【闘病】タバコは20年前に辞めたのに… まさかステージ4の「肺がん」になるとは
「肺腺がんステージIV(4)」と診断された小林栄樹さんは当初、咳の症状があったものの、それ以外の自覚症状はほとんどなかったそうです。どのような経緯で病院を受診し、どのように治療を進めていったのか、そして、一家の大黒柱としての家族への想いなどを聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2024年2月取材。
体験者プロフィール:
小林 栄樹
1973年生まれ、兵庫県尼崎市在住。妻、子ども2人の4人家族。診断時は串かつ屋を経営。2021年4月に肺がん(肺腺がんステージIV)が発覚し、その後、多発肺内転移、リンパ節転移、多発骨転移が見られ、手術は難しいとのことで2021年7月より、抗がん剤治療(アリムタ+シスプラチン)を行い、その後分子標的薬に変更し、2023年9月、担当の医師より「寛解している」と告げられた。
記事監修医師:
木下 康平(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
もし薬で一時的に咳の症状が治まっていたら…
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
小林さん
2021年、新型コロナウイルスが流行し始めた頃に咳の症状があり、病院へ行ったのがきっかけです。病院で新型コロナウイルスの検査をしてもらいましたが、陰性だったため最初は抗生物質を処方されて、様子を見ることになりました。しかし、しばらく経っても咳が収まらず、再び受診することになりました。そこでレントゲンを撮ってもらったところ、白いモヤがあり、すぐに大きな病院を紹介されました。そこで肺腺がんステージIV(b)と判断されました。
編集部
自覚症状などはあったのでしょうか?
小林さん
当初、自覚症状はほとんどなかったです。仕事が飲食業のため、咳がひどくなるとお客様に迷惑をかけてしまうと思い、「咳だけ止めてほしい」と先生にお願いしていました。もし、薬で一時的に咳が止まっていたら、再度病院に行くことはなかったと思いますし、レントゲンすら撮っていなかったのではないかと思います。まさか自分ががんだとは思ってもみませんでした。「がん」が頭をよぎるような自覚症状はなかったと思っています。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
小林さん
まずは生検をしてがんを詳しく調べると言われ、CTやMRI、PETなど色々な検査を受けました。ちょうどこの時期、肺がんの遺伝子変異検査をする方が多かったようで、結果が出るまで3週間から1カ月かかると言われました。通常は、遺伝子変異に応じた分子標的薬→抗がん剤→免疫チェックポイント阻害薬療法となりますが、その間にがんが進行してしまうので、遺伝子変異検査の結果を待つよりも先に治療を開始したほうがよいとの話があり、抗がん剤→分子標的薬(現在[取材時]はここです)→免疫チェックポイント阻害薬療法の順番となりました。
編集部
医師とのコミュニケーションは円滑でしたか?
小林さん
抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬療法など色々な治療法の説明を受け、分からないことは教えていただいて、納得したうえで今できる治療を始めることができました。僕の場合は、先に抗がん剤治療を開始することになったわけですが、その後、遺伝子が判明した場合でも分子標的薬の治療を行うことは可能であるかなども、事前に確認させてもらいました。
編集部
遺伝子変異検査の結果はいかがでしたか?
小林さん
※ROS1遺伝子異常 細胞が増殖したり、新しい機能を持った細胞に変化したりするときに働くROS1遺伝子がほかの遺伝子と融合して生じた異常な遺伝子のこと。
編集部
抗がん剤治療は順調に進められたのでしょうか?
小林さん
「アリムタ」+「シスプラチン」の2クール後、心臓に水が溜まっていることがわかり、抗がん剤の影響の可能性が高いとのことで、「アリムタ」+「カルボプラチン」に変更になり、2クール行ったあとに「アリムタ」のみとなりました。主な副作用は、気持ち悪さ、倦怠感、口の中が気持ち悪いという症状で、「アリムタ」単体になってからは、だいぶましになりました(少しですが脱毛もありました)。初めの化学療法は入院が必要でしたので仕事はしばらく休みを取り、治療に専念し、「アリムタ」単体になったころから仕事を再開し始めました。
編集部
抗がん剤の効果はあったのでしょうか?
