FOLLOW US

目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 浮気・不倫がやめられない…「セックス依存症」かも? 8つの診断基準を医師が解説

浮気・不倫がやめられない…「セックス依存症」かも? 8つの診断基準を医師が解説

 公開日:2024/11/19
【医師解説】浮気・不倫がやめられないのは「セックス依存症」だから?

昨今、芸能界でも話題が尽きない浮気・不倫問題。浮気や不倫を繰り返すのは、単なる「遊び」や「性格」の問題なのでしょうか? じつは、その背景に「セックス依存症」という心の病気が隠れている可能性もあるそうです。なぜ、浮気や不倫を繰り返してしまうのか。セックス依存症とは、一体どんな病気なのか、どうすれば克服できるのか。医師の秋谷先生にわかりやすく解説していただきました。

秋谷 進

監修医師
秋谷 進(東京西徳洲会病院小児医療センター)

プロフィールをもっと見る
1999年、金沢医科大学卒業。金沢医科大学研修医を経て2001年国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)小児神経科、2004年6月獨協医科大学越谷病院(現・獨協医科大学埼玉医療センター)小児科、2016年児玉中央クリニック児童精神科、三愛会総合病院小児科を経て、2020年5月から現職(東京西徳洲会病院小児医療センター)。専門は小児神経学、児童精神科学。

なぜ、浮気・不倫をしてしまうのか 男女それぞれどんな心理が働く?

なぜ、浮気・不倫をしてしまう? 男女それぞれどんな心理が働く?

編集部編集部

なぜ、浮気・不倫をしてしまうのでしょうか?

秋谷 進先生秋谷先生

浮気・不倫の理由は、単純に愛情が冷めた場合だけでなく、じつは愛情が深い場合にも起こり得ます(※)。例えば、子どもが生まれて夫婦が親としての役割に集中すると、セックスレスになりがちです。愛情は深まっているのに性的な欲求が満たされない葛藤から、浮気・不倫に走るケースがあります。また、パートナーの愛情を確認するために、異性に魅力的だと感じることで安心感を得ようとする人もいます。さらに、承認欲求を満たすため、あるいは日常の刺激を求めて浮気・不倫をしてしまう人もいるでしょう。このように、浮気・不倫の背景には、様々な欲求や葛藤が隠されているのです。

※Adultery understanding as a psychological problem by the representatives of different ethnic groups

編集部編集部

「浮気・不倫は遺伝子も関係している」という話を聞いたことがあります。本当ですか?

秋谷 進先生秋谷先生

たしかに、浮気・不倫には、遺伝子が関係しているという説があります(※)。例えば「AVPR1A」という遺伝子は、愛情や絆に関わるホルモン「バソプレシン」の働きに影響を与えます。この遺伝子に特定の変異を持つ男性は、結婚生活の満足度が低く、離婚率が高いという研究結果があります。また、パートナー以外の人と性交渉を持った割合も2倍以上だったという報告もあります。さらに「アリル334」という遺伝子を持つ人は、浮気率が2倍以上になるという研究結果もあります。これらの結果から、遺伝子が浮気・不倫に影響する可能性は否定できません。しかし、遺伝子が全ての行動を決めるわけではありません。環境や本人の意志、パートナーとの関係など、様々な要因が影響します。遺伝子はあくまで傾向を示すものであり、運命を決定づけるものではないので注意してください。

※Why women cheat:testing evolutionary hypotheses for female infidelity in a multinational sample

編集部編集部

男性側が浮気・不倫するときに、特有の心理状態や要因はありますか?

秋谷 進先生秋谷先生

2023年の論文によると、男性が浮気や不倫をする理由は以下の5つに分けられます(※)。これらの要因が複合的に作用すると考えられています。

  • 進化心理学的な要因:進化心理学的に、男性は子孫を残すために複数の女性を求める傾向があり「約50%が生涯に一度は浮気を経験している」という調査結果があります。
  • 社会文化的要因:男性の浮気は女性より容認されやすく、約30%が男性の浮気を「仕方がない」と考えている現状が影響していると考えられています。
  • 心理的要因:男性は約70%が「刺激が欲しかった」と回答。性的な刺激への反応が強く、新しいものを求める傾向や、仕事からの逃避なども理由に挙げられます。
  • パートナーの問題:パートナーとのコミュニケーション不足や性的不一致など、約60%がパートナーへの不満を理由に挙げています。
  • 個人の性格:自制心の欠如や責任感の不足、自己中心的な性格も浮気・不倫につながりやすいとされています。

※Relationship status and gender-related differences in response to infidelity

編集部編集部

女性側についてはいかがでしょうか?

