眼科医が教える「白内障手術のレンズ選び」 多焦点眼内レンズが向いているのはどんな人?

遠くの景色も、手元の文字も、1枚のレンズでくっきり見える「多焦点眼内レンズ」。老眼鏡や遠近両用に代わる新しい選択肢として注目されています。今回は、その独自の仕組みと、どんな人に向いているのか、使用にあたっての注意点などを「みたに眼科クリニック」の三谷先生にお聞きしました。

監修医師:
三谷 貴一郎(みたに眼科クリニック)
多焦点眼内レンズとは?

編集部
まず、多焦点眼内レンズについて教えてください。
三谷先生
多焦点眼内レンズとは、白内障手術で使用するレンズの一種です。白内障で濁った水晶体を取り除き、その代わりに人工の眼内レンズを挿入する際に使用します。もともとは、近方と遠方の2焦点をつないで、どちらにも焦点を合わせられるレンズとして登場しました。ただ近年は、それでは中間距離のものが見づらいという人が多かったので、3焦点レンズも登場しています。また、まだ日本では承認を得られていませんが、海外では5焦点レンズもあります。
編集部
単焦点眼内レンズとの違いはなんですか?
三谷先生
単焦点眼内レンズは、遠くか近くのどちらか一方に焦点を合わせます。その一方、多焦点眼内レンズは遠くと近くの両方にピントを合わせることができるレンズです。多焦点眼内レンズは主に白内障手術の際に用いられます。
編集部
眼内レンズは、単焦点か多焦点か選ぶことができるのでしょうか?
三谷先生
はい。単焦点眼内レンズは、焦点が1カ所にしか合わないため、遠くにピントを合わせると手元のスマートフォンや細かい文字を見るときに老眼鏡が必要になります。反対に、手元にピントを合わせると、遠くを見るときにはメガネが必要です。一方、多焦点眼内レンズは、手元から遠くまで幅広くピントが合いやすく、ほぼメガネなしで日常生活が可能です。そのため単焦点眼内レンズと比べて、生活の質(QOL)を高めたい人に選ばれる傾向があります。
編集部
多焦点眼内レンズを入れるとメガネが不要になるのはいいですね。
三谷先生
多くの人がメガネを使わずに日常生活を過ごせるようになりますが、完全にメガネが不要になるわけではありません。例えば、楽器を演奏する人の場合、譜面台の距離は「中距離から近距離の中間」にあたり、この距離が見にくい場合は、多焦点眼内レンズを使用していても、譜面台に合わせた専用のメガネが必要になることがあります。「日常生活ではほとんどメガネなしで過ごせますが、特定の作業や趣味のときだけ専用のメガネを使うことがある」というイメージです。
多焦点眼内レンズの仕組み

編集部
多焦点眼内レンズは、どのようにピントを合わせているのでしょうか?
三谷先生
多焦点眼内レンズはレンズの表面構造を工夫し、2カ所あるいは3カ所の焦点にわたって分散させることで、それぞれの距離に応じてスムーズな見え方を実現しています。
編集部
見え方で困ることはありますか?
三谷先生
夜間の光ににじみ(ハロー)やまぶしさ(グレア)を感じる可能性はあります。こうした現象は単焦点眼内レンズでも起こりますが、一般に多焦点眼内レンズの方が頻度は高く、程度も大きいとされています。
編集部
ハローやグレアは日常で支障となることがありますか?
三谷先生
初期のものと比べて最新の多焦点眼内レンズでは、ハローやグレアが大幅に改善されています。手術直後は光のにじみを強く感じることはあるものの、脳がその見え方に少しずつ順応するため、早い人で2~3週間もすれば次第に気にならなくなってきます。
編集部
そのうち、その見え方に馴染んでくるのですね。
三谷先生
ただし、ハローやグレアの感じ方には個人差があります。性格や神経質さ、夜間運転の頻度なども影響するため、同じ基準では比較することができません。そのためにも、多焦点眼内レンズ手術の経験が豊富で、患者さんの反応をよく聞いている医師に相談することが大切です。
編集部
乱視にも対応していますか?
三谷先生
最近では、乱視矯正機能を持った多焦点眼内レンズも登場しています。これにより、もともと乱視がある人でも、よりクリアな視界を得ることが可能になります。
多焦点眼内レンズの適応条件

