【闘病】40代で“乳がん”に。「がんと縁がないと思い込んでいた」周囲の精神的な支えで乗り越えた闘病生活
「自分はがんと縁のない人間だと思い込んでいました」と語るのは、突然乳がんと診断されたみゅう子さん(仮)。絶望と孤独を感じながらも周囲の人々に支えられ、2度の手術を乗り越えられたがんサバイバーです。病気とプライベートの変化が重なり、過酷な状況を救ったのは周囲の人の理解と支えでした。そこで今回は、みゅう子さんが闘病された「乳がん」について、初期症状や治療法、闘病期の乗り越え方を教えてもらいます。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年11月取材。
体験者プロフィール:
みゅう子さん(仮称)
40代女性。2021年12月頃に右胸の側面に1cmほどのしこりがあることを発見、翌年2月に健康診断後の精密検査で「がんの所見あり」と診断。PET-CT検査や生体検査を行ったところ、「ステージ2Bの乳がんでリンパ節転移あり」との告知を受けた後の病理検査の結果、ステージ3Aとの診断結果を受ける。乳房全摘出手術と追加切除手術など2度の手術を行い、現在はリュープリン注射とタモキシフェンの内服にて経過観察中。
記事監修医師:
寺田 満雄(名古屋市立大学病院乳腺外科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
目次 -INDEX-
始まりは右ひじの違和感と右胸側面の小さなしこりだった
編集部
みゅう子さんが乳がんと診断されるまでの経緯を教えていただけますか?
みゅう子さん
最初に症状を感じ始めたのは2021年8月頃です。在宅ワークをしていたのですが、右ひじの痛みとだるさを感じ、夜中には強い違和感で目が覚めるほどでした。ですが、在宅ワークの環境が整っていないせいだと思い込んでいました。それから2021年12月頃に右胸の側面に1cmくらいのしこりを発見して様子見をしていたのですが、翌年1月には乳頭横に大きめのしこりが触れるようになりました。翌月の健康診断の触診後に「念のために精密検査した方がいい」と言われました。そこで、PET-CTや生検も行ったところ、「ステージ2Bの乳がんでリンパ節転移あり」と確定診断されました。
編集部
小さなしこりから始まっていたようですが、ほかに体調の変化はありましたか?
みゅう子さん
右ひじの痛みと同じ頃からカンジダを繰り返し、通院しても治らず悩んでいました。また、確定診断を受ける3カ月前から激しいめまいや1週間も続く腸の痛み、少し動くだけで激しく息切れするなどの症状がありました。仕事が忙しく、激務のせいだと思っていましたが、「ひょっとするとこの時点で何らかの異変があったのかも」と今では思います。また、食嗜好の変化もあったので、女性ホルモンの変化が影響していたのかもしれません。そして関係あるかは不明ですが、手術後にこれらの症状がすべて消えました。
編集部
医師から診断を受けた時はどんな気持ちでしたか?
みゅう子さん
それまで自分はがんと縁のない人間だと思い込んでいました。親族にがんに罹患した人もいないので根拠のない自信があり、明確に死を考えたこともありませんでした。しかし、乳がんと診断されたことで「死」というものを明確にイメージし、目の前が真っ暗で孤独を感じました。また、両親は持病の治療をしていたので、一切の金銭的な援助も受けないようにしなければという気持ちもあり、不安で心を病みそうでした。仕事面でも会社が倒産するなどタイミングが重なり、先のことが考えられませんでしたね。がんになった自分の胸を鏡で見ることも避けていました。きちんと鏡の中の自分と向き合えたのは、術後だったと思います。
編集部
とても辛い状況だったと思いますが、どのような治療をされたのですか?
みゅう子さん
私の場合、「浸潤性小葉がん」とのことで、第一選択は手術になりました。リンパ節転移もあって範囲が広いため、全摘出および乳頭と広範囲の皮膚の切除術をする必要があるとのことでした。希望するなら乳房同時再建術も可能とのことで、そちらも希望しました。また、術後の病理検査の結果を見て今後の治療方針を最終決定するものの、予定されていた治療は化学療法、ホルモン療法、放射線治療です。
編集部
発症後から手術などを経験し、発症前と現在で生活や心境に変化はありますか?
みゅう子さん
発症後に大きく変わった点は、とてもポジティブになったことです。辛く苦しい経験をして、これまで抱えていた小さな悩みが大したことではないと感じるようになりました。また、がんをきっかけに人生には限りがあることを知り、ネガティブな感情や不平不満、愚痴に時間を費やすのは、短い人生の中で非常にもったいない時間であると感じるようになりました。気持ちの切り替えがうまくなったような気がします。ですが、今でも検査の日は再発のことなどを色々考えてしまい、恐怖感はどうしてもあります。
共に乳がんと闘う仲間の存在が苦しかった時期の支えになった
編集部
乳がんの手術は2度行われたそうですが、いつ頃行われたのですか?
みゅう子さん
乳がんの診断を受けたのが2022年3月中旬頃で、約1カ月後の4月下旬には右乳房全摘出術と乳房同時再建術を行いました。同年5月に病理検査の結果が出て、ステージ3A、腫瘍浸潤径6cm、乳管内病変を含めた全体の腫瘍径9cm 、断端陽性のため追加手術が必要とのことでした。断端陽性とは「手術で切除した範囲の端までがん細胞が確認された」というものです。同年6月にはオンコタイプDXで乳がんの検査を行い、二カ月後の8月に再入院と追加手術、そして乳房再建術を行いました。
編集部
手術後は化学療法なども行ったのでしょうか?
