最悪の場合は足の切断、失明、透析… 「糖尿病」の合併症はなぜ起こるのか?【医師解説】

糖尿病で怖いのは合併症。合併症を発症すると重篤な後遺症を残したり、命の危機に陥ったりすることもあります。そもそもなぜ、糖尿病は合併症を引き起こすのか、 どのように予防できるのかなど、竹の塚糖尿病内科・ヒフ科の佐藤先生に詳しく教えてもらいました。

監修医師:
佐藤 元律(竹の塚糖尿病内科・ヒフ科)
糖尿病の合併症とは? なぜ、起きるのか?

編集部
糖尿病の合併症とは、どのようなものですか?
佐藤先生
糖尿病による高血糖状態が長期間続き、血管や神経がダメージを受けることで起きるさまざまな症状のことを糖尿病合併症といいます。主に細い血管が障害される神経障害、網膜症、腎症の細小神経障害と、大きい血管が障害される心筋梗塞や脳卒中、閉塞性動脈硬化症などの大血管障害が知られています。
編集部
どうして糖尿病で血管や神経が傷つくのですか?
佐藤先生
高血糖が続くと、血液中の糖が血管の内側を傷つけたり、神経の細胞機能を妨げたりします。特に細い血管は影響を受けやすく、体の末端や臓器への酸素や栄養の供給が滞ることで、障害が起こりやすくなるのです。
編集部
合併症の症状は、すぐに出るものでしょうか?
佐藤先生
いいえ。多くの合併症は、はじめは無症状で進行します。異常に気づいたときには、すでにかなり進んでいることが少なくありません。怖いのは、一度起きてしまった合併症は戻すことができないということです。そのため、自覚症状がないときでも、定期的な検査が重要です。
編集部
すべての糖尿病患者に、合併症が起きるリスクがあるのでしょうか?
佐藤先生
基本的に、血糖値のコントロールが不十分な期間が長いほど、合併症のリスクは高くなります。ただし、合併症の発症には個人差があり、体質も影響します。しかしながら、適切な管理ができていれば、合併症の発症リスクは大幅に下げられることがわかっています。
神経、目、腎臓に起きる糖尿病の合併症とは?

編集部
糖尿病で神経に起こる障害には、どのようなものがありますか?
佐藤先生
糖尿病神経障害と呼ばれ、手足のしびれ、痛み、冷感、感覚鈍麻などが特徴です。また、自覚できない自律神経にも障害が出て、立ちくらみ、発汗異常、下痢、便秘、胃もたれ、排尿障害、男性機能不全などの症状が見られることもあります。さらに進行すると感覚が鈍くなり、けがに気づけず悪化させ、腐って手足の切断が必要になるケースもありえます。
編集部
糖尿病が目に与える影響とは?
佐藤先生
糖尿病の合併症で目に起きるものを糖尿病網膜症といいます。網膜というカメラのフィルムのような場所の細い血管がダメージを受けて出血し、視力低下や失明につながる病気です。現在、糖尿病網膜症は日本人の失明原因の第2位となっています。初期は自覚症状が乏しいため、症状がなくても半年から年に1回は定期的に眼底検査を受けて早期発見することが重要です。
編集部
腎臓の合併症について教えてください。
佐藤先生
糖尿病の合併症として腎臓に起きるものを糖尿病性腎症といいます。腎臓は血液を濾過して不要な物質を尿として体外へ捨てたり、必要な物質を体内に戻して体の水分や塩分を調整したりする臓器ですが、糖尿病性腎症が進行すると必要な物質である尿蛋白が捨てられてしまったり、水分調整ができなくなったりします。最終段階まで進行すると、むくみ、息切れなどの自覚症状が現れ、最終的には透析が必要になります。大切なのは、糖尿病性腎症も初期自覚症状が全くないため、定期的な尿検査や血液検査が重要になります。
編集部
これらの合併症は同時に進行することもありますか?
佐藤先生
はい。通常は神経、目、腎臓の順番で合併症が出現しますが、血糖値のコントロールが不十分な状態が長期間続くと、複数の合併症が並行して進行することもありえます。そのため、血糖値だけでなく、神経・眼・腎臓の定期的なチェックが不可欠です。
合併症が起きないようにするには?

編集部
合併症を防ぐために最も大切なことは何ですか?
佐藤先生
最も大切なのは、血糖値をきちんとコントロールすることです。また、血圧やコレステロールを一緒に管理することも重要です。生活習慣の見直しと、医師の指導に沿った治療を継続することが基本となります。
編集部
食事ではどんなことに気をつけるべきでしょうか?
佐藤先生
バランスのとれた栄養を意識することが大切です。野菜や食物繊維をしっかり取り、過剰な糖質や脂質、塩分を控えめにしましょう。食事の時間帯や食事量を一定に保つことも血糖の安定に役立ちます。
編集部
運動はどれくらい取り入れるとよいですか?
佐藤先生
無理のない範囲で、週に150分以上の有酸素運動を目安にするとよいでしょう。速歩やサイクリングなどの運動が推奨されています。また、筋力トレーニングも血糖値改善に同じく有効です。医師と相談しながら、自分に合ったペースで続けることが大切です。
編集部
合併症を早期発見するにはどうしたらいいですか?
佐藤先生
定期的な検査が不可欠です。半年から年1回の眼科検査、尿検査、血液検査、神経障害チェックなどをおこないましょう。また、症状がないときでも継続的に検査を受けることで、早期発見・早期治療につながります。
編集部
最後に、メディカルドック読者へのメッセージがあれば。
佐藤先生
糖尿病やその合併症は、初期には自覚症状がほとんどないため、つい放置してしまいがちです。しかし、一度発症した合併症は元に戻すことができません。症状が出てからでは遅いのです。特に困っていないからといって放置せず、定期的な通院で変化を見逃さないことが大切です。少しでも気になる症状があれば、早めに受診してください。予防と早期発見こそが、健康を守る最善の方法です。
編集部まとめ
糖尿病は、初期には自覚症状が少ないため見過ごされがちですが、合併症が進行すると生活の質を大きく損ないます。一度発症した合併症は元に戻せないため、予防と早期発見が何より大切です。定期的な通院と自身の体調変化への気づきを重視しましょう。
医院情報

| 所在地 | 〒121-0801 東京都足立区東伊興3丁目3-2 |
| アクセス | 東武伊勢崎線「竹ノ塚」駅より徒歩5分 |
| 診療科目 | 糖尿病内科、内分泌内科、皮膚科 |




