【体験談】あらゆる検査で「異常なし」なのに声を失ってしまった《心因性失声》
日々、精神的な負担を感じ、体調不良を繰り返していたという奈津子さん(仮称)は、4人の子どもを育てながら、仕事・家事と忙しい生活を送っていくうちに、ストレスで声が出なくなっていったといいます。心因性失声とはどのような病気なのでしょうか? どういった経緯で発症し、声が出なくなったのかについて、奈津子さんに詳しく話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
奈津美さん(仮称)
大阪在住。1978年生まれ。再婚して4児の母。長男20歳・長女18歳・次女6歳・三女2歳・夫の6人暮らし。診断時は介護職。現在は、自宅で療養しながら、在宅でできる仕事を少しずつおこなっている。
記事監修医師:
別府 拓紀(精神科医)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
目次 -INDEX-
過去の体験が発症の原因か?
編集部
心因性失声とはどのような症状なのでしょうか?
奈津美さん
心理的な原因によって起こる心の病気です。心因性失声は声がまったく出なくなったり、かすれたりするのですが、喉や声帯などの発声に関係する部分を調べても、何も異常が見られません。声は声帯が振動することによって発せられます。声帯を動かす神経が麻痺した時に、声帯がまったく振動しない場合に失声、振動が弱くなると嗄声(させい)になるのです。
編集部
病気が判明する前になにか予兆はありましたか?
奈津美さん
2020年12月に職場を退職してから、喘息を発症し、それが悪化していきました。2021年4月より、新たな職場に就いたのですが、人間関係ですごく悩み、体調面、メンタル面共に落ちていました。その時期に、頻繁に嗄声(させい/声がれ)が見られていましたが、喘息のせいだと思い放置していました。
編集部
喘息の治療は受けましたか?
奈津美さん
同年6月末に喘息の悪化のため、10日ほど入院しました。喘息の悪化をきっかけに職場も退職し、8月から週3日のパート(介護職)で働くことにしましたが、10月後半に嗄声の頻度が多くなり、総合病院で検査(MRI、CT、レントゲン、血液検査)を受けるも「異常なし」との診断でした。
編集部
では、心因性失声はどのように診断されたのでしょうか?
奈津美さん
嗄声が出ているときに耳鼻咽喉科に受診しても、異常なしの診断を受けるので、入院時に処方された吸入薬の副作用を疑いました。薬の変更をお願いし、実際に変えてもらいましたが、変化なしでした。そこで自分で症状を検索してみたところ、「失声症」の疑いがあるかもしれないと思ったのです。そこで以前に受診していた精神科・心療内科を受診したところ、解離性運動障害に含まれる「心因性失声」の診断を受けました。今は療養期間中です。
編集部
精神的な疾患は初めてだったのでしょうか?
奈津美さん
いいえ、治療を受けたわけではありませんが、患ったことがあります。16歳の時、学校の部活動の問題で、食べては吐くという症状がありました。当時、身長167cmで体重が58kgから、43kgまで減少していきましたが、そのときは治療などもせず、3年程で自然に元の状態に戻りました。
編集部
なるほど。だからかかりつけ医がいたのですね。
奈津美さん
そうですね。その後20歳で結婚したのですが、22歳で長男、25歳で長女を出産しました。27歳で離婚して30歳のときに、学生のときと同じ症状が出現し、体重が56kgから45kg近くまで減少したのです。内科を受診したものの、原因不明と診断されました。友人の勧めで精神科・心療内科を受診すると、うつ病、摂食障害、抜毛症による円形脱毛症と診断されました。
編集部
そのときは治療を受けたんですか?
奈津美さん
しばらく治療を受けました。漢方薬とカウンセリングを推奨する治療方針の精神科・心療内科でした。その後、生活に大きな問題はみられず、無事就職し、日常生活も問題なく過ごしていました。ただ、再婚してから、摂食障害、うつ状態になりました。次女出産前までは心療内科を受診し、投薬治療やカウンセリングを受けていましたが、妊娠をきっかけに受診をやめてしまいました。
治療方法は自分と向き合うこと
編集部
今はどのように心因性失声の治療を進めているのですか?
