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【近年増加】通常の「高血圧」より心不全・脳卒中リスクの高い特殊な高血圧をご存じですか?

 公開日:2025/04/12
【近年増加】通常の「高血圧」より心不全・脳卒中リスクの高い特殊な高血圧をご存じですか?

血圧の上昇を引き起こすだけでなく、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが高くなる原発性アルドステロン症。高血圧患者の中に一定数存在しますが、見逃されることも多いと言われます。一体、原発性アルドステロン症とはどのような病気なのでしょうか? ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島の中口先生にメディカルドック編集部が詳しく聞きました。

中口 裕達

監修医師
中口 裕達(ハートメディカルクリニックGeN横浜綱島)

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聖マリアンナ医科大学医学部卒業。横浜市立大学附属病院 基本臨床研修プログラム修了。横浜市立大学大学院医学研究科 医科学専攻修了、医学博士号取得。国家公務員共済組合連合会 横浜栄共済病院 代謝内分泌内科、横浜市立大学附属病院 内分泌・糖尿病内科 助教、国家公務員共済組合連合会 横浜南共済病院 内分泌代謝内科 医長などを経て現職。医学博士、日本内科学会認定医、日本糖尿病学会専門医・研修指導医、日本内分泌学会 内分泌代謝科専門医・指導医。

原発性アルドステロン症とは?

原発性アルドステロン症とは?

編集部編集部

原発性アルドステロン症とは、どんな病気ですか?

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症は、副腎(左右一対、腎臓の上にある臓器)がアルドステロンというホルモンを過剰に分泌する病気です。アルドステロンは体内の塩分や水分を調整し、血圧を維持する役割があります。しかし、この病気ではホルモンが過剰に分泌されるため、血圧が高くなり、普通の高血圧治療では十分に改善しない場合があります。アルドステロンが過剰になると、脳血管や心臓関連の合併症、腎機能障害などを引き起こしやすくなります。また、血液中のカリウムが低くなる低カリウム血症がみられることもあります。

編集部編集部

原発性アルドステロン症は珍しい病気なのですか?

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症は高血圧患者の約5〜10%にみられる疾患で、決してまれな疾患ではありません。特に降圧薬を3種類以上服用しても血圧が下がらない治療抵抗性高血圧の患者さんでは、その有病率は20%以上に達すると言われています。

編集部編集部

普通の高血圧だと思ったら、じつは原発性アルドステロン症が原因だった、ということも多いのですね。

中口 裕達先生中口先生

はい。この病気は近年注目されており、スクリーニング検査の普及やガイドライン改訂により発見される患者さんが増えています。一方で、見逃されているケースも多いのが現状です。この病気は、通常の高血圧症と比べて心筋肥大、心不全、脳卒中などの合併症リスクが高いことが知られています。これらのリスクを軽減するためには、早期診断が重要です。

編集部編集部

早期発見のために私たちにできることは何ですか?

中口 裕達先生中口先生

まずは家庭血圧を測定してください。家庭血圧測定は、高血圧を管理する上で非常に有用です。診察室では緊張などで血圧が高く測定されることがありますが、家庭で測定した血圧は実際の状態を反映しやすいため、重症度や治療効果を正確に評価できます。特に、起床後や夜寝る前の血圧を測ると変動が分かりやすいです。自宅での高血圧の目安は収縮期血圧135mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上です。これが続く場合は、まずは高血圧症の精査のため医療機関を受診しましょう。

編集部編集部

どのような場合に原発性アルドステロン症を疑うのがよいのでしょうか?

中口 裕達先生中口先生

とくに、40歳以下で高血圧を認める場合や、健診や病院で収縮期血圧160mmHg以上かつ/または拡張期血圧100mmHg以上を指摘された方は、スクリーニング検査が推奨されます。そのほか、以下に当てはまる場合は原発性アルドステロン症を疑う必要があります。

  • 若年で高血圧を発症(40歳以下)
  • 降圧薬を複数使用しても血圧が下がらない治療抵抗性高血圧
  • 血液検査で低カリウム血症を指摘された
  • 若年で脳血管障害(脳出血や脳梗塞)を起こした
  • 睡眠時無呼吸症候群を合併
  • Ⅱ度高血圧以上(診察室での収縮期血圧160mmHg以上かつ/または拡張期血圧100mmHg以上)

