不眠症改善に効果的な薬を薬剤師が解説 服用時の注意点は?
日本人の5人に1人は不眠を感じており、特に60歳以上の方だと3人に1人は不眠で悩みを抱えていると言われています。そんな不眠症に対して処方される「睡眠薬」ですが、副作用や注意点が気になります。そこで今回は睡眠薬の特徴について上尾中央総合病院で薬剤師として勤める糸井さんに解説していただきました。
監修薬剤師:
糸井 陽介(薬剤師)
睡眠薬の種類・それぞれの特徴を解説
編集部
睡眠薬にはどんな種類があるのでしょうか?
糸井さん
睡眠薬に分類される薬剤には大きく分けて3つあります。「ベンゾジアゼピン系睡眠薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」の3つですね。ベンゾジアゼピン系にはさらに薬効の効く時間により長短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型の4つに細分化されます。
編集部
それぞれどのように違うのでしょうか? ベンゾジアゼピン系睡眠薬から教えてください。
糸井さん
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、脳のGABAを刺激することで睡眠に関与する神経を活性化して睡眠を促す薬剤です。ベンゾジアゼピン系は患者さんの不眠の状況に対応できるよう、作用時間の異なる種類が豊富にあります。入眠が困難な人には超短時間作用型、短時間作用型、中途覚醒をしやすい人に対しては中間作用型、長時間作用型が使用されます。その反面、筋弛緩作用があるため高用量・長期間の服用になるほど転倒のリスクが高まり、骨折などしてしまうと健康寿命を縮めてしまうというデメリットもあります。身体的、精神的依存や物忘れなどの症状も出てくる可能性があります。
編集部
メラトニン受容体作動薬はどのような薬なのですか?
糸井さん
メラトニン受容体作動薬はロゼレムという薬剤のみです。メラトニンは日内変動よって夜間になるにつれて分泌量が増え、睡眠を促すホルモンですが、加齢に伴いこのメラトニンの分泌量が減ってしまいます。分泌されづらくなったメラトニンの分泌量を改善させることで睡眠を促すという薬剤ですね。ベンゾジアゼピン系とは異なり、筋弛緩作用や長期服用による依存は生じにくいとされています。
編集部
オレキシン受容体拮抗薬はどうでしょう?
糸井さん
デエビゴやベルソムラといった薬剤があります。オレキシンは覚醒状態を保つ役割のホルモンですので、そのオレキシンを抑えることで睡眠維持作用を発揮します。ベンゾジアゼピン系と比べても筋弛緩作用は少ないという試験結果も出ています。
編集部
1種類だけだと眠れる気がしない場合には、併用もできるのですか?
糸井さん
同じ薬効で併用するというのは基本的にはしません。薬効はある用量までいくと効果は頭打ちになり、副作用のリスクを増加させてしまいます。異なる薬効の薬剤の併用は可能となります。ただし、とても重要な事としてお伝えしますと、不眠に対して薬剤だけで対応をしても根本的な解決になっていないという点です。不眠症になる要因は数多くあり、運動不足やアルコール、たばこ等の嗜好品、ストレス過多など生活面の改善をおこなうことも不眠症治療の一つです。生活を振り返り改善の余地があれば、積極的に改善していきましょう。
睡眠薬の効果的な服用方法やメリット・デメリットを紹介
編集部
睡眠薬の効果を十分に発揮するためのポイントを教えてください。
糸井さん
睡眠薬ですので、寝る前に服用することがまず大前提になるでしょう。その他、眠れないタイミングがいつなのかを医師とよくお話をしていただくこと、決して睡眠を得るためにアルコールを摂取しないことなどが挙げられます。先ほどもお伝えした通り、睡眠薬によっては作用時間の異なるものもあるので、ご自身の状況とそぐわない処方がされた場合には、効果の実感は得にくいでしょうし、お体の負担になるケースが多くなります。アルコールなどの摂取も睡眠の質を大幅に低下させてしまうため、飲酒はほどほどにする必要もあるでしょう。
編集部
それぞれの睡眠薬のメリットは何でしょう?
