はじめて授かった子どもは死産「もう同じ経験はしたくない…」恐怖に打ち勝って出産
30歳で結婚して、子どもを持つか迷っているうち気がつけば30代半ば。「いよいよ子どもがほしいと思ったときに、なかなか妊娠できなくて辛かった」というNakoさん(仮称)。死産や染色体異常などの困難を乗り越え、タイミング法で第一子を授かったNakoさんご夫婦に、不妊治療について振り返っていただきました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2023年5月取材。
体験者プロフィール:
Nakoさん
東京在住、1986年生まれ。家族構成は夫と娘との3人暮らし。年齢的なこともあり34歳で子どもを持つか迷い、不妊治療クリニックにて検査を受診。その後、子宮内膜症や橋本病といった持病の治療をしながらタイミング法にて第一子を授かる。
体験者プロフィール:
Nako夫さん
東京在住、1986年生まれ。妻と娘との3人暮らし。「夫婦で楽しく生きていければ、子どもはいてもいなくてもいい」と考えていた。妻の病気や年齢的なリミットを前にはじめて妊娠について考え始める。
記事監修医師:
鈴木 幸雄(産婦人科専門医・婦人科腫瘍専門医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
妊活と並行して子宮内膜症・ポリープ・橋本病の治療を受ける
編集部
まず、いつ頃からお子さんを授かろうと思ったのか教えてください。
Nakoさん
私たち夫婦は同い年で、ちょうど30歳のときに結婚しました。当時から子どもを作るかどうかは迷っていて、結局決断しないまま30代半ばを迎えました。悩みながらも妊活をはじめたものの、すぐには思ったような結果が得られませんでした。2021年の夏頃、思い切って東京都の助成制度を利用して不妊検査を受けに行きました。
編集部
検査の結果はどうでしたか?
Nakoさん
医師からは「子宮内膜症の傾向があるが、すぐに手術をするほどではない。妊娠することで生理がない期間、状況が改善することもある」と言われました。
編集部
旦那さんも検査を受けたのですか?
Nako夫さん
はい。僕も精子を採取して検査をしましたが、特に異常は見つかりませんでした。
編集部
その後の経過はいかがでしたか?
Nakoさん
2人とも検査で大きな異常は見られなかったので、「すぐに子どもはできるだろう」と思っていました。タイミング法から始めてみたのですが、なかなか妊娠には至らず「こんなに妊娠って難しいんだ」と初めて自覚しました。
編集部
その後はどのような治療をおこなったのですか?
Nakoさん
妊活をしていく中で子宮内膜症がどんどん進行し、左側の卵巣が10cmほどに腫れてきてしまったので大学病院に紹介状を書いてもらい、腹腔鏡で手術をしました。また、子宮に小さなポリープがたくさん見つかり、受精するとき邪魔になる可能性があったため、全て取り除きました。
編集部
複数の治療をおこないながら、タイミング法を続けたのですね。
Nakoさん
はい。また、妊活中に軽度の橋本病を発症していることもわかりました。橋本病は妊娠の維持や子どもの成長に必要な甲状腺ホルモンの分泌が低下する疾患です。そのため、投薬での治療も並行しておこないました。
タイミング法で妊娠したものの、染色体異常で死産に
編集部
不妊治療の経過はいかがでしたか?
Nakoさん
タイミング法を続けてしばらくした頃、先生に「半年続けてみて妊娠しなかったら、次のステップに進みましょう」と言われました。私たちは期限や予算などあまり考えず、「妊娠できなかったらそれはそれで、体外受精には進まずに2人の生活を楽しもう」と考えて妊活を続けていましたが、幸いなことにタイミング法を始めて半年で妊娠することができました。
編集部
無事に妊娠できたのですね。
Nakoさん
はい。2022年1月に妊娠がわかったときはホッとしました。でも、週数が進むにつれて胎児に異常が見つかり、結果的に死産となってしまいました。妊娠が発覚したのは2022年1月、胎児の心拍が止まり、死産になったのが同年4月です。その胎児には染色体異常がありました。
編集部
なぜ、染色体異常があるとわかったのですか?
Nakoさん
「首の後ろにむくみがある」と妊婦健診の際に先生に指摘されたんです。そのときは、それが何を意味するのかわからなかったのですが、調べてみたらダウン症や18、13トリソミーなどの染色体異常の可能性があることがわかって……。急に目の前が真っ暗になりました。
編集部
「染色体異常の可能性がある」とわかったとき、どうされたのですか?
Nakoさん
その後、確定検査である絨毛検査を受けて染色体異常があることを確認しました。そして2人で話し合い、障害があっても産んで育てようと決めました。しかし、産むと決断した妊娠6カ月で心拍が止まってしまい、亡くなった赤ちゃんを分娩で出産しました。産後で精神的にも肉体的にもダメージを受けている中、自分たちで子どもの火葬の手配や死産届の提出などをしなければならないのも辛かったです。こうした経験から、「この先、妊娠してもまた同じようなことが起こるのでは……」と、妊娠するのが怖くなりました。
編集部
その後、二度目の妊娠をされるのですね。
Nakoさん
はい。再びタイミング法で授かりました。しかし、一度目の妊娠で染色体状が見つかり、死産になってしまったこともあって、妊娠がわかったときは喜びよりも不安の方が強かったです。
編集部
旦那さんの当時の心境はいかがでしたか?
Nako夫さん
僕も同じです。一度目の妊娠はとても嬉しく、喜びしかありませんでしたが、二度目のときには不安の方が強く、無事出産するまでずっと続きました。
編集部
二度目の妊娠のときには、出生前診断を受けたのですか?
