子どもの斜視・弱視は自然に治らない? 原因や治療法、早期発見のコツを眼科医が解説

子どもの目の疾患の代表である「斜視」と「弱視」。症状の程度によっては手術が必要になることもありますが、手術のタイミングはどう見極めればいいのでしょうか。また、手術以外に選択肢はあるのかも気になるところです。今回は、子どもの斜視・弱視の原因や治療法について、「川口眼科」の蒲山先生に解説していただきました。

監修医師:
蒲山 順吉(川口眼科)
子どもに斜視や弱視が起きる原因

編集部
まず、斜視について教えてください。
蒲山先生
斜視とは、左右の目が同じ方向を向いていない状態のことです。普通は、両目が同じ物を見て動くのですが、斜視の子どもは片方の目がずれてしまい、内側や外側、上や下を向いてしまうことがあります。目がうまくそろっていないため、見え方に違和感が出たり、物が二重に見えたりすることもあります。さらに、両目で立体的に見たり奥行きを感じたりする「両眼視機能」という力が育ちにくくなります。子どもの約3%にみられます。
編集部
次に、弱視についても教えてください。
蒲山先生
乳幼児期に様々な原因で目が物をしっかり見られないまま過ごすと、脳が「見る力」をうまく覚えられず、大きくなってからも視力が上がらなくなってしまうことがあります。この状態を弱視と呼びます。眼鏡をかけても視力が出ないのが弱視の特徴です。
編集部
なぜ、弱視が起きるのですか?
蒲山先生
子どもの見る力は、出生後に環境からの光の刺激を受けて発達していきますが、この発達過程で左右どちらか、もしくは両目に光の刺激が届かない状態が続くと、見る力が育たなくなってしまうのです。特に乳幼児期は、神経が柔軟に変化して新しい機能を獲得する能力が高いため、些細な要因でも視力発達に影響を与えることがあります。例えば、ケガなどで3日間片目を眼帯でふさいだだけで弱視になってしまう子どももいます。
編集部
弱視の主な原因はなんですか?
蒲山先生
強い遠視や乱視、斜視などのほか、眼瞼下垂、先天白内障、眼窩腫瘍、眼瞼腫瘍などの疾患が原因になることもあります。そのほか、左右の目の度数に大きな差がある不同視という状態も弱視の原因になります。
編集部
成長すれば自然に治ることもありますか?
蒲山先生
残念ながら、斜視や弱視が自然治癒することはほとんどありません。視覚の発達には時期的な限界があり、特に弱視の場合は適切な目への刺激がなければ視力は発達しないからです。「そのうち治るだろう」と様子を見てしまうと、取り返しがつかなくなるケースもあるため、早めの眼科受診が非常に重要です。小学校に入る前までの時期に見つけてあげて、治療を開始することが望ましいでしょう。
斜視・弱視の治療法

編集部
弱視はどのように治療するのでしょうか?
蒲山先生
治療法は原因に応じて変わりますが、まずは弱視を招いた原因を除去します。原因として最も多い遠視や乱視などの屈折異常であれば、眼鏡をかけるだけで視力向上が望めます。不同視の場合には、眼鏡をかけた上で「良い方の目を一時的に隠す」アイパッチ訓練をおこないます。これにより、視力の低い方の目を強制的に使わせることで脳に刺激を与え、視覚の発達を促すことができるのです。見る力を脳が覚えてくれる限界は、およそ8歳までと言われています。幼い子どもに眼鏡やアイパッチを促すには、ご家族の支えと長い目で見守る温かい気持ちが重要です。
編集部
それでは、斜視はどのように治療するのですか?
蒲山先生
斜視のタイプや程度、年齢などによって異なりますが、眼鏡矯正と手術が主な治療法です。
編集部
手術が必要になるケースもあるのですね。
蒲山先生
斜視は単に目の位置がずれているという外見上の問題だけではなく、幼少期は視力や両眼視機能の発達にも影響するため、早期に手術が必要になるケースも多いですね。また、学童期以降では整容面の悩みだけではなく、複視(物が2つに見える)や目の疲れの程度によって手術を選択することもあります。さらに最近は、スマートフォンに起因する後天性の内斜視も増えており、ほとんどが斜視手術の適応となります。
編集部
手術は何歳からできるのでしょうか?
蒲山先生
最も早いものでは、生後6カ月以内に発症する乳児内斜視は1~2歳で手術をする方が好ましいとされています。そのほか、子どもの斜視手術は、視力や両眼視機能の発達の状況と見た目の問題を考慮して適切な手術時期を決めていきます。
編集部
治療期間はどれくらいですか?
蒲山先生
手術自体は比較的短い時間で終わりますが、子どもの目は治療後も刻々と変わっていきます。手術直後は良くても、目の位置が元に戻ってしまう「戻り」が生じたり、「内斜視を治療したら今度は外斜視になっていった」ということが起きたりします。そのため、術後のケアや定期的な経過観察は非常に重要であり、それも含めれば長期的な治療が必要になります。
斜視・弱視を早期発見するためには