糸井さん
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は作用時間の異なる薬剤が多く存在する為、より患者さんに合った薬を選択することが出来ます。メラトニン受容体作動薬については、筋弛緩作用が少なく、健康寿命を短縮してしまう可能性は低いので、高齢の方にも比較的安全に服用ができます。オレキシン受容体拮抗薬については、メラトニン受容体作動薬同様、筋弛緩作用は少ないですが、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と同程度の入眠導入剤としての作用をもち、中途覚醒も減少させる薬剤です。
編集部
逆にデメリットとしては何が挙げられますか?
糸井さん
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩作用を有する為、ふらつきや転倒のリスクが増加してしまいます。骨折リスクの増加も報告されており、特に高齢者が骨折すると、健康寿命にも影響してしまうことがデメリットとして挙げられます。ほかにも認知機能の低下や一過性健忘(物忘れ)、依存の報告もあり、高用量・長期服用により副作用のリスクは上がるため、漫然とした服用には要注意です。
不眠症に悩んだらまずは受診を 減薬のタイミングも医師・薬剤師に仰ぐことが大切
編集部
不眠症に悩んだらまずはどうしたらよいでしょうか?
糸井さん
不眠症になる原因にはいくつもあり、睡眠薬で対応するべきでないものもあります。眠れないことに悩んだ際には医師へ必ず相談し、診断をもらいましょう。
編集部
睡眠薬の漠然として服用は良くないと分かりました。眠れそうなら自己判断で睡眠薬を中止したり服用する量を減らしてみたりするのはいいのですか?
糸井さん
睡眠薬を服用していない人に対してですが、眠れそうだというのなら、そもそも睡眠薬をもらうことを止め、生活習慣の見直しやストレスがあるならそれを解消する努力が必要となるでしょう。既に睡眠薬を服用している人の場合には、健康を損なう可能性がありますので決して自己判断での中止はしないでください。
編集部
なぜ自己判断で中止してはいけないのですか?
糸井さん
ベンゾジアゼピン系については依存性もあるというお話をさせて頂きました。長期間服用している方が急に服用を中止してしまうと、離脱症状といって身体が睡眠薬を欲しがり、様々な症状(頭痛、いらいら、めまい、動悸など)を引き起こしてしまいます。これは最悪死亡に至る可能性もあるので必ず避ける必要があるでしょう。
編集部
服用を止めたい場合はどうしたらいいのでしょう?
糸井さん
もし服用を辞める方向にしていきたいという希望があるのなら、医師や薬剤師に必ず相談しましょう。徐々に減量していくことで離脱症状の発現を回避することが可能です。しかし、服用している薬の用量やどれくらいの期間服用していたかなどで、症状発現のリスクは変わります。決して自己判断で薬の量は変えないようにしましょう。オレキシン受容体拮抗薬やメラトニン受容体作動薬については依存性が低いため、離脱症状を引き起こす可能性も低いですが、ホルモンに影響している薬剤なので、効果を実感するには継続的な服用が必要となります。こちらも自己判断の中止はしないようにしましょう。
編集部
ほかにも注意しなければいけないことはありますか?
糸井さん
冒頭でもお話した不眠症で悩んでいる人は多く、高齢になればその数も多くなります。決してご自身の薬剤を他人に渡すようなことはしないようにしましょう。不眠になる原因も異なれば、睡眠薬が逆効果になる可能性もありますし、薬剤師を介しないため併用薬の確認もできません。病院や薬局では「麻薬及び向精神薬取締法」という法律のもと管理されている薬剤でもあります。有害事象が起こった際に「医薬品副作用被害救済制度」の対象外になるだけでなく、「医薬品医療機器等法」にて罰せられます。きちんと病院にかかり安全に過ごすためにも気を付けるようにしていきましょう。
編集部まとめ
不眠といっても原因は多岐にわたるため、かかりつけの医師等へ相談するようにしましょう。まずは生活から見直すことで改善できるものもあります。睡眠薬を服用することになった場合には、副作用が起こる可能性もあるため体調の変化や日中も眠いなどの症状がある際には医師や薬剤師に相談するようにしましょう。