『卵子凍結』に｢年齢制限｣はある？ 基礎知識と知っておきたい注意点を医師が解説

矢野先生

卵子凍結とは、女性の卵子を採取し、将来の妊娠のために凍結保存する技術です。若い年齢のときの、質が保たれている卵子を保管することで、希望するタイミングでの妊娠に備えることが可能になります。

矢野先生

主に二つの目的があります。一つは病気の治療（がん治療など）で将来妊娠が難しくなる人のための「医学的卵子凍結」、もう一つはライフプランに合わせて妊娠時期を選びたい人の「社会的卵子凍結」です。

矢野先生

まだ妊娠を望んでいないが、将来的に子どもを希望している女性に適しています。特に30代前半までの女性では卵子の質がよいため、成功率も高い傾向にあります。

矢野先生

卵子は年齢とともに老化、減少していくため、妊娠確率や流産率は年齢が上がるごとに厳しくなってしまいます。しかし、たとえば20代のときに採取した未受精卵を用いて体外受精した場合、20代の子宮に戻した場合と40代の子宮に戻した場合では成績が大きく変わらないことが報告されています。また、卵子凍結をおこなうことで、妊娠に到達できる可能性が高くなるというメリットもあります。

矢野先生

まずはホルモン検査と卵巣機能の確認をおこないます。次に排卵誘発剤を使って複数の卵胞を育てたあと採卵手術で卵子を取り出し、すぐに凍結保存します。排卵誘発剤を開始してから全体で10日～2週間程度かかります。その前に検査などが必要なので、余裕を持って医療機関に問い合わせてほしいと思います。

矢野先生

経腟超音波で卵巣を確認しながら細い針を刺し、卵胞液とともに卵子を取り出します。鎮静剤や軽い麻酔が使用されるため、強い痛みは感じにくいですが、術後に軽い腹痛や出血があることもあります。

矢野先生

年齢や卵巣機能にもよりますが、十分な卵子数が取れない場合は複数回にわたって採卵をおこなうこともあります。1回の採卵で10～15個程度の卵子凍結を目指すことが多いです。

矢野先生

海外でおこなわれた研究によると、28歳の女性の場合、20個採取すれば94％の確率で妊娠できるとされています。しかし、年齢が上がるごとに少しずつ成功の確率が下がっていくため、34歳なら30個採取すれば95％の確率で妊娠可能、37歳なら40個採取すれば92％の確率で妊娠可能、ということがわかっています。

矢野先生

現在は「ガラス化法」と呼ばれる急速冷凍技術が主流です。これにより氷晶の形成を防ぎ、卵子の構造を壊さずに保存できます。液体窒素中で-196℃の温度下に保管され、長期保存が可能です。

矢野先生

多くの施設では凍結可能な年齢の上限を「45歳未満」と設定しています。ただし、卵子の質を考慮すると、妊娠成功率の観点からは「35歳以下での凍結」が最も推奨されています。

矢野先生

はい。卵巣機能が著しく低下している人や、ホルモン治療にリスクがある人など、一部の人は適応外となる場合があります。医師による事前の診察や血液検査が重要な判断材料になります。

矢野先生

排卵誘発による卵巣過剰刺激症候群（OHSS）や、採卵後の腹痛・出血といったリスクがあります。また、凍結・融解のプロセスが卵子にリスクとなることもあるため、凍結した卵子のすべてが、将来妊娠に繋がるとは限らない点も理解しておく必要があります。

矢野先生

理論上は長期保存が可能ですが、各施設によって保管年数に上限が設定されています。日本生殖医学会の倫理委員会は、妊娠したときの母体のリスクを考え、保管は45歳までとすることを推奨しています。また、更新のたびに費用が発生する場合もあるため、費用や契約内容を事前に確認しておくことが重要です。

矢野先生

卵子凍結に助成金が使えるようになり、以前よりも注目が高まっています。ただし、実際に凍結した卵子を使って妊娠・出産に至ったケースはまだ少なく、今後の動向には注視が必要です。そんな中で特にお伝えしたいのは、若い女性にも「早発閉経」の可能性があるということ。じつは、20代や30代で閉経してしまう人が、全体の2〜3％存在しています。そのため、「自分はまだ若いから大丈夫」と思わずに、20代のうちに一度は検査を受けることをおすすめします。閉経の目安を知るには、「AMH（抗ミュラー管ホルモン）」というホルモンを測る血液検査が有効です。これにより、自分の卵巣年齢や閉経のタイミングの予測ができます。もし早発閉経の可能性があるとわかったら、将来の妊娠の選択肢を残すためにも、若いうちに卵子を凍結しておくことはとても有効です。まずは健康診断の一環として、気軽にAMH検査を受けてみてください。そして、「もし将来、子どもを望むなら……」という視点で、卵子凍結も人生の選択肢の一つとして、ぜひ考えてみてほしいと思います。