~実録・闘病体験記~「あの時病院に行っていれば…」早期発見の大切さを伝えたい《キアリ奇形》
現在は、キアリ奇形の治療は済み、復職もしているものの、手術後の影響で小脳失調(体幹のふらつきなどバランスが取りにくい状態)や頭痛などの症状と付き合いながら生活しているというみさこさん(仮称)に、病気の発覚から、治療の進行について話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年11月取材。
体験者プロフィール:
みさこさん(仮称)
奈良県在住、1996年生まれ。両親、弟と4人暮らし。職業は事務職。現在24歳。2020年にキアリ奇形と判明。しかし、症状を感じたのは3年前だった。大学生の時、左手小指の感覚が鈍くなり、いくつか病院を受診したところ、バセドウ病と診断される。しかし、後にキアリ奇形と診断され、急いで手術をすることになった。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
病気が発覚した時には「進行しすぎている」
編集部
キアリ奇形とはどのような病気ですか?
みさこさん
めまい・眼振・誤嚥・嗄声・歩行障害などが現れ、咳やくしゃみをしただけで、頭痛や頚部痛が症状として出ることがあります。筋力低下や腕から手にしびれや感じることも。成人してから発症する場合もありますが、子どもの時期に発症する場合もあり、さまざまです。脊髄空洞症を合併する場合も多く、症状はゆっくり進行していくといわれる病気です。
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
みさこさん
1年前の23歳の時、肩こりのような症状が出ました。湿布を貼っても2週間以上治らず、整形外科でレントゲンを撮りましたが、異常は見つかりませんでした。その後、くしゃみなどで腹圧がかかると、強い頭痛が起こるようになったのです。我慢できる程度の痛みでしたが、徐々に症状は悪化し、周りからは「肩のヘルニアではないか?」と言われるようになり、心配で別の整形外科へ行きました。
編集部
診断結果までの経緯を教えてください。
みさこさん
次の病院では、レントゲンだけではなくMRIも撮ってもらいました。2週間後、結果を聞きに行くと、「整形外科では説明できないので脳外科へ行ってください」と言われ、そのまま脳外科へ行き診てもらいました。症状を伝えると、言いにくそうに病名(キアリ奇形)を伝えられました。
編集部
病気が判明したときの心境について教えてください。
みさこさん
何も考えられなかったです。病気のことも知りたいけど、インターネット検索は恐ろしくてできませんでした。車いす生活となった人の事例など、色々な情報が入ってきて不安になりました。「症状は人それぞれだから」という、先生の言うことだけを信じようと決めました。不安で仕事もままならず、急に仕事を休むことにもなり、お金のことやキャリアのことも心配になりました。
編集部
すぐに治療をはじめられたのですか?
みさこさん
その病院での治療が難しく、また「急いで手術しなくてもいい」という判断のもと、脳外科専門の病院への紹介を受け、そちらに行くことになりました。
編集部
脳外科専門の病院では、どのような診断でしたか?
みさこさん
断片的ですが、「進行しすぎているから、いつ歩けなくなるか分からない」「指と肩にしか症状が出ていないのが奇跡に近い」「脊髄だから一度傷ついたら、元に戻すことは不可能」「一度出た症状は治らない」「歩けなくなる前に手術をしましょう」などの話がありました。
編集部
医師からはどのように治療を進めていくと説明がありましたか?
みさこさん
「キアリ奇形の原因を治すために、小脳を持ち上げる大後頭孔減圧術を行う」「もち上げられなかったら、小脳を半分摘出する」「水の通り道を確保して人工硬膜をボルトで固定する」と説明があり、手術後は2か月ほどで退院できると言われました。
編集部
すぐに入院したのですか?
みさこさん
説明を受けてから1週間後に入院して、治療を開始しました。ただ、コロナ禍でしたので、感染していないかどうかを見極めるために、すぐには手術ができないと言われました。診断後から入院できるまでの間は、会社にも行けず家でじっとしていました。
思うように動くことができず、辛すぎる療養生活
編集部
手術の時のことは覚えていますか?
みさこさん
前日から飲食が制限されて、家族に最後の挨拶をしてから手術に臨みました。私は麻酔で寝ていたのですが、実際に開けてみると予想よりもひどかったそうです。結局、小脳を持ち上げることができず半分摘出することになりました。脊髄を包んでいる硬膜を切開し、人工硬膜を縫い合わせて水の通りをよくしました。
編集部
大手術ですが、どれくらいの時間がかかりましたか?
みさこさん
当初、手術時間は5時間程度と聞いていましたが、実際には11時間かかりました。術後3日間は集中治療室に入っていました。
編集部
術後はどのような状態でしたか?
みさこさん
術後は吐き気がひどく、よく吐いていました。なかなか眠れず意識はもうろうとしていましたが、苦しかったのは覚えています。夜ってすごく長いんだと思いました。
編集部
療養生活で辛かったことはありますか?