編集部
斜視や弱視は、どんなタイミングで見つかることが多いのでしょうか?
蒲山先生
主に、1歳半健診や3歳児健診、保育園・幼稚園での視力スクリーニングで見つかります。また、最近ではスポットビジョンスクリーナー(SVS)という誰でも簡単に扱えて斜視をすぐに検出できる装置が普及してきており、保健所や小児科でも斜視を早期発見できるようになってきました。さらに、ご家族が子どもの写真を見て「片目だけ光の反射が違う」「目の向きがおかしい」と気づくケースもあるでしょう。今や誰もが携帯するスマートフォンの中には、大量の子どもの顔写真が保存されていますが、斜視・弱視の早期発見という観点で見ると宝の山と言えますね。
編集部
症状で気づくこともあるのですか?
蒲山先生
「テレビを近くで見る」「顔を傾ける」「片目をつぶる」など、目の使い方に特徴が出る場合もあります。また、「横目で見る癖がある」「転びやすい」なども、斜視や弱視が隠れているサインとなるケースもあります。
編集部
子どもの自覚症状でわかるケースもありますか?
蒲山先生
後天性の斜視の中には、子どもが「二重に見える」「目がすごく疲れる」と訴えることはあります。ただし、弱視に関しては子どもから「お母さん、見えにくい」と言ってくることはありません。子どもにとっては今の見え方が生まれてからずっと経験してきた「見える」状態なので、成長が止まっているかどうかを自身の見え方では判断できないからです。そのため、周りにいる私たち大人が早期に見つけてあげる必要があるのです。
編集部
早期発見が大事なのですね。
蒲山先生
はい。視覚には、臨界期と呼ばれる発達の限界期があり、およそ8~9歳までに適切な治療をおこなうことが望ましいとされています。時期を見逃さず適切に治療をおこなえば、高い確率で斜視や弱視を治すことは可能です。視力や両眼視機能が育たないまま大人になると、立体的に物を見る力や空間認識力ができないため、生活や仕事に影響する可能性があります。気づいたら早めに医療機関を受診してください。
編集部
早期発見のために、親としてできることはありますか?
蒲山先生
子どもが日常生活で「目を細める」「首をかしげて見る」「よく物にぶつかる」といった様子があれば注意が必要です。とはいえ、日常の中でそうした場面があっても「斜視かな、弱視かな」と考えるのは難しいと思います。定期健診や小児科での視力チェックを忘れずに受けることが大切だと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
蒲山先生
子どもの目の異常は、自分で訴えることが少なく、見逃されやすいのが現実です。しかし、周りにいる大人が早期に見つけて適切な治療をすれば、視力の再発達を促すことができます。斜視や弱視は放置しても自然には治りません。眼科健診を受けることは、将来の見え方を守るためにも重要です。また、近年増えているスマートフォンの使いすぎによる急性内斜視も要注意です。子どもにスマートフォンを見せる際は、時間を決め、距離を保ち、寄り目になりにくい環境を整えてあげましょう。
編集部まとめ
子どもの斜視や弱視は、早期発見と治療が何より大切とのことでした。自覚症状がないことも多いため、周囲の大人が注意して気づいてあげることが重要です。定期的な眼科検診を受け、スマートフォンの使い方にも気をつけることで、将来の視力を守ることにつながります。
医院情報

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| 診療科目 | 眼科 |




