【闘病】腰の激痛は「ぎっくり腰」ではなく『血液のがん』のせいだった《多発性骨髄腫》

話を聞いたのは、多発性骨髄腫で闘病を続けている古田千博さん。多発性骨髄腫は骨髄にある形質細胞ががん化することで、異常な存在である骨髄腫細胞が増加してしまう血液のがんです。多発性骨髄腫は正常な血液細胞の生成を阻害するだけでなく、骨の破壊や骨折、感染症のリスクなどさまざまな悪影響を与えます。古田さんの体験から、多発性骨髄腫についての理解を深めていきましょう。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2025年4月取材。

体験者プロフィール:
古田 千博さん
60代男性。検査で多発性骨髄腫のR-ISS StageⅢであることが判明し、化学療法治療を約5カ月間実施した。現在は月1で受診を継続している。
転ばぬ先の杖のがん保険、定期的な健診の重要性

編集部
まず、古田さんがご自身の闘病体験を通して一番伝えたいことは何でしょうか?
古田さん
必ずしっかりとした医療保険(がん保険)に入っておいた方がよいということ。特に地方在住の人は、私のように多発性骨髄腫と診断された場合、遠隔地での入院治療が必要になる可能性がありますから、がん保険に加入して経済的な負担に備えておくと安心できると思います。また、毎年健康診断を受けて、少しでも異常があれば詳しく検査をしてもらうことも大切です。
編集部
では、多発性骨髄腫とはどのような病気なのかを教えてもらえますか?
古田さん
多発性骨髄腫(Multiple Myeloma:MM)とは、血液がんの一種です。悪性リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫が3大血液がんとされており、その中の1つです。多発性骨髄腫は高齢者の罹患率が高い病気であり、形質細胞ががん化して、Mタンパクという役に立たないものを過剰に作り出します。その結果、高カルシウム血症、腎不全、貧血、骨病変の頭文字を取ったCRABと呼ばれる症状が出てきます。現代医療でも完治できる病気ではありませんが、近年さまざまな治療法が開発され、長く生存できる可能性も高まりつつあります。
編集部
多発性骨髄腫が判明した経緯を教えてください。
古田さん
2021年4月、自宅2階から階段を降りていると腰に激痛が走りました。ぎっくり腰だと思いましたがなかなか改善せず、病院で血液検査を依頼したところ、腰椎の圧迫骨折が判明。思い返せば、それ以前から全身の骨に痛みがあったり、すぐに息切れしたりと体の異変を感じていました。また、過去の人間ドックでは総蛋白とアルブミンの値に異常を指摘されていたこともあり、検査を受けることにしました。その結果、多発性骨髄腫が判明しました。
編集部
多発性骨髄腫が判明した際、医師からはどのような治療方針の説明があったのでしょうか?
古田さん
私の場合、造血幹細胞の自家移植ができそうということで、まずはそれを目指すと説明されました。そして実際に移植をおこなった後は、思ったより効きがよくなかったため、すぐに地固め療法に入ることになりました。さらに、地固め療法の効果も徐々に薄くなってきたため、CAR-T療法をおこなうという流れでした。
編集部
具体的にはどのような治療をおこなったのか教えてもらえますか?
古田さん
まず私の診断結果ですが、「R-ISS Stage III IgA型 ハイリスク遺伝子異常あり - del(17p) (17p欠損)、 t(11:14)[11番、14番転座]」というものでした。del(17p)はハイリスク染色体異常のひとつで、この染色体異常があると、病気の進行が早いとされています。
編集部
ありがとうございます。ではあらためて治療について教えてください。
古田さん
2021年4月の診断後、すぐに大学病院に入院し、VRd(ボルテゾミブ、レナリドミド、デキサメタゾン)療法を開始しました。5月末には退院して地元の病院でVRdを継続しました。その後、7月に再び大学病院に入院してエンドキサン大量療法、自家移植のための細胞採取も2日間で2回おこない、3回分採取できました。この頃から脱毛も始まりましたが、さらに8月にはメルファラン大量療法を前処置とした自家移植(ASCT)、もおこないました。口内炎予防のクライオセラピーも行いましたが 、さまざまな副作用も現れてつらい時期でした。
編集部
副作用にはどのようなものがあったのでしょうか?
古田さん
先ほど話した脱毛に加え、治療後も3週間ほどはほとんど食事が摂れなくなり、微熱と倦怠感もピークでした。また、無事に自家移植は生着したものの、左足首に筋肉痛のような強烈な痛みとともに血栓が出現しました。幸いにも肺に血栓が飛ぶことはなかったため、肺塞栓にはなりませんでしたが、もし肺塞栓になっていれば命に関わっていたかもしれません。
編集部
その後はどのような経過を辿ったのでしょうか?
古田さん
9月上旬に一度退院した後、再び入院してISA-Pd(イサツキシマブ、ポマリドミド、デキサメタゾン)療法をおこない、10月上旬に退院しました。それから地元の病院に隔週で通院してISA-Pd療法を継続し、2年ほど落ち着いた状態が続きました。しかし、2023年11月の検査でMRD(微小残存病変)が陰性とはならず、多発性骨髄腫は寛解にいたりませんでした。
編集部
良好というわけではなかったのですね。
古田さん
2024年1月にはIgAが徐々に増加して病気の再燃となりました。それに伴ってセカンドオピニオンも受けることにして、さまざまな選択肢の中からCAR-T療法を受けることにしました。74回のイサツキシマブやKd(カルフィルゾミブ、デキサメタゾン)療法などを受けて、10月にCAR-T療法を受けました。副作用で39℃を超える高熱や耳下腺の腫脹、喉の痛み、大量の痰、食欲不振などもありましたが、何とか乗り切りました。
編集部
現在はどのような治療をおこなっているのでしょうか?
古田さん
幸いCAR-T療法で多発性骨髄腫は寛解したため、現在は抗がん剤治療を行っていません。しかし、治療の影響で免疫機能が低下しているため、地元の病院を隔週受診し、感染を防ぐためにIgG(免疫グロブリン)の数値に応じてキュービトル(pH4処理酸性人免疫グロブリン)を皮下注射しています。また、感染予防や副作用の軽減を目的に、アシクロビル、ダイフェン、ランソプラゾール、人参養栄湯(にんじんようえいとう)も内服しています。
普段の生活にも注意を払い、感謝の気持ちを行動にしている

