目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 9人に1人が罹患する前立腺がんを専門医が解説―「放っておいていいがん」の認識は誤り

9人に1人が罹患する前立腺がんを専門医が解説―「放っておいていいがん」の認識は誤り

 公開日:2026/03/10
9人に1人が罹患する前立腺がんを専門医が解説―「放っておいていいがん」の認識は誤り

公益財団法人がん研究会有明病院は2025年11月27日、報道関係者向けセミナー「前立腺がんを知る~疾患の特徴と最新の治療選択肢~」を開催しました。登壇した同院泌尿器科担当部長の沼尾昇医師は、「前立腺がんについて聞いたことはあるという人は多いが、全体像を理解している人は非常に少ない」と指摘しました。

前立腺がんは現在、男性のがん罹患(りかん)数で1位となり、9人に1人が罹患する時代を迎えています。一方で死亡数は胃がんや肺がんと比べて少なく、転移がなければ5年生存率はほぼ100%に近いとされています。ただし「決して死なないがんではない」と沼尾医師は注意を促します。

本稿では、前立腺がんの基礎知識から、検診の意義とその功罪、診断の流れまで、沼尾医師の講演内容をもとに解説します。

沼尾 昇(ぬまお のぼる)

登壇者プロフィール
沼尾 昇(ぬまお のぼる)

プロフィールをもっと見る

公益財団法人がん研究会有明病院 泌尿器科担当部長。東京医科歯科大学を卒業後、埼玉県立がんセンターや帝京大学医学部附属溝口病院などで研さんを積む。東京医科歯科大学腎泌尿器外科助教および講師、低侵襲医学研究センター特任講師、東京医科歯科大学医学部附属病院保険医療管理部 講師/副部長を経て、現職。主な専門は泌尿器がん治療および低侵襲手術。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会ロボット支援手術プロクター。

男性がん罹患数1位、前立腺がんとは

9人に1人が罹患する時代

前立腺がんは現在、日本人男性のがん罹患数1位となっています。胃がん、大腸がん、肺がんなどを抜いて最多で、9人に1人の割合で罹患します。沼尾医師は「60歳、70歳ぐらいになって友人が集まると、前立腺がんになっている人がよくいるという状況です」と説明します。

この数字は女性の乳がんとほぼ同数で、遺伝学的にも前立腺がんと乳がんには類似した特徴があるといいます。一方、がんによる死亡数を見ると、前立腺がんは肺がんや胃がん、大腸がんと比べて比較的少ない傾向にあります。ただし沼尾医師は、よく言われる「放っておいていいがん」という認識は誤りだと強調します。

前立腺の役割と位置

前立腺は男性にのみ存在する臓器で、ぼうこうの直下、骨盤の一番下にある恥骨の真下に位置しています。その中を尿道が通っており、普通の成人男性ではくるみぐらいの大きさです。60歳ぐらいになると生理的に肥大し、1.5~2倍程度になるのが一般的です。

前立腺の主な役割は前立腺液を作ることです。この前立腺液は精子を保護し、その運動を活発化させる働きがあります。

なぜ前立腺がんになるのか

家族歴がある人は要注意

前立腺がんの原因として明らかにされているリスク要因は、家族歴(自分や家族・親戚などの血縁者がかかった病気や、その発症年齢などの情報)と加齢です。

家族歴の影響は大きく、父親や兄弟に前立腺がん患者が1人いると少なくとも2倍、2人以上になると5~11倍に罹患確率が高まります。血縁者に前立腺がんの患者がいる方は、より注意が必要といえるでしょう。また、他のがんと同様に、年齢が高くなるほど前立腺がんのリスクは増加します。

食事や生活習慣の影響は?

一方、食事や生活習慣と前立腺がんの関連については、まだ明らかになっていない部分が多いといいます。肥満、食品、喫煙などについて多くの疫学的な研究が行われていますが、明確な因果関係は示されていません。

ただし、日本人を対象とした研究では、野菜や果物、大豆食品などを多く摂取する「健康型」の食事パターンで前立腺がんリスクがやや低い傾向がみられたというデータもあります。

PSA検診を受けるべきか

50歳以上の男性に推奨される理由

前立腺がんの診断で最も重要な検査がPSA(前立腺特異抗原)検査です。PSAは前立腺液中から分泌されるタンパク分解酵素で、採血だけで測定できる腫瘍マーカーとして広く用いられています。

PSAを測定する機会としては、主に50歳以上を対象とした職場の健康診断や、排尿障害などで泌尿器科を受診した際の検査があります。PSA検査普及以前、前立腺がんは、骨の痛みなど転移による症状から見つかるケースが多かったようです。PSA検査の普及により、現在ではそのような進行した状態で発見されることは、少なくなってきています。

