【闘病】日々のダルさ・眠気は「重症筋無力症」のせいだった… 夕方以降に出る疲れの正体
仕事や家事などで疲れていると、「ちょっと横になりたい」と思うことはあるのではないでしょうか? 話を聞いたM・Iさん(仮称)も、初めは急な眠気と体のだるさを感じたそうです。しかし、この状況が4カ月続いたことから病院を受診したところ、重症筋無力症と診断されました。眠気やだるさはただの疲れではなかったということです。M・Iさんの経験を通して、ぜひ重症筋無力症のことを知ってください。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年6月取材。
体験者プロフィール:
M・I(仮称)
北海道在住、1995年生まれ。夫と2人暮らし。2023年2月に重症筋無力症が発覚し、即入院。免疫グロブリン(ivig)療法やステロイド療法(点滴での投与や薬を飲むなど)を受ける。退院し、現在はプレドニゾロンやタクロリムスなどの薬を毎日服用し、並行してウィフガートやステロイドなどの点滴治療を日帰りで受けたり、在宅で自己注射可能なヒフデュラを行ったりしている。診断時の職業は、牧場で動物の小屋清掃のパート。
記事監修医師:
村上 友太(東京予防クリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
急な眠気と体のだるさは、“ただの疲れ”ではなかった
編集部
まず初めに、M・Iさんが抱えていらっしゃる疾患「重症筋無力症」について教えてください。
M・Iさん
神経と筋肉の間で起こる障害で、筋肉がすぐに疲れて体に力が入らなくなります。筋肉の力が弱くなって、身体が疲れやすくなります。指定難病の1つとされていて、日本ではおよそ3万人いると言われています。症状にはタイプがあり、私は身体に力を入れた状態がうまく保てなくなる「全身型」です。
編集部
人によって違いが見られるのですね。
M・Iさん
昨日は元気で体調が良くても、今日は身体を動かすことがつらくなってしまったり、その日の朝は元気でも、夕方以降に身体が疲れてしまい動けなくなってしまったりと、症状の現れ方に波があります。同じ疾患でも、補助具なしで健康な方と同じように歩ける人もいれば、杖や車椅子を使用しないと生活できない人もいて、個人差が大きいようです。
編集部
具体的な症状を教えてもらえますか?
M・Iさん
眼瞼下垂(目を開けていると瞼が勝手に下がってくる)、複視(物が二重に見える)、筋力低下(腕や足の力を保てずすぐ疲れてしまう、頭や背中が重いと感じ、同じ姿勢を長時間保つのが難しい)、嚥下・咀嚼障害(食べているときに、顎が疲れてくる。食べ物を飲み込みづらくなったりむせやすくなったりする)、構音障害(声量を保てなくなる、ろれつが回らなくなる)などがあります。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
M・Iさん
2022年の10月頃から、お昼頃に急な眠気と体のだるさがあり、布団で横になる日が多くなりました。最初は「仕事で疲れがたまっているのかな?」と思っていたのですが、4カ月近くこういった状態が続いていたため「おかしい……」と思い、脳神経内科を受診し、先生に症状を伝えました。
編集部
なぜ脳神経内科を受診したのでしょうか?
M・Iさん
17歳の時にバセドウ病になり、その症状である眼球突出や眼瞼下垂を専門に診てくれていた病院が脳神経内科だったのですが、「念のため、重症筋無力症の検査をしてみましょう」と言われ、一通り検査をしたことがあったのです。その時は「疑いなし」と言われたのですが、その時のことを思い出して、脳神経内科を受診したというわけです。
編集部
受診して、どのような検査を行なったのでしょうか?
M・Iさん
MRI検査・嚥下機能検査・呼吸機能検査・アイステスト・血液検査・神経伝導検査・胸部X線検査・髄液検査など複数の検査を受け、私の場合は嚥下機能と呼吸機能が同年代の平均に比べて低いこと、血液検査で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性だったこと、神経伝導検査で左肘の神経の反応が全くなかったことから「重症筋無力症(全身型)」と診断されました。
編集部
診断がついたときの心境を聞かせてもらえますか?
M・Iさん
「やっぱりか」と思いました。それと同時にホッとしました。数カ月悩んでいた眠気や体のだるさに説明がついたからです。「特に問題ないですね」と先生に言われていたら、「じゃあ、私が単に疲れやすい体なだけなの?」とさらに悩んでしまっていたかもしれません。
まずは入院、症状が落ち着いたら治療を行うという流れに
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
M・Iさん
まず初めに、「この病気は、最初の治療として飲み薬を選択することができませんので、まずは入院治療から行うことになります」と言われました。そして、「入院治療をして、症状がある程度落ち着いてきたら薬を服用するなどの対症療法に移っていくことになります」と、大まかな説明がありました。
編集部
重症筋無力症を発症してから、日常生活に変化はありましたか?