編集部
多発性骨髄腫と宣告されたときは、どのような心境だったのでしょうか?
古田さん
医師から説明を受けたときは、「ポカーン??」としてしまいました。なにしろ、病名すら知らない、聞いたことがないものでしたから他人事のように思えました。告知されたときは、むしろ家族のほうがショックの大きい様子でした。しかし、病気について自分で調べていくうちに、ことの重大さがわかってきました。ただ、同時に「病気になったのは仕方がないから、なるようにしかならない」「もうヤケクソで頑張るしかない」と腹をくくることもできました。
編集部
発症後に生活にどのような変化がありましたか?
古田さん
入退院を繰り返し、通院も続いて体力もガタ落ちで以前のような生活は送れなくなりました。ただ、些細な楽しみや喜びを敏感に感じられるようになり、あらゆることに感謝の気持ちを持って毎日を大切に過ごすようになっています。
編集部
現在も治療中ではあると思いますが、治療でつらかった時期に心の支えになったものは何でしょうか?
古田さん
家族の励ましです。本当によくサポートしてくれました。自宅から入院先の他県の大学病院、転院先の病院までどちらも車で1時間半程度かかります。それでも家族は私の顔を見るために何度も来てくれました。また、抗がん剤治療中は大学病院の近くのアパートまで借りてくれたのには感激して、「こりゃ頑張らんといけん!」と思いました。退院してからも自宅の生活環境をバッチリ整えてくれたので、感謝しかありません。
編集部
予想外の発症だったかと思いますが、過去の自分に伝えられることがあるとしたら何を伝えたいですか?
古田さん
「健康診断の結果を疎かにしないこと」です。私は日々の忙しさにかまけて健診を大事にしてきませんでした。普段健診や人間ドックを受けていない人にも言えることですが、定期的に自分の体をチェックしてほしいです。
編集部
現在の生活の様子や日々取り組んでいることも教えていただけますか?
古田さん
倦怠感はありますが、一応普通といってもよい生活ができています。以前は旅行やスノーボードをしによく出掛けていましたが、今は無理ということで、家で大人しくしていることが多くなったのは残念です。ですが、幼い孫たちが近くに住んでいて顔を会わせることもできますから、それが楽しみになっています。また、できる範囲で家事もして、家族への感謝の気持ちを示しつつ、自分自身の体が鈍らないようにしています。そして、特に気を付けているのは免疫グロブリンが低いことでかかりやすくなっている感染症です。家族も配慮してくれていて、これまでに何度か風邪で発熱したこともありますが、大事には至っていません。家族には感謝しつつ、このまま頑張っていきたいです。
編集部
現在は仕事に復帰しているのですか?
古田さん
仕事は体調面からとても無理なので、軽い掃除や洗濯など、できる家事はしようと心掛けています。趣味として以前からチェスが好きなので、オンライン対戦を楽しむ時間もあります。本当は仕事ができないぶん、もっと散歩などで外に出掛けないといけないとは思っているのですが、難しいところです……。また、骨折予防のためビスホスホネートのゾレドロン酸をしばらく使っていた影響もあり、顎骨壊死のリスクがあるそうです。そのため、最悪の場合は顎の骨が溶ける危険もあるので、口腔衛生に気を付けて定期的に歯科の受診などもしています。
多発性骨髄腫を広く知ってほしい