奈津美さん
心の負担になっている環境から離れて過ごしていれば声は出るようになるとのことで、そうしています。不眠などの身体症状に対しては投薬で対応し、不安があればカウンセリングを受けています。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
奈津美さん
原因がわからず、元の声に戻るのかずっと不安だったので、病気が判明したときはむしろ安心できました。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
奈津美さん
人と話すことが苦痛になりました。家から外に出なくてはいけないとき、億劫な気持ちになり、外出する頻度が極端に減りましたね。また、自分がどうしたいと思っているのか、本心はどこにあるのかを考えるようになり、自分自身と向き合う時間が増えました。
編集部
治療中の心の支えはなんですか?
奈津美さん
「子どもたちと生活していくために、このままではいけない」という想いが支えになりましたね。子どもたちといることで、症状もよくなってきました。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
奈津美さん
「無理をせず、我慢しない。ほかの人との違いや周りの目を気にせず、素直に自分を表現するように」と言いたいです。
編集部
現在の体調や生活の様子について教えてください。
奈津美さん
話をしなければいけない場所に行く頻度が極端に減り、引きこもりがちです。メンタル面は波もありますが、声は10日ほどで出るようになりました。嗄声は現在も残っています。ストレスがかかるとまだ失声するときもありますね。
伝えたい思い
編集部
解離性運動障害経験したあなたが今伝えたいことを教えてください。
奈津美さん
心因性失声だけでなく、世の中にはいろんな病気があり、苦しんでいる人がたくさんいることを知ってもらいたいです。見た目が健康そうに見えても、本人はとても苦しんでいたり、葛藤していたりと、毎日を一生懸命に過ごしています。精神疾患は「気のもちよう」「考え方が良くない」「みんなストレスがある」「弱いからそうなる」などと言われます。人それぞれ、顔やスタイルが違うように、物事の受け止め方や受け止められるキャパシティも違うと思います。自分とは違う人間もいて、苦しんでいることを少しでも理解してもらえると嬉しいです。
編集部
なにか注意点はありますか?
奈津美さん
精神的な疾患は遺伝的要素も関わるとは思いますが、誰にでも起こりえると思います。人それぞれ、ストレスなどを受け止めるキャパシティ、感じ方が違います。他者(家族・友達・職場の同僚など)が自分の物差しで対象者に言葉かけをすると、病状を悪化させてしまいかねないと思いますので注意してほしいです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
奈津美さん
ごく少数の方かもしれませんが、毎日のルーティンワークで雑になるケースもあると思いますが、デリカシーのない発言や態度をされる方もいらっしゃいました。そういう方には、人の身体の健康を支える仕事のプロとして対応していただきたいと思いました。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
奈津美さん
私の場合は声を失う心因性失声という症状でしたが、解離性運動障害はいろいろな症状が出るそうです。精神疾患はいまだに理解されにくいところがあります。私自身、周りの方に症状を説明すると、腫れ物に触れるような対応をされたこともあります。精神疾患を患ってしまった人は、私自身もそうですが、自分自身を責めている方もたくさんいます。そんなときに、他者からの言葉がとても深く突き刺さります。その人が一人で、抱えこんでしまって動けなくなったときには、ただただ、寄り添ってもらえたらと思います。
編集部まとめ
奈津子さんは、学生時代からストレスが原因で、精神疾患を何度も経験してきたそうです。精神疾患は検査データからはわからない場合も多く、患者さん自身も不安になり、余計にストレスを増幅させてしまうケースもあるようです。さいごに「精神疾患の診断を受けた場合には、自己判断で受診や内服・カウンセリングを辞めてしまうのではなく、継続して受診してください。適切な治療・アドバイスを受けると、病状を繰り返さないための抑止力になると思います。カウンセリングを受け、自分を知り受け止めることも再発の抑止力になると思います」と話されていました。見た目では理解しにくいもので、本人から言ってもらわないとわからないケースも多いですが、苦しんでいる方がおられる事実を理解し、接していく必要がありますね。