みさこさん
手術の翌日は、吐き気とめまいで出された食事が食べられませんでしたが、頭の痛みはほぼありませんでした。2日後には、カテーテルを外して自分でトイレに行くための歩行練習をしましたが、ほぼ何もできなかったです。脳から水が出てくるので、頭にチューブを通したままの生活でした。チューブが頭に刺さっているので、勝手に寝返りをうつこともできず、行動に制限があることの辛さを感じました。
編集部
検査はどのような頻度で行われるのでしょうか?
みさこさん
術後1週間はほぼ毎日MRIを受けました。ほぼ寝たきりの状態なのでベッドのまま移動して寝たままの検査でしたが、少し体を揺らされるだけで猛烈なめまいと吐き気を感じました。また、検査中は「動いてはいけない」と言われるのですが、苦痛でどうしても動いてしまうため、検査前には鎮静剤を打たれて強制的に動けないようにして検査を受けていました。そのようなことから、今でもMRIはトラウマとなっています。
編集部
集中治療室を出てからは、どのような療養をされましたか?
みさこさん
術後3日ほどで一般病棟に戻りました。その後数日は、目を開けたまま上を向いて寝ているだけの毎日で辛かったです。
編集部
術後の痛みなどはなかったのでしょうか?
みさこさん
術後は痛みもそれほど気になりませんでしたが、徐々に手術をした頭部が痛くなってきました。痛み止めが切れると眠れなくなるほどで、鎮静剤と医療用麻酔を混ぜた薬でごまかしていました。また、夕方から夜にかけては熱が出るようになり、とても辛かったです。
編集部
頭のチューブはいつごろ外せたのでしょうか?
みさこさん
術後1週間ほどで頭のチューブはとれました。しかし、トイレはポータブルトイレを使用、食事は点滴、歩行は困難であったため車いす生活という状態で不自由でした。少しずつ良くなるのを待つしかなかったです。
退院後は順調に回復
編集部
退院は予定通りにいきましたか?
みさこさん
リハビリとして歩く練習に取り組み、食事は少しでも固形物を食べるように努力しました。抜糸や検査を経て、ようやく2か月弱経った頃に退院できました。当初の退院予定日は過ぎていました。
編集部
退院後の体調は、落ち着いていましたか?
みさこさん
嘔吐、めまい、熱が治まらないまま、無理を言って退院したのですが、なんとか順調に回復しました。家族の世話になりながらですが、2か月程度で部屋の中を歩いて移動したり、自分で入浴したりできるようになりました。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
みさこさん
やはり、家族のサポートと恋人や周りの人に助けられたことです。面会はできなくとも、荷物を届けるときに手紙を入れてくれたことなどが、とても支えになりました。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
みさこさん
じつは、身体に異変を感じたのはキアリ奇形が判明する3年前の大学生のころだったのですが、そのとき受診した病院ではバセドウ病との診断を受けていました。ですから、セカンドオピニオンを聞きに行くことを当時の自分に強く勧めます。バセドウ病のせいで小指の感覚が鈍くなっているのだと納得してしまっていたので、「そうではない、早く病院に行くべきだ」と伝えたいです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
みさこさん
約7か月の療養生活を経て復職しました。体調は、気圧に左右されやすく、天気が悪いと頭痛が起こります。小脳(主に、体のバランスや運動機能の調節をつかさどる脳の部位)を摘出しているため、急に下を向いたり向きを変えたりするとフラフラします。以前のように走ることは怖くてできません。通勤で毎日電車に乗るのでヘルプマークを付けて通勤するようになりました。しかし、マークの認知度は低く、理解されにくいことを日々感じています。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
みさこさん
病気は誰にでも起こります。「自分は若いし大丈夫」「関係ない」と思わないでください。外見で分からなくても、大きな病気をした人はたくさんいます。ヘルプマークの存在だけでも知ってもらい、身に付けている人が困っていたら、助けてあげてほしいです。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
みさこさん
コロナ禍で、医療従事者の方々も大変だとは思います。ただ、患者も家族に会えず辛い思いをしていることを理解して、嫌な顔をせずにこちらのお願いを聞いてもらえると嬉しいです。私の場合は、もう少し患者に寄り添ってもらえたら良かったですね。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
みさこさん
私と同じ病気の方がどれほどいるかはわかりませんが、この体験を語ることで少しでも、早期発見や病気への理解につながるといいなと思います。「これぐらい何ともない」「我慢できるし大丈夫」「病院が嫌い」「仕事が忙しくて時間がない」と言わず、少しでも違和感があれば受診してほしいです。早期発見することで、その後の症状などが変わってきます。異変に気付いたらすぐに受診してください。
編集部まとめ
異変に気付きながらも、「仕事を休むわけにはいかない」「気のせいだろう」と自分に言い聞かせ、受診しないという選択肢をとる人が多いですよね。しかし、みさこさんはご自身の体験から、「仕事を休む勇気も大事」「早期発見が何より大切」と、少しでもおかしいと思ったらまず病院へ行くようにとアドバイスをしてくれました。病気は突然やってくることもありますが、なにかしらの予兆がある場合もあります。早期発見することで、つらい療養生活や後遺症に悩まなくて済む場合もあるので、早めに受診をしましょう。