編集部
多焦点眼内レンズが適している人の特徴はありますか?
三谷先生
特に「日常生活でメガネをかけたくない」「遠くも手元も快適に見たい」という希望がある人におすすめです。一方で、眼底疾患や緑内障で強い視野異常がある人などは、慎重な判断が必要な場合もあります。また、極端な近視の場合にはそれに合うレンズが製造されていない場合もあるので、医師に相談してください。
編集部
特に向いているのは、どのような人でしょうか?
三谷先生
メガネやコンタクトレンズを使いたくない人や、強度近視の人にとって、多焦点眼内レンズ手術は生活の質を大きく変える可能性があります。子どもの頃からメガネやコンタクトレンズを使ってきた強度近視の人の場合、「まさかこの年で、メガネやコンタクトレンズなしで過ごせるようになるなんて!」と驚き、自由な生活を取り戻した喜びを感じる患者さんも多いですね。
編集部
逆に適さないケースはありますか?
三谷先生
目に入った光のエネルギーは網膜に届く際に若干のロスがありますが、例えば単焦点眼内レンズでは、ほぼ100%に近い光が1カ所に届きます。これが多焦点眼内レンズになると、光のエネルギーが遠くと近くに分配されます。2焦点レンズでは遠くが6、近くが4のように分けられますし、3焦点レンズになると遠・中・近の3カ所に分配されるため、1カ所あたりに届く光の量はさらに少なくなります。そのため、明るい場所ではあまり影響がありませんが、薄暗い場所で細かい作業をおこなう場合は、見えにくさやコントラスト感度の低下を感じることがあります。
編集部
単焦点眼内レンズの方が、視野がクリアと言われるのはそのためですね。
三谷先生
はい。単焦点眼内レンズでの見え方は、高画質のテレビのようにクリアで鮮明なイメージです。その一方、多焦点眼内レンズはほぼメガネなしで広い距離が見えますが、画質のシャープさは単焦点眼内レンズに劣ります。そのため、神経質な人や細部にこだわる人には、多焦点眼内レンズは向かないかもしれません。
編集部
費用は保険適用されますか?
三谷先生
多焦点眼内レンズのなかには、選定療養対象のものもあります。その場合、手術費用については健康保険が適用されますが、多焦点眼内レンズの代金や、レンズを挿入するのに必要な追加検査の費用などは自己負担となります。自己負担の金額は医療機関によって異なるので、詳しくは医師に確認しましょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
三谷先生
約5年前までは、先進医療特約付き生命保険で多焦点眼内レンズが保険適用となっており、多焦点眼内レンズを希望する人は多くいました。現在、その数は減っていますが、実際に使用した医師のなかには術後のハローやグレアに驚きながらも「自分には多焦点眼内レンズの方がいい」と確信した人もいます。目は生活において非常に重要で、私たちが受け取る情報の8割以上が視覚から入ってきます。実際、多焦点眼内レンズを使うことで、今まで気づかなかったものが見えるようになり、性格や気分にまで変化を感じる患者さんも多くいます。多焦点眼内レンズか、それとも単焦点眼内レンズか悩んでいる人は、ぜひ白内障の治療経験が豊富な医師に相談してみてください。
編集部まとめ
多焦点眼内レンズは、手元から遠くまで幅広くピントが合いやすく、ほぼメガネなしで日常生活が可能です。最新のレンズは見え方が改善され、生活の質向上が期待できるというメリットもあるとのことでした。「クリアな視野の単焦点眼内レンズ」か「メガネなしの生活を楽しめる多焦点眼内レンズ」か、どちらを選択するか迷ったら信頼できる医師に相談してみましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒243-0401 神奈川県海老名市東柏ケ谷5-18-19 |
| アクセス | 相鉄線「さがみ野駅」徒歩5分 |
| 診療科目 | 眼科 |