秋谷 進先生秋谷先生

2023年の同論文によると、女性が浮気や不倫をする理由も以下の5つに分けられます。女性側も色々な要因が複雑に絡み合って、浮気・不倫を起こしてしまうと考えられています。

  • 進化心理学的な要因:「女性は限られた数の子どもしか産めないため、より質の高い遺伝子を持つ男性と子どもを作るように進化してきた」という考え方があります。そのため、現在の夫よりも優れた遺伝子を持つ男性が現れた場合、浮気・不倫をしてしまう可能性があります。
  • 社会文化的要因:近年、女性の社会進出が進み、経済的に自立する女性が増えています。そのため、男性に頼らずとも生活できるようになり、浮気・不倫に対する心理的なハードルが下がっている可能性があるとされています。
  • 心理的要因:男性と比べて女性は共感力が高く、感情的なつながりを求める傾向があります。夫と精神的なつながりを感じられない場合、それを求めて浮気・不倫をしてしまうことがあります。
  • パートナーの問題:夫とのコミュニケーション不足や愛情不足を感じている場合、それを埋めるために浮気・不倫をしてしまうことがあります。また、セックスレスや性的欲求の不一致なども、女性が浮気・不倫に走る要因となり得ます。
  • 個人の性格:自己肯定感が低い女性は、浮気・不倫によって自分の魅力を確認し、自信をつけようとする傾向があるとされています。また、依存的な性格の女性は、相手に依存することで安心感を得ようとし、それが浮気・不倫につながることも考えられます。

編集部編集部

これらは全ての人に当てはまるのでしょうか?

秋谷 進先生秋谷先生

いいえ。これらの要因はあくまで一般的な傾向であり、全ての人に当てはまるわけではなく、浮気や不倫の原因は人それぞれです。似たような状況や性格であっても浮気や不倫をしない人もいれば、逆にこれらの要因に当てはまらない理由で、浮気や不倫をしてしまう人もいるでしょう。人間の行動は「本来の人間としての性質」「社会的な要因」「心理学的な要因」「個人の性格」など、様々な要因が複雑に絡み合って決められています。大切なのは、それぞれが浮気や不倫をしてしまったとき、どのような経緯で至ったかをきちんと理解することです。

浮気・不倫がやめられないのは「セックス依存症」が原因?

浮気・不倫がやめられないのは「セックス依存症」が原因?

編集部編集部

浮気・不倫がやめられないのは、病気の可能性もありますか?

秋谷 進先生秋谷先生

そうですね。前述のとおり浮気や不倫を繰り返すのは、それぞれの「理由」がありますが、「セックス依存症(性依存症)」の可能性があります。セックス依存症は、性的な衝動や行動をコントロールできず、日常生活や人間関係に深刻な影響を及ぼす状態です。アルコールや薬物依存と同様に、専門的な治療やカウンセリングが必要となることがあります。もし心当たりがある場合は、専門の医療機関やカウンセラーに相談することをおすすめします。

編集部編集部

セックス依存症の定義や診断基準について教えてください。

秋谷 進先生秋谷先生

セックス依存症は「性的な思考、欲求、衝動、または行動をコントロールすることができず、その結果、個人的な生活、仕事、人間関係、または健康に悪影響を及ぼす状態」と定義されています。セックス依存症の正式な診断基準は、現時点で精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM-5)に含まれていませんが、一般的には以下の基準が用いられます(※)。ただし、セックス依存症の診断は、精神科医や臨床心理士などの専門家によっておこなわれるので、一般人が診断してはならない点には注意してください。

■過去6カ月間、以下のうち3つ以上を満たす。

  • 性的な活動に関連することに多くの時間を費やす。
  • 性的な活動への欲求や衝動が強迫観念のようになっている。
  • 性的な活動をコントロールしようと繰り返し試みるが失敗する。
  • 性的な活動をおこなうことで、仕事、学校、家庭などにおける重要な義務を放置(neglecting)する。
  • 性的な活動によって、対人関係の問題が生じている。
  • 性的な活動によって、身体的または精神的な健康問題が生じている。
  • 性的な活動によって、著しい苦痛または機能障害が生じている。
  • これらの症状は物質(例:薬物)、またはほかの医学的状態(例:甲状腺機能亢進症)によるものではない。

※Sexual Addiction Disorder— A Review With Recent Updates

編集部編集部

セックス依存症の原因はなんですか?

