「人工授精」の妊娠率は何%かご存じですか? 成功率を高めるためにできることも医師が解説!

現在、妊活中のカップルのなかには、「人工授精(IUI :intra uterine insemination)」を検討している人もいると思います。そんなときに気になるのが、人工授精で妊娠できる確率です。一体、どれくらいの確率で妊娠に至るのかについて、「藤沢IVFクリニック」の佐藤卓先生に解説していただきました。

監修医師:
佐藤 卓(藤沢IVFクリニック)
人工授精で妊娠できる確率

編集部
人工授精では、どのくらいの確率で妊娠できるのでしょうか?
佐藤卓先生
人工授精の妊娠率について、原因不明の不妊症カップル(1~2年間程度通常の性生活を送っていても、妊娠に至らないカップル)では、周期ごとに7~10%程度であることが知られています。
編集部
思ったより高くないという印象があります。
佐藤卓先生
男性側に原因のある乏精子症のカップルや、性交渉に何らかの問題のある性交障害のカップルではもう少し高い数字も期待されますが、前提としてヒトは妊娠しづらい生き物であることを理解していただきたいと思います。
編集部
どういうことでしょうか?
佐藤卓先生
検査の陽性所見がない健常なカップルでさえ、周期あたりの受胎率(妊娠・出産まで至る割合)は、20%程度にすぎないのです。この20%にいかに近づけることができるかという観点で、それぞれの治療法の成功率を比較しなければ、提案される診療の意義を見誤る可能性があります。毎周期あたりの成績が8%程度であるとすれば、上述の通り4周期までに出生に至る人は38%程度、1年間であれば63%となります。
編集部
人工授精を長く続けても、必ず妊娠に至るわけではないのですね。
佐藤卓先生
確実ではないからといって、人工授精には意味がないとは言いきれませんが、このような事実を理解した上で人工授精を選択するか、続けるのかを決めるのは個人の価値観によります。4周期目までの理論上の累積生児獲得率である63%という数字を高いと感じるか、そうではないと感じるかは、個人ごとに異なるでしょう。
編集部
どれくらいの期間、人工授精を継続することが推奨されているのでしょうか?
佐藤卓先生
質の高い複数の臨床研究の結果と欧米の学会によるガイドラインに基づけば、「人工授精を実施するなら、まずは3周期程度まで試みて、その後の継続は慎重に判断する」という方針が立てられています(※1)。
編集部
日本ではどのような認識が一般的ですか?
佐藤卓先生
我が国では「5~6周期程度を実施して妊娠に至らなければ、体外受精(IVF)にステップアップする」という方針が提案されやすいように思います。これには、例えばその施設で人工授精により妊娠した女性の9割以上が、6周期目までに到達していることを根拠として、あたかもそれ以上、人工授精を継続することが無効であるかのような説明がなされます。
編集部
たしかに日本では、「5~6周期程度まで人工授精で妊娠できなければ、次は体外受精」というように、ステップアップするのが一般的のように思います。
佐藤卓先生
しかし、この理論には問題点もあります。6周期以降の人工授精を継続せず、体外受精に誘導しているとすれば「人工授精で妊娠する事例のほとんどが6周期目までに到達している」のはむしろ当たり前のことです。このような「妊娠した人に限ったデータ」は、治療前の意思決定にはほとんど意味がなく、治療の効果や予測には使えません。
編集部
実際には6周期を過ぎても妊娠に至らない人は、人工授精から体外受精へ切り替えることが多いため、6周期以降の人工授精の成績がわからないのですね。
佐藤卓先生
7周期目も8周期目も、10周期目でさえも周期あたりの生産率にはやはり変わりがなく、7~10%程度までは保たれているはずです。実際、WHO(世界保健機関)が作成した人工授精に関するガイドライン案(2018)では、「人工授精を最大何周期まで実施すべきかについて、現時点では一律に提案することができない」と結論づけています(※1)。
編集部
そうなると、「いつまで人工授精を続けるべきかは個人の判断による」ということになりますね。
佐藤卓先生
はい。そのため、人工授精をおこなう際には「クリニックの診療の提案が画一的なものではなく、自分たちの個々の状況や希望が反映されたものになっているか」を、よく吟味することが大切です。近年では、原因不明の不妊症カップルに対して、むしろはじめから体外受精の実施を推奨する専門家も増えてきています。
編集部
はじめから体外受精をおこなうこともあるのですね。
佐藤卓先生
「たとえ3周期だけでも人工授精に費やすことなく、早目に体外受精を開始することによって大きなメリットがもたらされるカップルは確実にいるはず」という考え方があるからです。どちらも間違いではなりませんが、最終的にはご自身で決めきらなければなりません。
人工授精はどんな人におすすめの治療法?

