【闘病】「なぜ自分が白血病?」 診断まで自覚症状はなかった
「健康診断で引っかかった」と聞いたら、どんな状態を想像しますか?「血圧が高めだった」とか「肝機能が悪かった」など、比較的軽度な内容のイメージが強いかもしれません。しかし、闘病者の山添さんは、会社の健康診断のあと「白血病の疑いが強い」と緊急の連絡を受け、1週間後には緊急入院することになったといいます。当時の体験について、話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
山添 真貴子
1974年東京都生まれ。大学卒業後、ITコンサルティングファーム、監査法人、環境コンサルファームと外資系企業を渡り歩き、米コロンビア大学で行政学(環境政策)修士課程を修了。帰国後、国内系の総合シンクタンクに入社し、サステナビリティ経営を専門とするコンサルタントとして活躍。30代で出産し、2人の娘を育てながらプロジェクトマネージャーとして多忙な日々を送っていたが、健康診断で急性リンパ性白血病が発覚。2018年7月末~2019年4月まで大学病院に入院し、9カ月にわたる抗がん剤治療を乗り越え退院。2021年10月に復職。著書に「経営コンサルタントでワーキングマザーががんにかかったら」(東洋経済新報社、2021)がある。
記事監修医師:
原田 介斗(東海大学医学部血液腫瘍内科)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
覚悟のベリーショート
編集部
最初に不調や違和感を感じたのはいつですか?
山添さん
特に自覚症状はなく普通に生活していました。病気がわかったきっかけは、会社の健康診断です。
編集部
受診から、診断に至るまでの経緯を教えてください。
山添さん
健康診断を受けた数日後に電話があり、「白血病の疑いが強い」とクリニックの医師から説明を受けました。翌日、大学病院で精密検査を受け、急性白血病であることが判明したので、緊急入院しました。定期健康診断を受けてから、1週間ほどでした。
編集部
どんな病気なのでしょうか?
山添さん
私がかかったのは、急性リンパ性白血病です。いわゆる「血液のがん」で、ステージ等はありません。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
山添さん
入院後、約2週間は検査を重ねて急性リンパ性白血病のタイプを特定してから、治療についての説明を受けました。治療方針としては、抗がん剤治療での化学療法のみを行い、骨髄移植は不要とのことでした。昔のイメージのように「白血病=死」ではないですが、治すには時間がかかる、入院は最低半年になるだろうと言われました。
編集部
そのときの心境について教えてください。
山添さん
非常に厳しい抗がん剤治療になると聞き、目の前が真っ暗になりました。副作用のひとつに脱毛があるとも説明があり、ものすごいショックを受けました。ですが、同時に覚悟を決めた自分もいて、真っ先に院内の美容院に行きベリーショートにしました。治療開始前に予測される副作用、脱毛に対してできるだけの準備をしたいと、懸命に頭と体を動かしていたことを覚えています。また、当時小学生と中学生だった2人の娘のこともたくさん考えました。
「ずっと走り続けるだけが人生ではない」
編集部
治療や闘病生活の中で、何か印象的なエピソードなどあれば教えてください。
山添さん
治療の最初の段階である寛解導入療法の際、抗がん剤治療による副作用が発生しました。腸閉塞でとてつもない腹痛に襲われましたし、脳の膿瘍による右手の麻痺が出た時には、膿瘍の治療で2カ月近く抗がん剤治療をストップするなど、治療は計画通りには進みませんでした。当初の説明では、化学療法のみを行い骨髄移植は不要とのことでしたが、予定通りに抗がん剤治療が進められなかったので、骨髄移植も検討せざるを得ない状況に陥りました。その際にセカンドオピニオンを聞きに行ったのですが、その先生の話の中に、「白血病は食べて、筋力を維持した患者が治る」というシンプルな言葉があり、意識して過ごすようになりました。
編集部
その後はどのように治療されましたか?
山添さん
結局、骨髄移植はせずに済んだのですが、入院は9カ月に及びました。退院した時も、完治していたわけではなかったので、自宅で抗がん剤の服用を続けていました。もちろん副作用もありました。思ったように治療が進まないもどかしさもありましたが、「ずっと走り続けるだけが人生ではない。立ち止まって新しい視点に気づき、別の世界を持てるなら、病気になったことでさえ幸せだ」と思うようになりました。
編集部
今までを振り返ってみて、後悔していることなどありますか?
山添さん
お正月に一時退院が許可された時に、筋力が低下しているのにも関わらず、重いブーツを履いて公園を何周も歩き回ってしまったことです。その夜から足が腱鞘炎になり、膝下が痛くて眠れない日が2晩つづきました。痛み止めが効かない痛みで、せっかくの一時退院だったのに辛い時間になってしまい、もったいなかったです。
毎日が小さな幸せを見つける訓練
編集部
現在の体調や生活はどうですか?
山添さん
2021年10月に、3年ぶりに職場に復帰しました。リハビリを受けやすい制度があり、時短勤務でスタートしました。9時から勤務すると、夕方頃疲れを感じるときがありますので、まだ体力は戻っていないと思います。自分の感覚では、大体90%ぐらいまで体調が元通りになったと感じています。
編集部
医療機関や医療従事者に望むことはありますか?
山添さん
入院治療している患者には、家族との生活や、仕事などでそれまでに積み重ねてきたキャリアがあります。それらを気遣える人生経験の豊富な方を配置したり、患者の見えない私生活についても想像力を膨らませたりして接してほしいと思うこともありました。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
山添さん
病気になった時「なぜ自分だけこんな目に合わなければならないのか?」と怒りがこみあげてきて、その後「自分があの時ああしたから病気になったのではないか? 何が悪かったのか?」と自分のことを責める方が多いのではないかと思います。私もそうでした。しかし、過去の自分を責めても良いことはひとつもありません。大変な治療を乗り越えるために、自分を励ましてモチベーションを高めなければならない時に、自分を責めるということは真逆の行為だと思います。「小さな幸せを見つけられるよう日々訓練して、たとえ病気になっても自分の気持ちを高めて治療に立ち向かっていけるように」。そのマインドを忘れずにこれからの人生を過ごしていこうと思います。
編集部まとめ
子どもが2人いながら、9カ月も入院することになった山添さん。面会も制限されており、寂しい思いをさせないようにいろいろ工夫されたと言います。闘病を体験し、小さな幸せを見つけることができるようになった山添さんのマインドは、闘病中の方にも、そうでない方にも、勇気や希望を与えてくれると思います。山添さん、ありがとうございました。