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職場で「大人の発達障害」はどのように表れてくる? 周囲のサポートの具体例と成功事例も解説

 公開日:2025/09/02

発達障害を抱える社員に対して、職場の適切なサポートは非常に重要です。発達障害が原因で仕事のパフォーマンスに影響が出ることがありますが、環境調整やサポートをおこなうことで、その特性を活かし、仕事をしやすくすることが可能です。そこで、発達障害に対する職場での支援方法や成功事例について、医師の原雄二郎先生(こどもメンタルクリニック芝)に話を聞きました。

原 雄二郎

監修医師
原 雄二郎(こどもメンタルクリニック芝)

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金沢大学卒業、東京大学大学院医学系研究科公共健康医学(SPH)修了。 東京女子医科大学病院にて卒後臨床研修をしたのち、都立松沢病院、都立梅ヶ丘病院、都立広尾病院、さくらクリニック、上尾の森診療所桶川分院などで経験を積む。そのほか、企業などの産業医、顧問医などの経歴を持ち、現在はこどもメンタルクリニック芝理事長として主に土曜日の診療を担当している。精神保健指定医、子どものこころ専門医、日本精神神経学会専門医。

発達障害って何? 子どもの疾患なのでは?

発達障害って何? 子どもの疾患なのでは?

編集部編集部

発達障害について教えてください。

原 雄二郎先生原先生

発達障害は、脳の一部の機能に障害があることで、コミュニケーションや社会的な適応に困難をきたす状態です。メディアやインターネットの影響もあり、ここ20年ほどで広く認知されるようになってきました。

編集部編集部

具体的にどのような発達障害があるのですか?

原 雄二郎先生原先生

主に3つの発達障害があり、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)です。ADHDは、注意力散漫や過剰な活動が特徴です。ASDは、社会的な相互作用の難しさや特定の興味に対する過度な集中が見られます。LDは、読む、書く、計算することなどの学習に関連する困難が現れる障害です。単独で現れるだけでなく、これらが組み合わさったケースも多くみられます。

編集部編集部

発達障害は子どもだけの問題ではないのですか?

原 雄二郎先生原先生

はい、発達障害は子どもだけの問題ではありません。たしかに、幼少期に特定の症状が現れ、問題となることが多いのですが、大人になってもその特性が残り、社会での適応に困難を感じることが多くあります。また、成人してから職場や家庭で問題が顕在化することがあります。

発達障害に気づくきっかけは…? 医師が解説

発達障害に気づくきっかけは…? 医師が解説

編集部編集部

「成人してから顕在化」とは、具体的にはどのようなケースが多いのでしょうか?

原 雄二郎先生原先生

たとえば、職場での注意散漫や忘れ物、ミスが多い、計画性が欠けている、時間管理がうまくいかない、同僚や上司との衝突が頻繁に起こるなどの状況から、ご自身で「もしかして?」と疑いを持つケースや、家族・上司などに発達障害を指摘されて受診されるケースがあります。

編集部編集部

ほかにはどのようなケースがありますか?

原 雄二郎先生原先生

家庭内で気づくこともあります。たとえば、結婚を機に、配偶者とのコミュニケーションがうまく取れない、家事や自己管理ができず、家がどんどん散らかっていく、金銭管理やスケジュール管理がうまくいかないといったことで発達障害に気づくケースも多く見受けられます。さらに、学校でお子さんの発達障害を指摘され病院を受診し、保護者自身も発達障害を持っていることに気づくなど、子どもを授かってから顕在化することもあります。

編集部編集部

さまざまなケースがあるのですね。

原 雄二郎先生原先生

そうですね。さらに発達障害は、社会に適応するのが難しく、ストレスがかかることが多くあります。その結果、さらに適応障害や不安障害、うつ症状といった精神的不調をきたすことがあります。

編集部編集部

自分が発達障害かもしれないと思ったら、どうしたらよいのでしょうか?

