「橋本病」の初期症状は見逃しやすい? 冷え・むくみ・疲れの裏に潜むサインとは

冷えやむくみ、便秘、疲れやすさといった症状は、日常生活の中でよくあることとして見過ごされがちです。しかし、こうした不調の背景には、「橋本病」という甲状腺の病気が隠れていることがあるようです。特に女性に多く、発見が遅れると強いだるさや体重増加など生活に大きな影響を与えることも少なくありません。今回は、橋本病の特徴や初期症状の見分け方、受診の目安や日常生活での注意点について、よこすか甲状腺内科クリニックの向笠浩司先生にお話を伺いました。

監修医師:
向笠 浩司(よこすか甲状腺内科クリニック)
橋本病とは? 女性に多い理由と特徴

編集部
はじめに、橋本病とはどのような病気なのか教えてください。
向笠先生
橋本病は、自分の体を守る免疫が誤って甲状腺を攻撃してしまう自己免疫の病気と考えられています。甲状腺は首の前にあり、体の代謝をコントロールするホルモンを作る臓器です。橋本病では、甲状腺が攻撃を受けて壊れ、その後に修復を繰り返すことで、正常な細胞が徐々に減っていきます。その結果、ホルモンを作る力が弱まり、甲状腺ホルモンの分泌が減少します。
編集部
橋本病とはどのような症状が見られる病気ですか?
向笠先生
橋本病では、ホルモンが不足して体の働きが遅くなるような症状が出ます。代表的なのは疲れやすさ、冷え、むくみ、便秘、気分の落ち込みなどですね。髪が抜けやすい、皮膚が乾燥する、声がかれるなどの症状が見られることもあります。こうした症状は年齢や更年期による不調と似ているため、見過ごされやすい点に注意が必要です。
編集部
橋本病は特に女性に多いと言われますが、その理由は何でしょうか?
向笠先生
橋本病は女性に多いことが知られていますが、その理由はまだはっきりとは分かっていません。妊娠や出産など、女性特有のホルモン変化が免疫のバランスに影響しているのではないかと考えられています。実際、橋本病は自己免疫の関与が疑われる病気のひとつで、免疫が過剰に反応することが原因とされています。30〜50代の女性に多いものの、年齢に関係なく起こる可能性があります。
橋本病の初期症状と受診の目安を知る

編集部
橋本病の初期症状にはどんな特徴があるのか教えてください。
向笠先生
初期症状はとても日常的で、よくある不調と区別がつきにくいことが特徴です。たとえば、だるさが続く、手足や顔がむくむ、冷えや便秘が強くなるなどです。髪の毛が抜けやすい、肌が乾燥しやすいといった変化もあります。こうした症状が複数重なっている場合や長引く場合は、甲状腺の病気を疑うべきサインです。
編集部
症状が軽いと気づかれにくいこともあると思いますが、どのようなサインが出たら病院を受診すべきでしょうか?
向笠先生
年齢のせい、疲れがたまっているだけと思い込んでしまう方も多いですが、症状が何週間も続く場合は一度検査を受けましょう。特に、食事量は変わらないのに体重が増えてきた、顔やまぶたがむくむ、強い倦怠感や気分の落ち込みがあるときは注意が必要です。健診で甲状腺の異常を指摘されたときも、早めに受診すると安心です。
編集部
橋本病が疑われる症状を放置した場合、どのようなリスクがありますか?
向笠先生
橋本病を放置すると、甲状腺ホルモンの不足が進んで「甲状腺機能低下症」になることがあります。ホルモンが極端に減ると、体温や心臓の働きが低下し、強いだるさやむくみ、動作の遅れ、気力の低下などが出ます。重症になると、心臓の機能が落ちて心不全を起こすこともあり、命に関わる危険があります。早めに診断して治療を受ければ、こうした重症化する前にコントロールすることが可能です。
橋本病の検査・治療と日常生活のアドバイス

編集部
健診や血液検査で橋本病が疑われる場合、どのような数値や所見が出るのでしょうか?
向笠先生
橋本病では、血液検査で甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高く、遊離サイロキシン(FT4)が低い傾向が見られます。これに加え、甲状腺を攻撃する抗TPO抗体や抗サイログロブリン抗体が陽性になることがありますが、これらは病気の原因というより“結果”として現れる現象とされています。エコー検査では、甲状腺全体が腫れて見えたり、しこりが確認されたりする場合があります。また、甲状腺の状態が妊娠や出産、不妊に関係することもあるため、女性は特に注意が必要です。
編集部
橋本病と診断された場合、どのような治療や経過観察がおこなわれるのでしょうか?
向笠先生
橋本病自体を治す薬はありませんが、甲状腺ホルモンが足りないときは「ホルモンを補う薬」で治療します。薬は毎日服用し、体に必要なホルモンを補うイメージですね。数値が軽い場合や症状がほとんどない場合は、定期的に血液検査をして経過を見守ります。多くの方は、治療を受けることで普段と同じような生活を送ることができます。
編集部
橋本病と診断された方が日常生活で気をつけた方が良いことはありますか?
向笠先生
特別な食事制限などは基本的に必要ありませんが、海藻類など過剰なヨウ素の摂取には注意が必要です。体調の変化に気づいたら無理をせず主治医に相談しましょう。疲れやすい時期には休養を取り、バランスの良い食事や適度な運動を心がけることが大切です。薬を処方された場合は自己判断で中断せず、指示通りに服用してください。妊娠を考えている方は、甲状腺の状態が母体や赤ちゃんに影響するため、必ず医師に相談しましょう。
編集部まとめ
橋本病は、女性に多い病気でありながら、症状がゆるやかに現れるため気づきにくいことが特徴です。放置すると甲状腺ホルモンが大きく低下し、心臓の働きにも影響を及ぼすことがあるとのことでした。一方で、早期に診断して適切に管理することで、普段どおりの生活を送ることができる病気でもあります。本稿が読者の皆様にとって、橋本病への理解を深め、早めの受診につながるきっかけとなりましたら幸いです。
医院情報

| 所在地 | 〒238-0011 神奈川県横須賀市米が浜通1-7-2 サクマ横須賀ビル1階 |
| アクセス | 京浜急行本線「横須賀中央」駅より徒歩5分 |
| 診療科目 | 甲状腺内科 |