知っておくべきデメリット

沼尾医師は「PSA測定にはメリットとデメリットがつきものです」と指摘します。

メリットとしては、早期に前立腺がんの可能性を知ることができ、転移がんの罹患率や前立腺がんによる死亡率の低下につながる点が挙げられます。

一方、デメリットは過剰診断・過剰治療の問題です。前立腺がんには治療しなくてもいいがんが一定の割合で存在します。沼尾医師は「PSA検査でそれを見つけてしまったために治療をすることになり、QOL(生活の質)が落ちてしまう。本来放っておいてもよかったがんも、治療対象になってしまう」とデメリットを説明しました。

泌尿器科学会の見解「弱く推奨」

こうしたメリット・デメリットを踏まえ、日本泌尿器科学会は中高年男性に対するPSA検査による前立腺がん検診について「行うことを弱く推奨する」という見解(前立腺癌診療ガイドライン2025年版)を示しています。

理想的には、PSAを測定する際に医療者がメリットとデメリットについて情報提供を行い、個々の人の意向に従って検診を実施することが好ましいとされています。沼尾医師は「50歳以上ではPSA検診を受けた方がいい。50歳代で進行した状態でがんが見つかると、残念ながら亡くなってしまうこともあります」と述べ、メリット・デメリットを理解した上での受診を推奨しています。

PSAが高いと言われたら

異常値が出ても慌てない

PSA検査で異常値が出た場合、通常はまずMRI検査から、問題があれば生検(採取した組織の一部にがん細胞があるかを調べる検査)へと進みます。PSAの基準値は一般的に4ng/mL以上が異常とされており、数値が高くなるほどがんの確率は高まります。PSAが10以上だとがんの可能性は相当高いとされています。

ただし、PSAが高いからといって必ずがんというわけではありません。前立腺肥大症や前立腺炎などでもPSA値は上昇することがあります。

MRI検査で何がわかるか

MRI検査は生検前に必須の検査です。現在のMRIは非常に進化しており、複数の撮像法を組み合わせた「マルチパラメトリックMRI」によって、前立腺内の怪しい部分を高精度で確認できます。

怪しいところがあれば次の生検へ進み、なければ経過観察となることもあります。ただしMRIで怪しくなくても小さながんが隠れていることがあるため、主治医の判断によっては生検を行う場合もあります。

確定診断のための前立腺生検

がんの確定診断には前立腺生検が必要です。肛門から超音波のプローブを挿入し、バイオプティーガンという特殊な針で前立腺の組織を採取します。局所麻酔または全身麻酔で行われ、1回の検査で10~20カ所から組織を採取するのが一般的です。

最近では、MRI画像を取り込んで超音波画像に重ね合わせることで疑わしい部位をより正確に把握する技術(MRI・超音波融合生検)も普及しており、より精度の高い組織採取が可能になっています。

診断されたらまず知るべきこと

病期とグリソンスコア

前立腺がんと診断された場合、まず理解すべきなのが「病期」と「悪性度」です。沼尾医師は「『前立腺がんになった』と言っても、一体どんな状況なのかは人によって全く違います」と述べ、その重要性を強調しました。

前立腺がんの病期はABCDの4段階で分類されます。AとBはがんが前立腺の中にとどまっている状態、Cは転移はないが前立腺の外に出ている状態、Dは転移がある状態です。

組織検査によるがんの悪性度を示すのがグリソンスコアで、6から10の範囲でスコアリングされます。スコアが高いと増殖速度が速く命を脅かすがんとなり、逆にスコア6程度であれば“おとなしい”がんで、経過観察の対象となることもあります。

リスク分類と予後

転移のない前立腺がんでは、グリソンスコア、PSA値、局所の進展度を組み合わせてリスク分類を行います。「ローリスク」「インターミディエイト(中間)リスク」「ハイリスク」に分類され、これによって治療方針が決まってきます。

予後については、転移がない前立腺がんの5年生存率はほぼ100%に近い一方、遠隔転移がある場合は53.4%まで低下します。沼尾医師は「ローリスクの人はほとんど亡くなっていません。転移がない方は、寿命の方が先に来てしまうことも多いです」と述べました。

編集部まとめ

前立腺がんは現在、日本人男性のがん罹患数1位であり、9人に1人が罹患する身近な疾患です。しかし沼尾医師が指摘するように、その全体像を正しく理解している人は少なく、さまざまな誤解も存在します。

50歳以上の男性はPSA検診を受けることが推奨されていますが、過剰診断・過剰治療というデメリットも理解した上で受けることが大切です。PSAが高値だった場合も、MRI検査や生検を経て正確な診断が行われます。診断後は病期とグリソンスコアを理解し、自分のがんがどのような状態にあるのかを把握することが、適切な治療選択の第一歩となります。

関連情報
主催:公益財団法人がん研究会有明病院
セミナー名:報道関係者向けセミナー「前立腺がんを知る~疾患の特徴と最新の治療選択肢~」
講師:沼尾昇 医師(がん研有明病院 泌尿器科 担当部長)

この記事の監修医師