【闘病】大腸がん 「いつ死んでもいい」という想いと時おり訪れる「再発」の恐怖
大腸がんは、初期症状がほとんどなく、検診などで見つかることの多いがんだそうです。普通の生活を送っていたM.Oさん(仮名)も、子宮内膜症の検査をきっかけに偶然大腸がんが見つかり、手術を受けることになったと言います。がんの告知の受け止め方、家族の反応、手術や検査に対する想いなどを話してもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年3月取材。
体験者プロフィール:
M.O(仮称)
1977年生まれ、女性。愛知県在住。夫婦ふたり暮らし。2019年に、それまで継続治療していた子宮内膜症のMRI検査にて、直腸の異常を指摘され、再検査にて直腸がんが見つかる。ステージ1。現在は、仕事にも復帰して、ゆっくりペースで生活している。
記事監修医師:
岡本 彩那(淀川キリスト教病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
子宮内膜症の検査で、直腸の異常を指摘
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか?
M.Oさん
自覚症状は全くありませんでした。でも、後になってから振り返ると、発覚の数年前から血便が時々ありました。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
M.Oさん
別の病気(子宮内膜症)のMRI検査で、「直腸壁が肥厚している」と言われて精密検査を勧められました。勧められるままに消化器内科で大腸内視鏡検査をしたあとに、おそらく「がん」であると告げられました(確定診断は病理組織学的診断をもって行います)。
編集部
告知はどのような形でしたか?
M.Oさん
内視鏡の検査中、先生と一緒にモニターを見ていたのですが、素人目にも明らかに『何かある』と分かりました。その部分の組織を採取してきて顕微鏡の検査を行う(生検)とのことでしたが、先生からは「はっきりしたことは生検の結果が出てからお伝えしますが、おそらくがんでしょう」と言われました。「次の受診時は、家族と一緒に来てください」とも言われました。その後の受診で改めて「直腸がん」と診断されました。 がんとは別に、良性のポリープも数個あったようです。
編集部
その時どのように感じましたか?
M.Oさん
元々あまり体が丈夫な方ではなく、体調がいい日があまりないタイプで、親戚の中で私と一番似ている祖父が病弱でした。そんなこともあり、なんとなく「自分は何か大病しそうだな」と思っていたので、「あ、大腸がんか。時期が思ったより早かった(若かった)な」「見つかったからには治療するしかないか」 という感じで、結構淡々としていました。その時点でショックなどもほとんどなく、職場に迷惑をかけないか、身内にはどの順番で言おうかなどと考えていました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
M.Oさん
まずは、内視鏡で切除できるか試してみて、取れなかったら手術をしましょうとのことでした。腫瘍の画像を見せてもらっていたこともあり、内心「あんなのが内視鏡で取れるのだろうか」「おそらく手術になるのでは?」と思っていました。
術後、まさかの合併症が…
編集部
実際の治療はどのように進められましたか?
M.Oさん
内視鏡では良性のポリープのみ取れて、がん病変は取れなかったので、やはり手術になりました。「がんの部分の腸を切ってまた繋げる」とのことでした。手術は腹腔鏡手術で、お腹に5箇所の穴と、お尻からも器具を入れたそうです。術後3日間、お尻に長さ10cmくらいの管が入っていて、縫ってあったとのことです。これがすごく痛くて大変でした。排尿はカテーテルでした。手術自体は成功し、術後は絶飲食、2日後から飲水のみOK、4日後から食事スタートの予定でしたが、手術部からの排液を流すドレーン内の排液が白濁してきて、「乳び腹水」という合併症と診断されました。また絶食となってしまい、切なかったです。
編集部
食べられないのは辛いですね。
M.Oさん
食べられなかったので、術後7日目にCVカテーテル留置の処置(鎖骨の上辺りから針を入れる)をして高栄養の点滴を入れることになりました。それと並行して、飲み物はOKでしたので、高栄養の液体を服用することになりました。個人的にはとても不味くて辛かったです。手術部の癒着を防ぐため、院内をなるべく歩く(牛歩でしたが)ようにしていました。このときまだ排液用のドレーンは入っており、それの量と色をチェックされていました。術後13日目にやっと食事がスタートし、重湯から徐々に三分がゆ、五分がゆ、七分がゆ、普通食と進みました。栄養士さんと話す機会もあり、パン食の対応をしていただいたり、今後の食事のアドバイスもいただいたりしました。
編集部
大変でしたね。
M.Oさん
病理検査の結果で「転移なし。深さは粘膜下層まで」ということで『ステージ1』という診断が出たのが救いでした。私自身もホッとしましたし、一緒に聞いていた主人の表情と「あー良かった」という言葉で、どれだけの想いを抱えていたのかが伝わってきて、そういう意味でも一安心しました。ちなみに、 一部リンパを取ったそうですがその中に子宮内膜症の嚢腫があり、爪なども入っていたそうです。ガス(おなら)が出て、排便があれば退院して良いと言われましたが、私の場合排便がなく、結局下剤に頼りました。術後17日目に退院となりました。