M・Iさん
夕方以降は疲れのせいで、夕飯などを作ることが難しくなりました。包丁で食材を切ったり、フライパンで炒めたりといった、腕を駆使することがきついからです。そして、夕方以降にお風呂に入ったり、ほかの家事をしたりすることもできなくなりました。お風呂は髪を洗ったり流したり、ドライヤーで乾かしたりという腕を上げ続けることがつらく、できるだけ夕方になる前にシャワーで済ませることが多いです。病気になる前は、湯船に長時間浸かってリラックスすることが多かったので、ギャップが激しいです。洗濯や掃除などは以前なら毎日のようにこなせていましたが、今は「2~3日に1回」くらいになりました。
編集部
仕事にも影響があったのではないですか?
M・Iさん
まず、先生から「発症から2年間を急性期だと考えてください。その間、フルタイムでの勤務は症状の悪化に繋がる可能性があるため控えていただきたいです。また、この病気の治療薬として、体にある免疫を抑える代わりに感染しやすくなるという副作用があります。医療福祉業界での仕事、接客業全般、動物関係の仕事、過度な肉体労働が必須な仕事はできる限りしないようにしてほしいです」と、ドクターストップを受けました。そのため、勤めていた牧場での仕事は辞めざるを得ませんでした。辞めてからは、短期の季節労働(座り仕事)を経て、今はホテルの食器洗浄や調理補助の仕事をしています。病気のことはオープンにして、パートとして働いています。
編集部
大まかでよいので、現在の一日の流れを教えてください。
M・Iさん
パートは午前中のみで働いているので、家に帰ってきてシャワーを浴びて少し休んでから前日に使った食器を洗って、夕飯を作り始めています。夫には、できたての夕飯を出せずに申し訳ないと感じています。夕方以降はテレビ番組を見たり、夫と会話したりすることもできなくなりました。夕方以降は身体が疲れてしまって、夕飯を食べ終わったら布団で横になり、身体を休めることが日常になっています。
人との繋がりが、闘病と向き合う活力になっている
編集部
重症筋無力症に向き合う上での心の支えを教えてください。
M・Iさん
私の場合は「もの」というより「人」です。X(旧twitter)で「重症筋無力症」と検索し、私と同じ病気で悩みながらも必死に前を向いて生きている人の存在を知りました。こういった人たちと繋がり、日々出る症状のつらさを共有して励ましあったり、それぞれが受けている治療について共有したり(副作用で何が出たか、どういう治療を受けているかなど)することで、「私も闘病頑張ろう」と思えています。また、夫も「疲れてない? 大丈夫?」と日々声をかけてくれて気遣ってくれたり、治療効果があまり得られず落ち込んでしまったときに「美味しいご飯でも食べに行こうか」と誘ってくれたりするので、元気をもらえています。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
M・Iさん
「健康な身体の今のうちに、やってみたいこと(趣味)や、やってみたい仕事をたくさんやっておきなよ」と伝えたいです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
M・Iさん
毎朝食後にプレドニゾロンを1mg服用しています。また、毎夕食後にタクロリムスを3mg服用しています。去年の夏もそうでしたが、今年(2024年)も体調を崩しそうです。私の場合は、暑さで体調を崩すことが多いです。眼瞼下垂、複視、全身の脱力があるときは、目をアイスノンなどのアイテムで冷やしたり、エアコンをつけて身体を休めたりしています。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
M・Iさん
医学的な症状のみで重症筋無力症を診るのではなく、できたら患者一人ひとりの症状の訴えにも耳を傾けてほしいです。
編集部
読者へのメッセージをお願いします。
M・Iさん
少しでも身体に違和感があれば、躊躇せずに病院を受診してほしいと思います。それから、今ある環境(友人や家族、職場の関係者など)を大切にしてほしいです。なぜなら、もし何かしらの病気になったとき、必ずその人たちが助けになってくれると思うからです。
編集部まとめ
M・Iさんご自身も、「周囲の人に頼れるときは頼って、無理せず自分のペースで日々を過ごせばきっと明るく生きられる」と話していましたが、周囲の人たちとの繋がりも、治療していく上では大切なようです。参考にしてみてはいかがでしょうか。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。