みゅう子さん
乳がんの遺伝子検査であるオンコタイプDXの結果を受け、化学療法は行いませんでした。2022年9月から半年に1度のリュープリン注射、タモキシフェンの内服は続けていて、3カ月に1度の受診も継続中です。2022年10月から11月の間は30回放射線治療を行いました。今のところリュープリン注射の影響もあってか生理の中断はあるものの、副作用のホットフラッシュや気分の変化は一切見られていません。
編集部
術後の後遺症や気になっている症状などはありますか?
みゅう子さん
手術をしてから術側の激しい肩こりに悩まされているのと、右腕にある少しのむくみが気になっています。ですが私の場合は、抗がん剤治療を行っていない影響もあって日常生活を支障なく過ごせています。2回目の手術から5カ月経過した頃には、趣味のスノボが楽しめるくらいまでに回復しました。
編集部
当時の過酷な状況で気持ちが落ち込んだ時に支えになったものはなんでしょうか?
みゅう子さん
仲間の存在です。診断されてすぐ、孤独に耐えられずがんサバイバーとその家族のコミュニティサイトに登録しました。孤独な胸の内を打ち明けたところ、たくさんの方が支えてくださいました。みんな私と同じような経験をしたがんサバイバーなので、有益な情報を教えてくれ、初めて「がん相談支援センター」の存在を知ることができました。それまでは闇雲に情報を調べて不安になっていましたが、「あなたは一人じゃないよ」と声をかけられたとき、思わず泣いたことを覚えています。また、2回目手術の時には同時期に私を含め4人乳がんの手術をする人がいて、「ワンチームだよ、みんなで頑張ろう」とみんなで声を掛け合ったのが心の支えでした。
編集部
もしも病気を発症する前の自分に伝えたい言葉があるとしたら、どんな助言をしますか?
みゅう子さん
がんになる前は毎日お酒を飲み、たまの飲み会でもお酒の強さを自慢にたくさん飲んでいました。しょっぱいものも好きで、頻繁に食べていたカップラーメンの汁は全て飲み干し、食べ物には一切気を使っていませんでした。過去の自分に助言できるなら、「普段から生活に気を付けること」と、「体に起きた異変を放置しないこと」と伝えたいです。
がん治療を続けていくには「周囲の人間の理解」が大きな救いになる
編集部
がんの治療を続けるうえで、助けになったものは何でしょうか?
みゅう子さん
会社と友人の理解です。今の会社は病気のことをとても理解してくれていて、在宅を中心にした働きやすい環境を作ってくれています。また、病気を打ち明けた友人も、変に気を使うことなく今まで通りに接してくれています。がんは命に関わる大きな病気ですが、私の周囲がこのような環境を作ってくれて救われていると感じることが多く、感謝しています。
編集部
新しい会社ではどのような助けがあったのでしょうか?
みゅう子さん
以前の会社が倒産になり、事業譲渡で新しい職場に就職しました。しかし、入社日が入院日になってしまい内定取り消しにならないか、保険証が手元になく一時的とは言え多額の医療費を支払うかもしれないのか、と不安になっていたところ、会社のほうから「身体を第一にしてほしい」と言ってもらえて気持ちが楽になりました。また、1カ月遅れで入社したのですが、幹部の方からも声を掛けていただき、会社のおかげで放射線治療も休職せずに継続できました。がん治療は社会的不安も大きいですから、会社の理解は精神的な安定にもつながる重要なことだと感じています。
編集部
みゅう子さんの経験を通して、医療従事者に伝えたいこと・望むことはありますか?
みゅう子さん
私にあった治療方針や検査をすすめてくださり、感謝しています。特に、オンコタイプDXを勧めてくださった先生には感謝を伝えたいです。私は運よく無償で検査できましたが、本来なら自費で数十万円もの費用がかかると聞きました。2023年9月からは医療保険対象となるので、これまでの生活水準を保てる治療は大変ありがたいと感じます。
編集部
最後に、この記事の読者の方へ伝えたい言葉をお願いします。
みゅう子さん
がんに限らず、病気の発覚前は体が何らかの合図を出しているかもしれません。大丈夫という自己判断は取り返しのつかない事態になりえます。乳がんは早期発見・早期治療がカギを握るので、毎年の健診とセルフチェックが大切です。体の異変を感じたら軽くみないで受診してほしいです。そして、がんと診断されて苦しんでいる方には「あなたは一人ではないから大丈夫」と伝えたいです。また、会社で幹部やマネージャーをされている方には、がんになった社員が仕事やお金、治療との両立について不安を感じていることを理解してもらえればと思います。がんの治療をする方にとって、会社の理解は大きな助けになります。
編集部まとめ
突然の乳がん宣告と会社の倒産など様々なタイミングと重なり、大変な経験をされたがんサバイバーであるみゅう子さん。ですが、今は元気に生活されており、やりたいことを「いつかやる」ではなく「今やる」という気持ちで日々を過ごされています。乳がんは若年から中高年まで、幅広い年齢層の方が発症するリスクのある疾患です。早期発見すれば根治もしやすいため、日頃からセルフチェックを行い、乳がん検診も欠かさないようにしましょう。
なお、Medical DOCでは病気の認知拡大や定期検診の重要性を伝えるため、闘病者の方の声を募集しております。皆さまからのご応募お待ちしております。