を提示していきたい」と小部さんは抱負を述べました。

サプリ全額購入補助など通じ自主的健康管理を支援
新たな女性活躍支援施策では、女性従業員が自主的に健康管理を行えるよう、提携両社の以下のリソースなどを活用します。
- ヘルスリテラシー向上を目指して自社制作した動画視聴
- 尿から数日間の食生活の傾向を把握し、アドバイスが得られる大塚製薬の栄養モニタリングサービス「Vivoo」の提供
- 葉酸含有サプリメント全額購入補助(3カ月間)と管理栄養士への栄養相談の提供によるプレコンセプションケア(妊娠前の健康管理)支援(20~40歳代前半向け)
- エクオール(女性ホルモン「エストロゲン」に似た働きをする成分)含有サプリメント全額購入補助(3カ月間)と管理栄養士への栄養相談の提供による更年期ケア支援(40~50歳代向け)
マツキヨココカラは、この施策によって「より働きやすい環境の提供」「健保負担の適正化」「SDGsへの貢献と社会的価値の向上」「企業プレゼンスの向上」という四つの効果を見込んでいます。
働くことで「何か」を諦めずに済む社会に
セミナーでは、女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長で産婦人科医、産業医でもある高尾美穂先生が「就労女性への健康支援で、企業はどのような支援をすべきか」のテーマで講演しました。

「アブセンティーズム」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。心身の不調を理由とした欠勤、遅刻、早退、休職など、従業員が業務に従事できない状態を指す健康経営用語です。男女を比較すると、3カ月平均で「1日も休まない」という人の割合は女性のほうが低く、女性特有の課題が欠勤にかかわっていることが推測されます。
働く女性の健康支援が注目されるようになった背景には、日本の人口減少があります。それを補うために「これまで働いてこなかった人」、具体的には高齢者と女性の労働参加が求められているのです。そのような社会で求められるあり方は、子育てを含む家事と働くことが安心して両立できることです。
近年、「性差医療」という言葉で男女が経験しうる病気には違いがあることが認識されてきました。女性に多く認められる病気のうち、女性ホルモンが担っていた働きが失われることで起こる不調がいくつもあることが知られています。
男性は、キャリアを積んでいく年代で病気になることはさほど多くありません。一方女性は、生理、更年期、(40歳代以降に発症が増える)乳がんなど、キャリアの途中でさまざまな病気や不調を経験します。「これは女性のキャリアにしかない落とし穴と表現できます」と高尾先生はいいます。
「女性の健康問題に関しては、ご自身でできることを考えてみると同時に、周りの理解が大切です」と、高尾先生は強調します。「妊娠・出産・子育て」とまとめて表現されますが、この中で女性にしか担えないのは妊娠と出産だけです。そうであれば、女性だけでなく「働く誰も」が子育てを含む家事と仕事を両立させたいのではないでしょうか。仕事を続けて年齢が高くなると、男性もさまざまな病気になる可能性があります。「治療しながら」「通院しながら」「入院治療を終えて退院してから」働くといったように、「何か」と働くことを安心して両立させたいのは働く誰もが願うことです。
高尾先生は「『働くことでほかの何かを諦めなくてもいい』社会にしていくための両立支援が、企業がこれからできることだと考えます」と結びました。
「調子をよりよく変えられるもの」に恐れず挑戦を
高尾先生に加えて大塚製薬 エグゼクティブディレクター ニュートラシューティカルズ事業部 女性の健康推進プロジェクト リーダーの西山和枝さん、株式会社MCCマネジメント 人材開発部長の初鹿妙子さんが参加したトークセッションでは、提携両社の取り組みなどについて語り合いました。
「社員の健康管理はコストではなく投資。プレゼンティーズムをいかに縮小していくかがキーになる」と西山さん。そのために大塚製薬では社内向けに、女性の健康セミナーの動画配信や、婦人科の産業医を招いての健康相談を実施し、「知って、気づいて、相談する」ことを促しています。また、産業医からの働きかけや「更年期の体験談セミナー」など行動変容に結び付ける活動もしているそうです。
「生理休暇」「不妊治療休暇」など制度を整備しても、名称ゆえに使いにくく思われる面があります。また、女性ばかり優遇している、と男性から不満の声が出ることもあります。そのため同社は「セルフケア休暇」と名前を変えて、男性のLOH症候群(いわゆる「男性更年期障害」)などでも休暇を取得できるようにしたそうです。
続いて初鹿さんは、マツキヨココカラの新たな取り組みは「自身の健康課題に向き合い、ケアを始めるという行動変容のきっかけとするのが最大の目的」と説明します。さらには自身のケアに向き合い体験したことを店舗で顧客に伝えることが、女性の健康という社会課題を解決するための一歩につながると期待しているといいます。
女性の健康は企業単独では解決できない課題であり、大塚製薬の専門的な知識とマツキヨココカラの生活者との接点の二つを掛け合わせることで、「職場、店頭、医療などをつなぐ新たなプラットフォームを作っていけるのではないか」と、初鹿さんは思いを述べました。
まとめとして高尾先生は「人生の時間は限られています。調子が悪いため本来30分で終わる仕事が2時間かかってしまったら、余計にかかった1時間半は人生の中で『もったいない』ものだと思ってください。自分の調子をよりよく変えられるものがあるならやってみるという思いを持ってもらえたら、今はその思いにこたえられる時代、困っていることを自分の中だけにとどめないでいい時代です」と、恐れず挑戦するようアドバイスしました。
