目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 「ばね指」の治療は『保存療法』と『外科治療』どちらがいい? 放置するとどうなる?

「ばね指」の治療は『保存療法』と『外科治療』どちらがいい? 放置するとどうなる?

 更新日:2025/08/07

指や手首、肘などに見られる腱鞘炎(ばね指)。決して珍しくない症状ですが、痛みやこわばりなどのために日常生活に支障が及ぶことも少なくありません。治療法には保存的治療と、手術を伴う外科的治療がありますが、一体どちらが良いのでしょうか? 志村三丁目駅前ねもと整形外科の根本先生に教えてもらいました。

根本 高幸

監修医師
根本 高幸(志村三丁目駅前ねもと整形外科)

プロフィールをもっと見る
1994年東京慈恵会医科大学医学部卒業。1994年東京慈恵会医科大学整形外科学講座入局。東京慈恵会医科大学附属病院整形外科、東急病院整形外科、東京都職員共済組合青山病院整形外科、米国ルイビルKleinert Kutz Hand Care Center留学、太田総合病院整形外科・手外科センターを経て2024年志村三丁目駅前ねもと整形外科開院。

なぜ、腱鞘炎になるのか?

なぜ、腱鞘炎になるのか?

編集部編集部

腱鞘炎とはなんですか?

根本 高幸先生根本先生

そもそも腱とは筋肉と関節(骨)の間をつなぐ連結組織で、この働きによって関節は動きます。そして腱は関節を動かすたびに強い負荷がかかるとても頑張り屋な組織なのです。腱は関節がいろいろな方向にスムーズに動くように、腱鞘という滑車の中を通過しています。そして、腱鞘には力の向きを変える効果があるため、常に強い力にさらされるため、腱鞘炎が起きるのです。

編集部編集部

「ばね指」という言葉も聞きます。

根本 高幸先生根本先生

指の腱鞘炎とは「ばね指」とも呼ばれ、指を曲げる働きをする屈筋腱の障害のことを指します。屈筋腱とは前腕にある屈筋と手指の骨とをつなぐ腱のことで、親指には1本、人差し指から小指まではそれぞれ2本ずつ通っています。腱鞘炎は、この屈筋腱に炎症が起きることで発症します。

編集部編集部

もう少し詳しく教えてください。

根本 高幸先生根本先生

屈筋腱は滑膜というすべすべした薄い膜で表面を覆われていて、腱鞘というトンネルのなかをこの滑膜のおかげでスムーズに滑走しています。しかし指の使い過ぎなどが原因で滑膜に炎症が生じると、慢性的に屈筋腱が膨れて、腱鞘というトンネルの中で引っかかりが生じるのです。

編集部編集部

指の使いすぎ以外に、どのような原因がありますか?

根本 高幸先生根本先生

関節リウマチや更年期障害、糖尿病の人では腱周囲の滑膜炎を起こしやすいとされています。また、腱鞘炎が原因で手根管症候群を起こし、手にしびれが出る人もいます。特に気をつけたいのは関節リウマチが原因で、腱鞘炎や手根管症候群の症状が出ている場合です。そのため腱鞘炎に手のしびれを合併している人に対しては、手の超音波検査や、血液検査で関節リウマチとの鑑別が必要な場合があります。

腱鞘炎の症状とは? 放置するとどのようなリスクがあるのか?

腱鞘炎の症状とは? 放置するとどのようなリスクがあるのか?

編集部編集部

腱鞘炎になると、どのような症状が見られますか?

根本 高幸先生根本先生

腱鞘炎の症状には、痛み、腫れ、こわばり、しびれなどがあります。そのほか、腱鞘炎が慢性化し、屈筋腱自体が硬く肥厚すると、肥厚した部分が腱鞘というトンネルを通過しにくくなり、ばね現象と呼ばれる症状が見られることがあります。

編集部編集部

検査はどのようにしておこなわれるのですか?

根本 高幸先生根本先生

ばね現象による特徴的な指の動きと、掌側の指の付け根を圧迫すると痛みが出るなどが見られるときには腱鞘炎を疑います。次に、レントゲン検査で変形性関節症などの合併の有無を調べます。さらに、超音波検査で腱の腫れを評価することもあります。

編集部編集部

どの指に見られることが多いのですか?