小林さん
はい。効果があったのでしばらく様子を見ていたのですが、2022年8月(抗がん剤を始めて1年1カ月)に耐性ができてしまったことがわかり、現在も服用している分子標的薬の「ロズリートレク」に変更になりました。このときの副作用が味覚障害と頭痛で、甘いものが苦く感じ、職業柄(飲食業)大変でした。現在も「ロズリートレク」を朝2錠服用し、仕事をしながら通院しています。そして2023年9月に、先生より「寛解しています」とのお話をいただきました。一時期心臓の動きが良くないとのことで循環器内科も受診しましたが、こちらは薬で改善が見られ、現在は呼吸器内科と循環器内科で治療を続けています。
編集部
心臓の動きが良くなかったのは、なぜでしょうか?
小林さん
心臓自体の動きも悪く、先生に調べていただきましたが原因不明と言われました。きつい抗がん剤を使用したので弱まったのかもしれません。
肺がんだと分かったときは、家族や仕事のことを想って感情が入り乱れた
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
小林さん
まず家族のことが心配でした。うちにはまだ小さな子どもたち(当時4歳と1歳)がいましたし、病気への知識もなかったため、すぐに亡くなってしまうものだと恐怖しかなかったのを覚えています。自分でお店を経営していたこともあり、さまざまな感情が入り乱れていたと思います。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
小林さん
食事の改善から始めました。妻に、無添加の食材で食事を作ってもらったり、朝は野菜ジュースを飲んだりと、今まで無頓着だった食事を改善しました。水も水道水ではなく、天然水などに変えて飲むようにし、体もなるべく温めるようにしました。また、一生懸命治療を考えていただいている先生の言葉を理解できるように、肺がんに関する本を読むなど勉強しました。治療を理解して、前向きに取り組んできたと思います。あとは、家族との時間を増やせるように仕事の時間帯を変更しました。
編集部
病気に向き合う上で心の支えになっているものを教えてください。
小林さん
もちろん家族と仲間です。子どもたちの成長を見続けたいという想いが一番大きいです。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
小林さん
すでに20年前に辞めていましたが、タバコを吸うのを辞めるように言いたいです。あとは食を意識するようにと言いたいです。独身時代は毎日仕事が遅くなり、何も考えず毎日コンビニのお弁当や冷凍食品、手軽に食べられる菓子パンなどを食べていたので……。早く人間ドックなどの検査を受けるようにとも言いたいです。ほかにも言いたいことがたくさんありますが、このくらいに(笑)。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
小林さん
特に薬の副作用もなく、体調はとても良く元気に過ごしており、仕事も今まで同様にこなしています。現在は分子標的薬の「ロズリートレク」を朝食後に2カプセルと、カルシウムを補う「デノタスチュアブル」を夕食後に2錠服用しています。
早期発見の大切さを知ってほしい
編集部
肺がんを意識していない人に一言お願いします。
小林さん
早期発見がとても大事なので、検査は絶対受けてほしいです。早く見つかったら治せる病気ですのでそのことを意識していただきたいですね。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
小林さん
本当に感謝しかありません。医療従事者のみなさまの日々の努力が患者さんを救ってくれています。今後のますますの研究結果を楽しみにしております。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
小林さん
当時、病気がわかってからは家族のこと、子どものこと、友人のこと、たくさんの想いがあふれ毎日泣いていました。「まさか自分ががんになるとは……」とも思いました。しかし病気と向き合い、たくさんの方の支えで前を向くことができ、標準治療へ進むことができて、今があります。ステージIVでも諦めなくてもよいかもしれない時代が目の前まで来ています。早期発見はとても大事だと思います。「自分はがんとは無関係だ」と思わずに、早めの検査、食事の改善、生活の見直しなど、今できることを意識して日々過ごしてほしいと思います。同病のみなさまが良い方向に向かうよう祈っています。
編集部まとめ
小林さんへの取材を通して、「早期発見」の大切さを感じました。仕事、家事、子育て、介護など、目の前にやるべきことがあると、つい自分の体は後回しにしてしまいがちです。ですが、手遅れになってからでは後悔してもしきれないでしょう。どんなに忙しくても、定期的に人間ドックや健康診断を受けることを念頭に置いて過ごしていきたいと思います。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。