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「糖尿病」と甲状腺ホルモンの“意外な関係”をご存じですか? 血糖値への影響を医師が解説

 更新日:2025/07/16

糖尿病といえば、「血糖値」や「インスリン」との関係を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか? じつは「甲状腺ホルモン」も血糖値を左右する要因のひとつなのだそうです。そこで、糖尿病や内分泌疾患の専門医である山本剛史先生(神楽坂やまもと内科クリニック)に、糖代謝と甲状腺ホルモンの関係などについて、詳しく教えてもらいました。

山本 剛史

監修医師
山本 剛史(神楽坂やまもと内科クリニック)

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2003年昭和大学医学部卒業。昭和大学医学部第一内科入局後、東京急行電鉄株式会社東急病院などを経て、昭和大学医学部糖尿病代謝内分泌内科助教・講師・医局長を歴任。さらに米国カリフォルニア州立大学サンディエゴ校で学び、2024年2月に神楽坂やまもと内科クリニックを開院、院長となる。日本内科学会認定医・総合内科専門医、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本生活習慣病学会管理指導医。

甘いものだけじゃない!? ホルモンも血糖値に影響が

甘いものだけじゃない!? ホルモンも血糖値に影響が

編集部編集部

糖尿病とはどのような病気でしょうか?

山本 剛史先生山本先生

糖尿病は、血液中のブドウ糖(血糖)が慢性的に高くなってしまう病気です。進行すると目や腎臓、神経、心臓などさまざまな臓器に合併症を引き起こすリスクがあります。早期の対処がとても重要になります。

編集部編集部

糖尿病の人は、なぜ血糖値が慢性的に高くなってしまうのですか?

山本 剛史先生山本先生

「インスリン」というホルモンが関係しています。インスリンはすい臓から分泌されるもので、食事で取り入れたブドウ糖(血糖)を体の細胞に取り込ませて、エネルギーとして使えるようにする働きがあります。ところが、糖尿病ではこのインスリンが不足していたり、十分に分泌されていても体がうまく反応できなかったりするため、血液中に糖がたまったままの状態になり、血糖値が常に高くなってしまうのです。

編集部編集部

ホルモンと血糖値が関係しているのですね。

山本 剛史先生山本先生

そうですね。ホルモンは体内の代謝やエネルギーの調節を司る物質なので、血糖値にも深く関係しています。ホルモンバランスが崩れると血糖コントロールにも影響が出るため、ホルモンの値は、糖尿病診療においても重要な要素となります。

編集部編集部

甲状腺ホルモンも、糖に影響を与えると聞きました。

山本 剛史先生山本先生

その通りです。甲状腺ホルモンは代謝全体を活発にする働きがあります。そのため、過剰になったり不足したりすると、血糖値を上昇させることがあります。糖の新生や脂肪代謝にも関わるため、甲状腺機能に異常があると血糖値の上下動が大きくなることがあります。

甲状腺疾患と糖尿病の併発のリスク

甲状腺疾患と糖尿病の併発のリスク

編集部編集部

1型糖尿病と2型糖尿病の違いについて教えてください。

山本 剛史先生山本先生

1型糖尿病は、主に自己免疫の異常によりすい臓のインスリンを作る細胞が壊れてしまうことで発症します。発症年齢が若く、インスリンがほとんど分泌されないため、インスリン注射が不可欠です。一方、2型糖尿病は生活習慣や遺伝が関与し、インスリンの働きが悪くなったり、分泌量が不足したりすることで起こると言われています。

編集部編集部

甲状腺機能異常と糖尿病を併発するケースは多いのですか?

山本 剛史先生山本先生

甲状腺疾患と糖尿病はどちらも内分泌系の病気であり、併発するケースは珍しくありません。実際に糖尿病患者の約10%に甲状腺機能異常があるとも言われています。とくに1型糖尿病では自己免疫性の甲状腺疾患が併発する頻度が高く、2型糖尿病でも中高年を中心に甲状腺機能低下症を併発している人がいます。

編集部編集部

糖尿病で受診したのに甲状腺の検査をすることがあるのはそのためですか?

山本 剛史先生山本先生

そうですね。糖尿病のコントロールがうまくいかない背景に、甲状腺ホルモンの異常が隠れていることがあるのです。とくに「疲れやすい」「むくみがある」「体重が急に増減する」といった症状がある場合には、甲状腺を検査すべきです。甲状腺機能亢進症では、腸での糖吸収が亢進し食後高血糖になるため、ブドウ糖負荷試験が有効ですし、甲状腺機能低下症では空腹時血糖値が上がってくる特徴があるため、ホルモン値も含めた総合的なチェックが必要です。

編集部編集部

甲状腺に対する治療で血糖値は改善されるのですか?

山本 剛史先生山本先生

はい。適切な補充療法で甲状腺ホルモンのバランスが整えば、代謝も正常化し、血糖コントロールが改善されるケースが多くあります。もちろん個人差はありますが、治療によって体調全体がよくなる患者さんは多くいらっしゃいます。甲状腺の病気は見逃されやすい傾向にあるため、検査がとても大事です。

こんな人は要注意! 見逃されやすい甲状腺疾患

こんな人は要注意! 見逃されやすい甲状腺疾患

編集部編集部

甲状腺の病気が見逃されやすいのはなぜですか?

山本 剛史先生山本先生

甲状腺機能に異常があったとしても、出現する症状が「疲労感」や「体重の変化」など、よくある体調不良と重なるためです。とくに中年以降の人では「年齢のせいかな」と思われてしまうことも多く、気づきにくい傾向にあります。繰り返しになりますが、早期発見のためにも、まずは検査が重要です。

編集部編集部

とくにどんな人が甲状腺疾患に気をつけたほうが良いですか?

山本 剛史先生山本先生

甲状腺疾患は女性に多いとされています。また家族に甲状腺疾患がある人や、自己免疫疾患の既往がある人も要注意です。妊娠・出産期に発症する人も多く注意が必要です。

編集部編集部

生活習慣で気をつけることはありますか?

山本 剛史先生山本先生

睡眠、バランスの取れた食事、ストレスのコントロールなどが重要です。内分泌系はストレスに敏感なので、ストレスや生活の乱れが病気の引き金になることもあります。

編集部編集部

最後にメディカルドック読者へのメッセージをお願いします。

山本 剛史先生山本先生

甲状腺の病気は、一般的な健康診断では見つかりにくいことがあります。たとえば「血糖値が高め」と言われた場合、糖尿病だけでなく甲状腺疾患の可能性も考慮しておくことが大切です。どこを受診すればよいかわからないという人は、「内分泌科」などの専門科を、近くの医療機関で探してみてください。

編集部まとめ

糖尿病と甲状腺ホルモンには深い関係があり、どちらか一方の不調がもう一方の悪化を招くこともあるのだそうです。疲れやすい、体重の変化が気になる、薬の効果が実感できない。そんなときは甲状腺機能の検査を検討してみてはいかがでしょうか。

医院情報

神楽坂やまもと内科クリニック

神楽坂やまもと内科クリニック
所在地 〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-12 陶柿園ビル3階
アクセス 「飯田橋」駅B3出口より徒歩2分
診療科目 内科、糖尿病内科、内分泌内科

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