アルドステロン症は心血管疾患の合併リスクが高い病気ですが、適切な診断と治療でリスクを減らせます。健診で高血圧を指摘された際や、家庭血圧測定で収縮期血圧135mmHg以上かつ/または拡張期血圧85mmHg以上が続く場合、まずは医療機関を受診しましょう。その上でアルドステロン症が疑わしい症例には精査が推奨されます。

原発性アルドステロン症の検査と治療

原発性アルドステロン症の検査と治療

編集部編集部

スクリーニング検査と精密検査について教えてください。

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症が疑われる場合、最初におこなうのがスクリーニング検査です。採血による血中アルドステロン/レニン比(ARR)の測定します。

  • ARRが200以上の場合は陽性とされ、精密検査が必要です
  • ARRが100〜200の場合は「暫定陽性」として、状況に応じて精密検査をおこないます

編集部編集部

精密検査はどのような検査ですか?

中口 裕達先生中口先生

機能確認検査といって、複数あります。カプトプリルという薬を内服後、血中アルドステロンの変化を確認する「カプトプリル負荷試験」や静脈注射でアルドステロンの抑制を確認する「生理食塩水負荷試験」などです。これらの機能確認検査を通じて、本物であるかどうかを確認します。

編集部編集部

陽性と判断された場合には?

中口 裕達先生中口先生

陽性と判断された場合、さらに副腎CTや、患者さんの希望により副腎静脈サンプリング(AVS)をおこない、総合的に評価しながら治療方針を決定します。副腎静脈サンプリングは、カテーテル(特殊な細い管状の器具を血管内に挿入しておこなう検査法)により両側の副腎から直接血液を採取し、アルドステロンの分泌を評価する検査です。この検査によって、左右どちらの副腎に異常があるのか(片側性か両側性か)を正確に診断できます。技術的に難しい検査ですが、診断精度が非常に高く、手術適応の判断に欠かせません。専門的な技術を要するため、実施できる施設は限られています。

編集部編集部

治療方針はどのように決めるのですか?

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症の治療の目的は、過剰なアルドステロン分泌を是正し、高血圧を改善することにより、心血管疾患リスクを低減させることです。治療方針は、片側の副腎に腫瘍(アルドステロン産生腺腫)がある「片側性」か、両側の副腎が過剰に働く過形成の「両側性」かによって異なります。片側性の場合は患者さんが手術を希望する場合、副腎摘出術が推奨されます。手術によりアルドステロンの過剰分泌がなくなるため、血圧の改善が期待でき、場合によっては降圧薬が不要になることもあります。ただし、血圧の正常化は年齢や高血圧の罹患期間など複数の因子に影響を受けるため、手術後も降圧薬が継続されるケースがあります。また、高齢者では手術の有益性を慎重に検討する必要があります。

編集部編集部

両側性の場合は?

中口 裕達先生中口先生

両側性の場合は、左右の副腎を摘出するとホルモンの不足が生じるため、手術はできません。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(アルドステロンの働きを阻害する薬)による薬物治療が標準治療となります。この薬によって、アルドステロンの作用を抑えて血圧を下げ、心血管疾患の合併症リスクを減らします。治療方針は、患者さんの全身状態、年齢、希望などを考慮して決定します。いずれにしても継続的な血圧管理が必要となるため、専門医による経過観察が推奨されます。

編集部編集部

手術の効果とリスクについて教えてください。

中口 裕達先生中口先生

片側性の原発性アルドステロン症では、腹腔鏡下副腎摘除術が有効な治療法です。手術により過剰なアルドステロン分泌がなくなるため、約30~50%の患者さんで降圧薬が不要になると言われています。手術のリスクとして、周囲の臓器損傷や出血、感染が挙げられますが、腹腔鏡手術の技術が向上したことで、重大な合併症は少なくなっています。また、術後に一過性のカリウム値上昇がみられることがありますが、通常は自然に改善します。

原発性アルドステロン症を放置するとどうなるのか? 日常生活で気を付けることは?

原発性アルドステロン症を放置するとどうなるのか? 日常生活で気を付けることは?

編集部編集部

内服薬による治療はあるのですか?