原 雄二郎先生原先生

まず、専門機関での評価を受けることをおすすめします。特に、職場や日常生活で困難を感じている場合は、早期に診断を受けることで、適切な支援が受けやすくなります。治療や支援を受けることで、適応の改善や症状の軽減が期待でき、本人と周囲の人、双方のストレスが軽減されることが期待できます。医療機関にかかるのはやや抵抗があるという人は、自治体の保健センターなどで相談窓口を設けているところもあります。

編集部編集部

医療機関ではどのようなプロセスを経て発達障害と診断されるのでしょうか?

原 雄二郎先生原先生

主に問診、心理検査や行動観察を通じて診断されます。問診では、家族歴や子どもの頃の学習・社会的な困難についても詳しく聞き、診断の参考にします。ほかに、職場に産業医がいる場合は、情報を提供してもらったり、患者さん自身の学童期の通知表を見せてもらったり、保護者に同行してもらって話を聞いたりすることもあります。

発達障害に対してどんなサポート方法がある?

発達障害に対してどんなサポート方法がある?

編集部編集部

検査・診断のあと、どのような治療やサポートをするのですか?

原 雄二郎先生原先生

発達障害の治療は、大きく分けて「薬物療法」と「心理・社会的アプローチ」の2つがあります。薬物療法では、注意力や衝動性といった症状を緩和したり、うつなどの二次的な精神的負担を和らげたりすることを目的とし、心理・社会的アプローチでは、本人の特性に応じた認知行動療法やソーシャルスキルトレーニングなどで、日常生活や対人関係での困りごとへの対応力を高めていきます。あわせて、職場での合理的配慮を受けるための診断書の作成や、周囲の環境調整など社会的な支援も重要な治療の一環とされています。

編集部編集部

職場でのサポートをおこなうこともあるのですか?

原 雄二郎先生原先生

あります。職場の産業医や上司などと連携し、それぞれの特性について書面でお伝えして、「合理的配慮」を要請することがあります。たとえば、「自分の予定が自分で把握しきれず、アポイントメントに穴を開けてしまう」といった人のケースでは、本人にはスマートフォンのリマインド機能やリマインドしやすいアプリなどをおすすめし、上司にも「大事な予定は、電話などでのリマインドをお願いします」とお伝えします。

編集部編集部

そういった工夫でうまくいく事例もあるのですね。

原 雄二郎先生原先生

そうですね。ほかにも、複数の指示や、やや複雑なタスクを課す場合には、ボイスメモを取ったり、スマートフォンで動画や写真を撮ったりすることを許可してもらうことで「抜け漏れ」を大幅に減らすことができたケースもあります。

編集部編集部

最後に、メディカルドック読者へのメッセージをお願いします。

原 雄二郎先生原先生

現在、障害者雇用促進法において、「事業主は過重な負担にならない範囲で障害者に対して合理的配慮を提供する」ことが義務づけられていますが、実際には配慮をしようとするあまり、職場側が多くの負担を強いられることが多くあります。無理をすると双方が疲弊し、破綻するリスクがありますので、そうなる前にぜひ専門家に相談して「持続可能な合理的配慮」を一緒に考えていけたらと思います。私は、職場にも適切なサポートのアドバイスをおこないますが、本人にも「周りが配慮してくれているからうまくやれている」という現状を忘れないよう伝えています。現状を認識することが、本人にとっても非常に大事なのです。

編集部まとめ

大人の発達障害について解説してもらいました。発達障害を抱える社員には、個別の支援だけでなく、職場での環境調整なども重要です。適切な支援をおこなうことで、社員のパフォーマンス向上や職場での適応が可能になります。発達障害が疑われる場合は、早期に専門医の診察を受け、支援方法を相談することをおすすめします。

医院情報

こどもメンタルクリニック芝

こどもメンタルクリニック芝
所在地 〒105-0014 東京都港区芝3-15-13 YODAビル3F
アクセス 都営大江戸線「赤羽橋」駅 赤羽橋口より徒歩3分
都営三田線「芝公園」駅 A-2出入口より徒歩8分
JR「田町」駅 三田口(西口)より徒歩10分
診療科目 心療内科、精神科

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