編集部
多発性骨髄腫について詳しく知らない、わからない人、普段から病気を意識していない人に伝えたいことは何でしょうか?
古田さん
いつ誰がどんな病気や事故に遭うかわからないですから、他人事と考えずに気を付けて毎日を大切に過ごしてください。私自身は「もっと体を大事にして健診も受けていれば」と後悔したからです。
編集部
ご自身の闘病体験を通して、医療従事者に望むこと、期待することはありますか?
古田さん
病院スタッフの皆さま、多忙を極める中、懸命に仕事(治療)にあたってくださり感謝しかありません。むしろ過労で倒れないかと心配です。無理をなさらないでください。強いて要望を挙げれば、もう少しゆっくり病気や薬剤、治療の説明をしていただけると助かります。今でこそ自分で調べて知識を吸収しましたが、医療の知識が全くなかったときは説明を受けても理解できなかったからです。
編集部
最後に読者へ向けてメッセージもお願いします。
古田さん
俳優の佐野史郎さん、経済評論家の岸博之さん、漫才師の宮川花子さんも同じ病気と闘っておられます。多発性骨髄腫患者さんとご家族の皆さまには、とにかく頑張りましょうと言いたいです。そして、患者会への入会を強くおすすめします。いろいろと相談に乗ってもらえて、有益な情報を得られますので。
編集部まとめ
多発性骨髄腫は中高年以上に発症する人が多く、貧血や骨折、感染症といった症状で発見されるケースが多い疾患です。初期症状がわかりにくい血液疾患ですが、日頃から健診をおこなっておくことで早期発見につなげることもできます。定期的な健診を始め、自分自身の体とも真っ直ぐに向き合い、小さな違和感も見逃さないことが大切です。また、多発性骨髄腫のような血液のがんに使用される抗がん剤は高価なことが多いため、がん保険への加入や見直しをしておくことも意識しましょう。
なお、メディカルドックでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。

記事監修医師:
鎌田 百合(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。



