【体験談】「天井が回転する」ほどのめまいに襲われたMOG抗体関連疾患
エミさん(仮称)は、2013年に抗MOG抗体陽性視神経脊髄炎という難病の診断を受けました(病気のメカニズムの解明が日々進んでおり、現在、視神経脊髄炎は視神経脊髄炎関連疾患と呼びます。また抗MOG抗体陽性のものはMOG抗体関連疾患と呼んで区別するようになりました。以下、エミさんの病名はMOG抗体関連疾患と表記します)。突然の診断で苦悩もあったそうですが、病気を受け入れ、同じ病気で苦しむ人とのつながりを持ちたいと考えるようになったそうです。MOG抗体関連疾患とはどのような病気なのか、エミさんにお話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年12月取材。
体験者プロフィール:
エミさん(仮称)
兵庫県在住、1982年生まれ。夫と2人暮らし。診断時の職業は会社員。2015年にMOG抗体関連疾患と診断を受ける。現在は入院や外来治療をしながら闘病生活中。2019年に結婚。今後はオンライン英会話をはじめる予定。
記事監修医師:
植松 高史(名古屋大学医学部附属病院)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
突然発症した難病
編集部
MOG抗体関連疾患とはどんな病気ですか?
エミさん
原因不明ですが視神経や脳などに炎症を起こし、視力低下などのさまざまな神経症状が起こる病気です。最悪の場合、失明する場合もあるようです。通常はステロイドパルス療法が効果的で、視力回復が得られる場合が多いそうですが、ステロイドが効きにくい場合は、再発を繰り返すこともあります。完治が難しく、私も再発を経験しました。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
エミさん
2013年のある日、めまいと浮遊感があったのですが、その時はそのまま寝ました。しかし、翌朝ベッドで目が覚めると、天井がぐるぐる回転しているように感じるほど激しいめまいが続き、ものが二重に見えて視界が揺れていました。かなり動揺しましたね。
編集部
すぐに受診されたんですか?
エミさん
まずは母と眼科に行きました。帰り路で気持ち悪くなり、薬局のトイレで吐いたときには、絶望しました。その後も吐き気がすごかったので、父が運転する車でいくつもの病院にかかりました。この時にはもう、視界は最悪でした。いま振り返っても「吐き気がするのも当然」という感じでしたね。
編集部
病名はすぐにわかりましたか?
エミさん
発症から4日目、割と早い段階で市立病院の神経内科へたどり着き、複視と両眼の眼振(眼球がけいれんしたように動いたり揺れたりすること)で「多発性硬化症の疑い」と診断されました。その病院は満床だったので、翌日に紹介状を持って大学病院へ向かいました。
MOG抗体関連疾患の診断から治療の経緯
編集部
大学病院ではどのような検査を受けましたか?
エミさん
まず診察を受け、MRI、髄液検査をして、炎症があればステロイドの点滴をすると説明を受けました。そして、MLF症候群(どんな病気であれ、脳幹の一部が障害されて目の動きに特徴的な障害が出ている状態を言います)と診断されました。
編集部
治療はどのように進みましたか?
エミさん
最初の入院では、1000mgのステロイドを点滴するステロイドパルス療法を2クールおこないました。
編集部
再発などはなかったのでしょうか?
エミさん
2015年に再発し、脳炎と視神経炎の診断を受け、一時は盲状態になりました。そのときはMRIと髄液検査のあと、ステロイドパルスを2クールおこないました。さらに、血漿(けっしょう)交換を4回実施しました。この時、主治医が、予防薬投与を始める前にMOG抗体検査をしてくれました。「もしMOG抗体陽性だった場合、多発性硬化症の予防薬が余計に症状を悪くしてしまうため、念のため検査をした」とのことでした。検査結果、MOG抗体は陽性で、MOG抗体関連疾患であることが確定しました。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
エミさん
難病と知り、最初は涙しましたが、ネットで調べたら命にかかわるほどの病気ではなさそうだったのでホッとしましたね。
編集部
その後、病状に変化はありましたか?
エミさん
2021年に右の大脳に病巣が見つかりました。顔の左全体と舌の痺れがあり、MRI検査の後、ステロイドパルス治療を2クール実施しました。それで無事に退院することができました。
編集部
退院後の調子はどうですか?
エミさん
目の症状はほとんどないのですが、発症前より眩しく感じるので、サングラスが手放せなくなりました。曇りの日でも必需品です。おかげでサングラスのおしゃれを楽しむことができるようになりました。後遺症として、右舌先に痺れが残っています。薬はプレドニンを継続して使用中です。退院時は10mgでしたが、徐々に減薬して現在は2.5mg服用中です。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
エミさん
家族との面会が嬉しかったですね。両親や姉が交代で、毎日しゃべりに来てくれました。母と院内のコンビニでコーヒーを買って飲むことが、唯一の楽しみでした。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
エミさん
「仕事、無理しないでいいよ」「我慢しすぎないで」と言いたいです。
世界中の同病者さんとのつながりを作りたい
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
エミさん
結婚して、慣れない家事を頑張っています。生活に困る後遺症はなく、体調はまあまあ良い感じです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
エミさん
明るい会話と笑顔をこれからもお願いします。心配なことはすぐ質問できる主治医と出会えて私は幸せです。
編集部
伝えたい想いはありますか?
エミさん
障がい者手帳を持たない難病患者は、国の制度や世間の認識の間で苦しんでいる人が多いと思います。たとえば、手帳があれば体調に合わせた仕事を見つけやすく、続けやすくなりますね。ハンディキャップを個人の多様性と認められる人が増えたら、どんな人も生きやすくなるのになと思います。
編集部
同じ病気の方に伝えたいことはありますか?
エミさん
寛解状態のキープを一緒に目指しましょう。一人じゃない。何万人も同病者さんはいます。辛いこともありますけど、この病気でないとできない体験もあるはずです。健康な人よりも傷つく事が多いかもしれませんが、結婚やパートナーとの出会いも諦めないでください。私も最初は半分諦めていましたが、半分は諦めずマイペースに婚活した結果、病気でも好きだと言ってくれる人と出会うことができました。
編集部
すごく前向きで素敵な考え方ですね。
エミさん
どうせなら楽しく過ごしたいですから。いつか世界の同病者さんと会ってみたいという夢があります。今後、英会話を頑張って、世界に「病友さん」を作りたいです。
編集部まとめ
突然現れた病気で「命にかかわるかも」と不安になったエミさんですが、治療を受けながら自らの難病を受け入れるようになりました。今後は、世界の同病者さんとのつながりを作りたいという大きな夢の実現に向けて、英会話を勉強する予定だそうです。「まずは病気も自分の一部だと受け入れて、心まで元気をなくさないでほしい」「 他人と違うことを嫌がらないでほしい」とエールを送られています。なんでも相談できる相手がいれば精神面で大きく安定できるので、エミさんのこれからの活躍に期待しています。