編集部
受診から手術、現在に至るまで、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
M.Oさん
周りへの告知は難しいなと思いました。特に父はパニックになり、義両親にも電話をしてしまって、がんであることを言ってしまいました。それだけでなく「〇〇くん(主人)は一緒にいて気付かなかったのか」「もっと早く病院に連れていってくれれば」と、まるで『お宅の息子は何やってたんだ』みたいな言い方でした。幸い義両親は穏やかに収めてくれましたが、こちらとしては申し訳なくて仕方なかったです。主人や母は、とにかく心配、不安、物理的負担が多かったと思います。病気というのは時に、本人よりも周りが大変だとしみじみ感じました。職場には、ズバッと伝えました。誰にどこまでと線をひいてもどうせ伝わるし、間違った噂が立つのも嫌だったので。 ただ、後になって「言われてどう反応していいか戸惑った人もいたのかな」と思いました。
「がん」は、人生観を変えた貴重な経験。後悔はない
編集部
病気の前後で変化したことを教えてください。
M.Oさん
自分では冷静に受け止めていたつもりだったとはいえ、「がん」という事実は無意識のうちに大きなインパクトがあったみたいです。術後、転移がないかなどの検査結果が出るまでは少しナーバスな自分もいて、そんな自分に戸惑いました。再発、転移がないかの定期的な検査はあと5年続きます。ただ、一度は「これで人生終わるかもしれない」とリアルに感じたため、その後は「生きていてラッキー」「おまけをもらった」といった得をしたような感覚があります。何事にもあまり大きな期待をしなくなりました。これは元々の性格などもあるとは思いますが「ほどほどで十分」と感じています。「いつ死んでもいい」と思いつつも、時々訪れる再発などの恐怖に自分で驚く、という不思議な感覚が消えません。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
M.Oさん
そもそもの経緯が、ほかの病気の検査で見つかったので、ある意味ラッキーだったと思うくらいで、後悔はないです。血便があった時点で受診すれば内視鏡での切除で済んだのかな、とは思いますが、がんになり手術をしたことは、その後の人生観を変えた貴重な経験でした。手術をしなくて済んだかもしれないなら、そこは後悔しろよと思われるかもしれませんが、私はしていません(笑)。ただしこれは、手術だけで済んで、その後の抗がん剤治療などが必要なかったから言えることだとは思っています。
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
M.Oさん
便通の感覚が変化しました。直腸がんの術後は、どちらかといえば緩くなる方が多いようですが、私は便秘でした。内服薬でコントロールしていますが、安定はしていません。術後3ヶ月で介護の仕事に復帰しました。ただし、無理のないように、社員からパートになりました。体力の衰えは感じつつも週に5回、8時間勤務をしています。食事は、基本的には何を食べてもOKですが癒着や腸閉塞の不安が常にあり、消化にいいものをよく噛んで食べようと意識するようになりました。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
M.Oさん
私がお世話になった病院は、入院中、主治医も可能な限り顔を出してくれたし、何より、ナースの方が皆さん気持ちよく接してくれてとてもありがたかったです。私の症例は、特に珍しいものではなく(監修医註:術後偶発症の乳び腹水は比較的稀な疾患)、標準治療が確立しているということで、セカンドオピニオンはとらずに見つかった総合病院で手術しました。距離的に近かったので、お見舞いも来やすかったようですし、術後の通院もしやすく、結果的に当たりでした。正直、世間の評判はあまり良くない印象でしたが、私自身が「この主治医になら任せられる」と感じたこと、通院していてナースの皆様で嫌な思いをしたことがなかったことなどから、自分の感覚で決めました。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
M.Oさん
現代はSNSなどで情報は溢れており、見るなという方が難しいと思います。私は、最終的には、がん専門病院のウェブサイト(わかりやすかったし、がん専門という信頼性から)と自分にしっくり来る方のブログを数人決めて見るようにしていました。リアルな経過を知ることができ、入院時の便利グッズなどの情報も参考になりました。図書館でも色んな本を借りましたが、その中から一冊絞って購入し、教科書代わりにしました。治療中は主治医との信頼関係が一番ですが、自分自身が賢い患者になることも必要だと思います。知識を詰め込むということではなく、ある程度の情報は入れておいた方が受診時に心構えができたり、やり取りがスムーズになったりすることはよくあるからです。医師の話に対して、ネットで得た情報をを振りかざすのはどうかと思いますが、どの情報を、どれだけ取り入れるかの判断を間違えなければ、ネットも非常に役立つツールだと思います。
編集部まとめ
M.Oさんが経験した検査や告知、手術などは、決して他人事ではなく、私たちが生きている限りいつ起こってもおかしくない出来事です。最後に伝えてくれた「情報」や「知識」との付き合い方なども、非常にためになりました。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。