肝臓の数値は健診の「γ-GTP」(ガンマ・ジーティーピー)だけ見ておけば大丈夫?
肝臓の“調子”を表す指標にγ-GTP(ガンマ・ジーティーピー)という項目があります。同じ趣旨の項目はほかにもあるのに、どうしてγ-GTPだけが注目されるのでしょう。また、実際にγ-GTPだけを追っていれば、肝臓の健康管理ができるのでしょうか。この疑問について、「東長崎駅前内科クリニック」の吉良先生に回答してもらいました。
監修医師:
吉良 文孝(東長崎駅前内科クリニック 院長)
東京慈恵会医科大学医学部医学科卒業。医療機関の入局や医学系企業への参画を経た2018年、東京都豊島区に「東長崎駅前内科クリニック」開院。“生きがい”のサポートを目指した診療を続けている。日本消化管学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内科学会認定医、日本ヘリコバクター学会認定医。
結論・γ-GTPだけを追っても全体像は見えない
編集部
肝臓機能のバロメーターとして、とりわけ「γ-GTP」(ガンマ・ジーティーピー)が注目されがちですが、なぜでしょうか?
吉良先生
おそらくですが、「ガンマ」という文字の響きが印象に残るのでしょう。また、ほかの項目は正常値で、γ-GTPだけに異常値がみられることもあります。ですから、「異常値の現れやすい項目」であることは確かです。ちなみにγ-GTPは酵素の一種で、肝臓の代謝を上げる必要があるときに多く出されます。例えば、お酒を飲んだ後などです。ですから、肝臓がきちんと働いていることの証でもあるのです。
編集部
健診結果の肝臓の欄には、ほかにも項目が並んでいますよね?
吉良先生
はい。AST(GOTともいう)とALT(GPTともいう)が代表的で、これらはともに、肝臓が壊れたときに出されます。γ-GTPも肝臓が壊れたときに出されますが、壊れなくても、必要に応じて出される酵素です。ですから、肝臓の状態を判断するとき、「γ-GTPだけをウォッチしていればいい」ということにはなりません。
編集部
ASTやALTも含めて多軸で評価していくということですか?
吉良先生
はい。ASTとALTは肝臓の壊れた箇所によって出方が異なるので、「今、肝臓がどうなっているのか」が把握しやすくなります。γ-GTPの数値だけでもある程度は推測できますが、やはり、ほかの項目や患者さんの生活内容なども加味して評価します。
編集部
総合判定のABCなどは、どこまできめ細かく肝臓の状態を反映しているのでしょう?
吉良先生
各項目の数値から一律に付けられます。ですから、肝臓に異常がなくて「きちんとお酒を分解している証としてγ-GTPの異常値が出ている場合」でも、A判定以外になることはありえます。しかし、患者さんは、異常値や判定結果を基に、必要に応じて受診してください。決して「γ-GTPの数値は当てにならない」ということではありません。
健康診断後に精密検査を受ける意味
編集部
ところで健診項目は、肝臓のどのような病気を疑うものなのでしょうか?
吉良先生
主に肝臓の腫瘍と炎症の有無です。特に肝臓の炎症は、オーバーワークによっても起きますし、肝臓に付いた脂肪によっても引き起こされます。ほか、感染によるものや、お薬の副作用なども考えられます。薬やサプリメント、食べ物なども含め、“口に入れる成分の濃いものは肝臓で処理される可能性がある”ということを知っておいてください。
編集部
「アルコール」じゃなくても肝臓の炎症は起こりえるわけですか?
吉良先生
はい。昨今、アルコールを原因としない脂肪肝や肝硬変に注目が集まっているようですね。お問い合わせも多くいただきます。しかし、原則は、“口に入れる成分の濃いものは肝臓で処理される可能性がある”です。その結果が、健診結果に現れていると受け止めてください。その後の治療も、原因によって変わってきます。
編集部
炎症の段階なら、原因を取り除けば沈静化しますよね?
吉良先生
はい。例えば薬剤性の肝炎なら、原因となるお薬をやめれば治ります。アルコール由来なら節酒・禁酒ですし、脂肪肝なら食事療法や運動療法ですね。一方、炎症を起こした箇所が繊維化、つまり肝硬変になってしまうと、元には戻りません。肝硬変から肝臓がんに至るケースもあります。
編集部
自発的に禁酒したり運動したりすることが、当を得ていない場合もあるということでしょうか?
吉良先生
その可能性はあります。ですから、健康診断で異常値が出た場合、一足飛びに自己判断しないようにしましょう。対策は、医師に診てもらって、真の原因が判明してからです。一言で肝臓の異常といっても、さまざまな原因があります。
精密検査は、消化器内科など専門の医療機関で
編集部
健診結果を経て精密検査するとしたら、専門性の高い医療機関がいいのでしょうか?
吉良先生
ぜひ、そうしてください。非アルコール性肝炎の情報が広まるにつれ、一部で誤診も見うけられるようです。きちんとした検査手順を経て、診断してもらうべきでしょう。肝炎の原因を複数、抱えている場合もあります。
編集部
一方、冒頭のように、異常値が出ていても「異常がみられない」ケースもあるということでしたよね?
吉良先生
はい。γ-GTPは受診、検査のきっかけになるものの、数値だけで結論づけられません。もっとも、診断は医師がすることですから、自己判断しないようにしてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
吉良先生
医師側からしたら、γ-GTPの数値だけで肝臓の状態を評価するのは早計です。しかし、患者さん側の受診動機としては十分だと思います。肝臓の病気にはさまざまな原因が潜んでいますので、繊維化しないうちに解決しましょう。仮に問題ナシと診断されても「ムダに終わった」と捉えず、「健康で良かった」と受け止めていただきたいですね。
編集部まとめ
γ-GTPの数値は2面性をもち、「きちんと働いている証」でもあり「壊れている証」でもあるということでした。いわば、肝臓に向けた「作業指示書の量」といったイメージでしょうか。肝臓の炎症で機能が落ちているから指示書の量を増やしているのか、だとしたらなにが原因なのか。あるいは、単に濃いものの分解が必要だから指示書の量を増やしているのか。これらを明らかにするのが精密検査です。γ-GTPの値は精密検査を受けるきっかけとして有効でしょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、消化器胃腸内科 |