編集部
そもそも、人工授精とはどのような治療法ですか?
佐藤卓先生
男性パートナーから採取された精子を洗浄・濃縮し、子宮の奥に直接注入する方法です。
編集部
どのような人に対しておすすめですか?
佐藤卓先生
最も効果が高いと考えられるのは、精子の細胞数が少なめの「軽度の乏精子症」の男性患者や、EDあるいは痛みなどを理由とする性交障害のカップルの事例です。一方、先述したとおり、現在は一定の観察期間中に妊娠が成立しない、原因不明の不妊症カップルに対しても広く実施されています。
編集部
どのようなメリットがあるのですか?
佐藤卓先生
排卵日近くに人工授精を実施することで精子と卵子が出会う、つまり受精の場である卵管内における精子の濃度を高めることにより、受精率を向上させることを主眼としています。つまり人工授精は、用語とは裏腹に「自然妊娠」を目指す技術であるということです。なんらかの理由で体外受精が選択肢にならないカップルには、費用面のみにとどまらない様々なメリットがあると言えます。
編集部
人工授精が自然妊娠を目指す技術であるとは考えもしませんでした。
佐藤卓先生
体外受精以外の方法で妊娠を目指すならば、受精の可能性を高めていくことでしか妊娠は達成できません。そのためには、2つ以上の卵子を排卵させることを目的として、女性には排卵誘発剤を処方することが一般的です。排卵誘発剤を併せて使用することにより、わずかでも確実に自然妊娠の可能性を高めることになります。
編集部
排卵誘発剤を使用することでデメリットはないのですか?
佐藤卓先生
排卵誘発剤の使用は、双子や三つ子を妊娠するリスクがあるというデメリットを伴います。乏精子症や性交障害のカップルを除けば、排卵誘発剤を使用せずに人工授精を実施したとしても、その治療の効果が全く上がらないことにも注意が必要です。
人工授精の成功率を上げるポイント

編集部
人工授精の成功率を上げるためには、どうしたらいいのでしょうか?
佐藤卓先生
繰り返しになりますが、人工授精の成功の鍵は「受精」の可能性を高めていくことです。すなわち、排卵日の当日に人工授精を実施することで卵管内の精子濃度を高め、同時に排卵誘発剤を併用することにより、複数の卵子を排卵させることが成功率を上げる鍵になります。
編集部
そのほか、成功率を上げるためにできることはありますか?
佐藤卓先生
一般に、精子は射出後の3日間程度まで「受精能」を保っていると言われます。これは、排卵日の3日前の性交渉でも妊娠に至る可能性があることを示しています。ただし、乏精子症のカップルにおいては、「精子数」の減少のみならず、個々の精子細胞の「質」もまた良好に保たれていない可能性が考慮されるため、排卵日を厳密に特定する努力も払われます。
編集部
妊娠の成功率を上げるためにできることは、多岐にわたるのですね。
佐藤卓先生
成功率という言葉は、例えば「周期あたりの妊娠率」といった数値で語られがちですが、本来の意味での成功とは、患者さんご自身が「納得のいく選択ができた」「後悔のない時間を過ごせた」と感じられるかどうかにあるのではないでしょうか。そう考えると、たとえ人工授精の継続にこだわらずとも、ご自身の状況や価値観に照らして、早めの体外受精という選択肢を取り入れてみることも、後悔のない妊活のためには必要な判断となるのかもしれません。
編集部まとめ
人工授精にしても体外受精にしても、本来の目的は健康な子どもを授かること。妊娠に至る数字だけを確率論を追い求めるのではなく、「その選択をして後悔がないか」「どんな時間を過ごしたいか」を軸にして考えることも必要です。迷うことがあればぜひ医師に相談し、納得のいく選択をしたいですね。
参考文献:
(1)Cohlen, B., Bijkerk, A., Van der Poel, S. & Ombelet, W. IUI: review and systematic assessment of the evidence that supports global recommendations. Hum Reprod Update 24, 300-319, doi:10.1093/humupd/dmx041 (2018).
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