Nakoさん
いいえ。一度目のときには染色体異常があっても出産するつもりでしたし、二度目の妊娠のときには医師の発言や診察の様子から、「異常はないだろう」と感じていました。検査の時点で染色体の異常が見つからなくても、ほかの障害の可能性はたくさんあるため、あえて受けませんでした。また、「どんな子どもであっても産んで育てよう」と決めていたので、妊娠中に知らなくてもいいと思っていました。
編集部
不妊治療中、辛かったことはなんですか?
Nakoさん
私は外資系の会社でフルタイム勤務しているのですが、会社は9割独身女性。子育て中の人はほとんどいない環境で働いていることもあって、通院のために早退したり会社を休んだりしなければならないのが辛かったですね。理解されないと思ったので、結局不妊治療をしていることは上司にも相談せず、有給休暇を消化して通院していました。
編集部
辛かったときは、どうやって対処されていましたか?
Nakoさん
とにかく夫に愚痴を言いました(笑)。よく話を聞いてくれたので、ありがたかったですね。あとは最初の子どもに染色体異常が見つかり、どうしていいかわからなかったときに、Twitterで知り合った同じ境遇のママたちと話をすることがメンタルケアになりました。
編集部
同じ境遇の女性と話ができると、お互い励みになりますね。
Nakoさん
そうですね。中には偶然、同じ区内に住んでいて年齢も近い女性もいて、オフラインでもお会いしてお茶したのは息抜きになりました。自分と同じ境遇の人の体験談は勉強になりましたし、心の支えにもなりました。
編集部
そんな様子を見て、旦那さんはいかがでしたか?
Nako夫さん
彼女は普段からバイタリティがあり、知らない人にでも積極的になれる人なので、そういう性格がプラスに働いたんじゃないかと思います。だから、悩んでいたり、不安になったりしているのは知っていましたが、僕はあまり声をかけずに見守っていました。
編集部
旦那さんも誰かに相談することはあったのですか?
Nako夫さん
はい。同じ職場の先輩で不妊治療をしている人がいたので、「どこの病院で、どんな治療をしているのか」などをよく相談していました。彼女は逆子を治すために鍼治療をしたのですが、その治療院を教えてくれたのも先輩ご夫婦でした。
「不妊治療は妊娠して終わりではない」妊娠中にも助成制度を
編集部
不妊治療を経て、夫婦の関係性には何か変化がありましたか?
Nakoさん
私たちは同い年で仕事が似ていることもあり、不妊治療を始める前はフラットな関係でした。しかし、不妊治療を始めたら、私の方が会社を抜けて通院したり、手術や検査をしたりする回数が多く「全然対等ではないな」と思いました。社会的に男女平等を求める動きもありますが、初めてその意味がわかりました。
編集部
旦那さんはいかがですか?
Nako夫さん
彼女が治療や検査で辛かったときには、「私の代わりに出産して!」と言われました(笑)。女性と同じ体験をすることはできませんが、子どもが産まれてくる痛みなどをできるだけ想像するようにしていました。
編集部
治療を終えて、政府や医療機関に望むことはありますか?
Nakoさん
不妊治療は妊娠してゴールではなく、そこからがスタートです。現在、少しずつ助成制度が整備されてきましたが、できれば不妊治療だけでなく、妊娠や出産における助成制度を手厚くしてほしいと思います。
編集部
旦那さんはいかがですか?
Nako夫さん
僕は現在、2週間の育休中なのですが、本当は1~2カ月取りたかったんです。会社に育休制度はありながら、実際にその制度を使おうとすると上司があまりいい顔をしないのが現状です。今、僕の友だちがドイツにいるのですが、ドイツでは国をあげて男性も3カ月の育休を取るよう推奨されているらしく、そうした国と比べると日本はまだ遅れているなと思います。また、制度自体は用意されていても、それを活用しようとする人のマインドが変わらないと、なかなか実態が伴わないんじゃないかなと思います。
編集部
最後に、これから不妊治療を始める人や、治療中の人へのメッセージをお願いします。
Nako夫さん
男性も不妊治療中は不安や悩みを抱えるもの。1人で問題を抱え込んで殻に閉じこもるのではなく、ぜひ周りの人と話をして悩みを共有してほしいと思います。僕は会社の先輩と話をすることで、役立つ情報をもらえましたし、不妊治療中に起こり得る悩みや問題についても色々と教えてもらえました。不妊治療をしていない普通の友だちに治療の悩みを相談するのは難しいので、ぜひ同じ環境の人を見つけて、様々な話ができるといいと思います。
編集部
Nakoさんはいかがですか?
Nakoさん
私はよくTwitterなどのSNSを活用していたのですが、なかにはネガティブな感情でいっぱいになっている人も見かけました。同じ不妊治療をしていた仲間が無事に妊娠出産をして、SNSで幸せな写真を投稿しているのを見つけては、「あれは私への当てつけだ!」と言ったり、「マウンティングだ!」と怒ったり……。そういう人と関わると自分もネガティブな感情に引きずり込まれそうになるので、その人とは距離を置いて連絡を取らないようにしていました。また、無事出産した人に対する妬みや愚痴ばかりを聞いているとその雰囲気に飲み込まれてしまいそうだったので、あえて距離を置きました。不妊治療中は不安を感じることも多いけれど、できるだけ自分のメンタルを保つためにも、自分に悪影響になりそうな情報はシャットダウンするくらいの割り切りが必要だと思います。
編集部まとめ
タイミング法で妊娠できたものの、染色体異常による死産を経験。二度目に妊娠したときには「また染色体異常だったら……」「死産だったら……」という思いが呪縛のように襲いかかってきたとNakoさんは言います。そうした不安を増幅させないためにも、自分に不要な情報はシャットダウンする強さが重要とのことでした。できるだけ精神をポジティブな状態で保つためにも、情報の取捨選択には注意する必要がありそうです。