中口 裕達先生中口先生

先ほどお話したように、原発性アルドステロン症の治療には、手術と薬物療法の2つの選択肢があります。 片側性で手術適応がある場合は副腎摘除術が推奨されますが、患者さんが手術を希望しない場合や両側性のアルドステロン症では、薬による治療が標準的です。治療の中心となるのは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)です。 この薬は、アルドステロンの過剰な作用を抑え、血圧を適切にコントロールするとともに、血管や心臓への悪影響を軽減する効果があります。適切に使用すれば、血圧が安定し、心血管疾患リスクの低減も期待できます。

編集部編集部

薬物療法をおこなう際の注意点を教えてください。

中口 裕達先生中口先生

お薬の使用にあたっては、カリウム値の管理が重要です。まれに血中のカリウムが上昇することがあるため、定期的な血液検査をおこないながら安全に治療を進めます。 また、一部のMRAはホルモンに作用することがあり、男性では乳房の張り、女性では月経周期の変化がみられることがありますが、副作用が気になる場合は、負担の少ない別の薬を選択することも可能ですので、担当医にご相談ください。ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は多くの患者さんにとって安全かつ有効な治療法です。適切な管理のもと継続することで、アルドステロンの影響を最小限に抑え、健康な生活を維持することが可能になります。

編集部編集部

治療しない場合、どのようなリスクがありますか? 合併症は?

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症は治療をしないままでいると、 高血圧や過剰なアルドステロンが血管や心臓に悪影響を与え、長期的には心血管系の合併症のリスクが高まります。また、脳卒中や心不全、腎不全などを引き起こす可能性もあります。とくに、高血圧のコントロールが不十分であると、心筋梗塞脳卒中などのリスクが増加し、患者さんの予後が悪化することが知られています。進行すると心臓にも負担がかかり、左心室肥大心不全の発症率も上昇します。

編集部編集部

未治療の場合、さまざまな合併症のリスクがあるのですね。

中口 裕達先生中口先生

はい。そのほか、治療しない場合にはカリウム値が低い状態が続くことも危険です。低カリウム血症は、心臓のリズムに異常を引き起こす可能性があり、致命的な不整脈を引き起こすことがあります。さらに、腎臓の機能も悪化する可能性があり、長期的には腎不全を招くこともあります。アルドステロン症を治療すれば、これらのリスクを減少させることができます。 治療法には薬物療法や手術があり、いずれも血圧を改善し、心血管や腎臓へのダメージを防ぐ効果があります。治療開始後は、定期的な再診と検査で、血圧や合併症の評価をおこないながら、その後の全身状態を適切に管理することが重要です。

編集部編集部

普段の生活習慣で気をつけることはありますか?

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症の治療においては、生活習慣の改善も重要です。 食事、運動、ストレス管理を見直すことで、血圧のコントロールや心血管疾患リスクを軽減できます。塩分摂取を減らし、野菜や果物を多く食べるように意識しましょう。また、定期的な運動は体重管理と降圧にも役立ちます。ウォーキングや軽いジョギングなどの運動は、心血管の健康維持に効果的です。

編集部編集部

食事と運動が大切ですね。

中口 裕達先生中口先生

そのほか、ストレス管理も重要です。リラックスする時間を持ち、十分な睡眠や深呼吸などで心身のバランスを整えましょう。また、喫煙や過度の飲酒を避けることも血圧の改善に役立ちます。生活習慣を改善することで、薬物治療や手術治療の効果をさらに高め、原発性アルドステロン症のコントロールをより効果的に行えます。

編集部編集部

最後に読者へのメッセージがあれば。

中口 裕達先生中口先生

原発性アルドステロン症とは聞き慣れない病名かもしれませんが、決して珍しい病気ではありません。病態をコントロールすることができれば、通常の高血圧と同様、合併症をできるだけ予防することもできます。若くして高血圧症を発症された方や、血圧コントロールに難渋される場合には、早めに内分泌の専門医を受診することをお勧めします。

編集部まとめ

通常の高血圧と性質が異なり、また、合併症のリスクも高い原発性アルドステロン症。「血圧が高いのは年齢のせい」「体質の問題」などと自己判断せず、薬剤の効果があまり見られない高血圧に悩んでいる場合には、一度専門医を受診してみてはいかがでしょうか。

医院情報

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島

ハートメディカルクリニックGeN 横浜綱島
所在地 〒223-0052 横浜市港北区綱島東4-3-17 アピタテラス横浜綱島2F
アクセス 東急東横線「綱島」駅より徒歩約10分
東急新横浜線「新綱島」駅より徒歩約10分
診療科目 内科、循環器内科、糖尿病内科、内分泌内科

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