根本 高幸先生根本先生

すべての指に起きる可能性はありますが、親指、中指、くすり指の順に多くみられます。

編集部編集部

腱鞘炎を放置しているとどうなるのですか?

根本 高幸先生根本先生

痛みを我慢しながらそのまま使い続けたり、動かしたりするとますます炎症がひどくなり、指が動かせなくなったり、指の関節が硬くなったりすることがあります。また関節が固まると、関節の痛みが慢性化することもあります。

編集部編集部

早期発見が必要なのですね。

根本 高幸先生根本先生

はい。発見が遅れると治療が長引いたり、手術をしなければ治らない状態になったりすることもあります。そのため、症状が見られたら早めに医療機関を受診することをおすすめします。

腱鞘炎の治療法

腱鞘炎の治療法

編集部編集部

腱鞘炎はどのようにして治療するのでしょうか?

根本 高幸先生根本先生

大きく分けて、保存療法と外科治療の2つがあります。保存療法は手術を伴わないもの、外科治療は手術をおこなうもののことをいいます。まずは、保存療法で様子を見て、それでも効果が見られない場合には外科治療(手術)が選択されます。

編集部編集部

保存療法ではどのようなことをおこなうのですか?

根本 高幸先生根本先生

腱鞘炎と診断がついたら、まずは指を安静にし、消炎鎮痛剤の外用薬で痛みを和らげます。それでも改善しない場合には、屈筋腱に生じた滑膜炎を抑えるためにステロイド剤を腱鞘内に注射します。効き方には個人差がありますが、これにより多くの人は軽快します。ステロイド注射の注意点としては、頻回のステロイド注射によって腱が断裂するリスクがあります。また、糖尿病や緑内障の人は、ステロイド剤により血糖値や眼圧が上がることもあるため、これらの合併症のある人は事前に医師にご相談ください。

編集部編集部

そのほかにはどのような治療法がありますか?

根本 高幸先生根本先生

痛みやばね現象のために指を完全に伸ばすことができず、関節が硬くなっている場合(関節拘縮)には、関節を柔らかくするリハビリテーションがあります。また、持病により注射ができない人やどうしても注射が嫌な人に対して、ばね現象を和らげる目的でリハビリテーションをおこなう施設もあります。ただし、注射に比べて効果は劣ります。

編集部編集部

それでもよくならない場合にはどうするのでしょうか?

根本 高幸先生根本先生

注射により十分な効果が得られない場合、手術治療が選択されます。手術は腱鞘切開術といい、腱が腫れて引っかかる部位の腱鞘(ほとんどが指の付け根の腱鞘)を開き、腱の通り道を広くします。入院する必要はなく、局所麻酔でおこない、15分程度で終了します。いずれにしても、早期に治療を開始すれば手術をせずに治癒が見込める場合も少なくありません。異常が感じられたら早めに医師にご相談ください。

編集部編集部

最後にメディカルドック読者へのメッセージがあれば。

根本 高幸先生根本先生

腱鞘炎で指に引っ掛かりがある場合、放置して指の関節の動きが悪くなる前に整形外科を受診してはいかがでしょうか。なかなか治らずに治療に難渋している場合は手の病気のスペシャリストである手外科専門医にご相談ください。

編集部まとめ

腱鞘炎は身近な疾患ですが、正しい治療法を知らない人は多いかもしれません。放置すると指が動かしづらくなったり、痛みが慢性化したりすることもあるので、早めに適切な治療を受けることが大切です。指の腱鞘炎のみならず、手関節の腱鞘炎では骨壊死や変形性関節症、関節リウマチなどの鑑別診断が重要になってきますので、痛みが長く続く場合には一度整形外科を受診することをおすすめします。

医院情報

志村三丁目駅前ねもと整形外科

志村三丁目駅前ねもと整形外科
所在地 〒174-0056 東京都板橋区志村3丁目7-14 Wellness Square 志村3階
アクセス 都営三田線「志村三丁目」駅より徒歩0分
診療科目 整形外科・リハビリテーション科・リウマチ科

この記事の監修医師