秋谷 進先生秋谷先生

セックス依存症の原因は、いくつかの要素が絡み合っています。まずは心理学的な問題が考えられます。具体的には、幼少期のつらい経験や愛情不足、自分に自信が持てない気持ちが、依存につながりやすくなります。また、ストレス解消の手段として性的行動を繰り返す場合もあり、ほかの依存症や強迫的な行動と似た傾向もみられます。

編集部編集部

ほかにもありますか?

秋谷 進先生秋谷先生

脳科学的な異常があるケースも考えられます。例えば、セックス依存症では特定の神経伝達物質(ドーパミンやセロトニンなど)のバランスが乱れることで、欲求を抑えられなくなることがあります。また、性的刺激に対する反応が過剰な人では、大脳の腹側線条体や扁桃体などの特定の神経回路が異常に活性化することが確認されています。このように、セックス依存症は単にメンタルの問題ではなく、脳の問題の可能性もあるのです。

編集部編集部

「セックス依存症かもしれない」と思ったときのチェックリストやセルフチェック方法はありますか?

秋谷 進先生秋谷先生

以下のチェックリストでどれくらい当てはまっているか、確認してみてください。3つ以上当てはまる場合は、セックス依存症の可能性があります。ぜひ専門の医療機関を受診してみてください。

  • 1日の大半を性的な動画の閲覧や性的なチャットに費やしている。
  • 仕事中や勉強中でも性的な思考が頭から離れず、集中できない。
  • 性的な衝動を抑えられず、不適切な場面で性的な行動をとってしまう。
  • 性的な活動を「もうやめよう」と決意しても、数日後にはまた同じ行動を繰り返している。
  • 性的な活動のために遅刻や欠勤が増え、仕事の評価が下がっている。
  • 性的な活動が過剰すぎて友人や家族から心配され、関係が疎遠になっている。
  • 性感染症に感染したことが複数回ある。
  • 性的な行動が原因で、うつ病や不安障害の症状が表れている。
  • 性的な衝動を抑えられない自分に対して、強い罪悪感や自己嫌悪を覚える。

セックス依存症との向き合い方 対処法・治療法を医師が解説

セックス依存症との向き合い方 対処法・治療法を医師が解説

編集部編集部

セックス依存症になったときに考えられるトラブルはなんですか?

秋谷 進先生秋谷先生

セックス依存症になると、「浮気や不倫によるパートナーとの信頼関係の破綻」「家族や友人との人間関係の悪化」「性病リスクの増加」「違法な行為に及ぶ可能性の増加」「仕事や学業に集中できず、社会生活への悪影響が出る」など、多くのトラブルが考えられます。

編集部編集部

セックス依存症の対処法はありますか?

秋谷 進先生秋谷先生

セックス依存症は単にメンタルの問題だけではない可能性があるので、専門家による診断・治療が必要です。そのため、けっして自分1人で抱えずに、医療機関を受診しましょう。カウンセリングや治療を受けることで改善が期待できます。

編集部編集部

セックス依存症の治療法について教えてください。

秋谷 進先生秋谷先生

セックス依存症の治療法には、「認知行動療法(CBT)」「精神分析療法」「薬物療法」などがあります。認知行動療法は、依存症の根本的な行動や思考パターンを見直し、トリガーへの対処法を学ぶ方法です。薬物治療では、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やアルコール依存症に使われるナルトレキソン、抗アンドロゲン薬などが使われます。セックス依存症の治療には時間がかかる場合もあり、再発のリスクもありますが、早めに治療することで多くの人がコントロールできるようになります。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

秋谷 進先生秋谷先生

もしセックス依存症が原因で浮気・不倫に走ってしまっても、まずは自分を責めずに勇気を出して専門家に相談してください。1人で抱え込んでも限界があります。非常にデリケートな問題であり、周囲の目を気にしがちですが、様々なサポートを受けることで改善されやすくなります。浮気や不倫を避けるためには、信頼できる人とのコミュニケーションを深めたり、趣味や運動など健全な活動に時間を費やしたりすることが効果的です。自分自身を大切にし、小さな一歩から始めてみましょう。

編集部まとめ

浮気や不倫を繰り返してしまう人には、意外と複雑な背景が隠れているかもしれないことがわかりました。愛情不足や承認欲求、性的欲求の不一致など様々な要因が考えられますし、中にはセックス依存症という病気の可能性もあります。本記事で紹介したチェックリストに当てはまる人は、専門家への相談をおすすめします。

この記事の監修医師