【闘病】喘息治療の薬で別の病気になってしまった《副腎皮質機能低下症》
ステロイドは副腎という器官の皮質という部分で作られているホルモンで、喘息やアトピー性皮膚炎の方がよく使われる薬としても知られています。治療で使用する人たちは、抗炎症作用、免疫抑制作用を期待して様々な疾患に使用するのですが、過剰摂取や長期使用などにより、副腎皮質機能低下症になるケースも見られるのです。体験者の佐藤琴子さんに、話を聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年11月取材。
体験者プロフィール:
佐藤 琴子
東京都在住、1973年生まれ。夫と子との3人暮らし。診断時の職業は専業主婦。喘息を抱えていたが、プレドニン(ステロイド)の使用により頻度も減り、現在、プレドニンは定時内服から発作時の頓用にまで回復。回復後しばらくして倦怠感等で体が動かなくなり入院。検査で医原性副腎皮質刺激ホルモン低下症と診断される。そんな中で、現在は中学受験をする子どものサポートに日々励んでいる。
記事監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
プレドニンが不可欠な喘息だった
編集部
喘息の治療でプレドニン(ステロイド)を使われていたそうですね。
佐藤さん
産後の2012年頃から喘息が悪化し、発作の都度、プレドニン(ステロイド)の点滴をしました。2015年頃になると、内服のプレドニンが処方されました。30mg/日から開始し、急にやめると体がびっくりするので、10日毎に30mg、20mg、10mg、5mgと減量を指示されました。
編集部
ステロイドと共に生活をしていたのですね。
佐藤さん
2019年になると喘息はさらに増悪し、プレドニンを定時内服するようになりました。「10mg/日を切ると喘息が出る」「また30mg/日に戻る」の繰り返しでした。しかも、その間も発作は頻繁に出現し、多い時は週に1~3日ステロイドの点滴もしていました。
編集部
喘息に対してプレドニン以外の薬は使いましたか?
佐藤さん
はい。難治性喘息と診断され、高価な生物学的製剤(デュピクセント[デュピルマブ])を使用するも、効果が見られず、毎月ゾレアの注射となりました。やがて、プレドニンの長期服薬も終了し、喘息は比較的落ち着きました。
編集部
その後の体調はどうでしたか?
佐藤さん
しばらくは快調でしたが、ある時から身体がとても疲れやすくなりました。それが日に日に悪化し、1日まともに動けなくなることもありました。子どもが学校から帰ってくる時間には動けるようにと、子どもが居ない日中に横になっている時間が増えました。
編集部
そのほかに異変を感じることはありませんでしたか?
佐藤さん
真夏でも常に寒さを感じ、重ね着して体中にカイロを貼ったり、家にいる時は1年中「電気ひざ掛け」を使用したりしていました。真夏でも膝から下が寒くて手放せませんでしたね。
編集部
喉の渇きなどほかの症状もあったそうですね。
佐藤さん
はい。1日3リットルほど水を飲むようになっていました。皮膚が乾燥し、高齢の方の手足のように、しわが目立つようになりましたね。プレドニンで体重が55kgまで増えていたのですが、ある時から急激に減り始め、あっという間に40kgまで落ちました。さすがに何かおかしいと思い、かかりつけのクリニックを慌てて受診しました。
編集部
どのような診断でしたか?
佐藤さん
「短期間でこれほど体重が減少して動けなくなったことや、そのほかにも症状があるようなので、何かの病気の可能性があります」と。「スキルス性胃がん」「脳下垂体の病気」「副腎の異常」の3つの可能性を疑い、検査することになりました。その日は血液検査と尿検査、X線検査をして、胃カメラは後日別の病院を予約しました。先生は「まだ若いから、徹底的に検査をして原因を早く見つけ、治しましょう」と励ましてくれましたね。
編集部
検査を受けた結果はどうだったのですか?
佐藤さん
「明日にでもクリニックに来れませんか?」と言われ、翌日クリニックをすぐに訪れました。そして、先生に血液検査の結果を見せてもらいました。すると、私の体が副腎皮質刺激ホルモンをほぼ作れていないこと、コルチゾールの値も測定不能なほど微量だったことがわかりました。正直、先生が色々と説明してくれていましたが、ショックで頭に入ってきませんでしたね。すぐに精査をした方がよいとのことで、専門性のある病院への紹介状を書いてもらいました。
紹介先の病院で「副腎皮質機能低下症」と判明
編集部
紹介された病院Aでは、どのような検査を?
佐藤さん
病院Aの内分泌代謝内科を受診しました。内分泌代謝内科の先生は「おそらくステロイドの長期使用により、副腎機能が低下していると思われますが、脳などほかの病気の可能性も考えられますので、病名をはっきりさせるため、検査入院をお願いします」と言われました。副腎機能の負荷試験検査、脳MRI検査、CT検査、蓄尿、成長ホルモン検査などもありました。結局、検査入院の結果、「副腎皮質機能低下症」と診断されました。
編集部
検査入院中はどのような気持ちでしたか?
佐藤さん
子どものことが常に心配で、離れてしまうことがとても寂しかったですね。採血や検査が多く、看護師さんや先生方と話す機会も多く、疑問はすぐに聞けたのは安心でした。
編集部
入院中の検査は大変でしたか?
佐藤さん
はい。いくつも検査がありましたが、一番きつい検査は、ぎりぎりまで血糖値を下げ、低血糖をわざと起こして、10分毎に採血をするものでした。先生が2人つき、私の意識がなくなって、そのまま亡くならないよう、低血糖の間は生体モニターを見つつ、ずっと話しかけてくれました。入院中は採血がとても多く、採血前は何も飲めずに30分ベッド上で安静にしているのがつらかったです。でも、早く自分の病気をはっきりさせたいと思いながら、ずっと子どもの写真を眺めていました。
編集部
病気が判明した時、どのような心境でしたか?
佐藤さん
喘息治療のために、さまざまな副作用にも耐えて使用してきたのに、まさかそのプレドニンが原因だなんて、「なぜ?」という気持ちと、治らなかったらどうしようという不安でいっぱいでした。当時、子どもはまだ9歳でしたので、子どもの将来は大丈夫なのかと、とても心配でしたね。
編集部
病気が判明した時、家族や周囲の反応はどうでしたか?
佐藤さん
まず、胃がんではなくてよかったなと。そして「今後は家事や子どものことは大丈夫。命に関わることだから、しっかり治そう」と言ってくれて、家族みんなで涙しました。
編集部
医師から、どのように治療を進めると説明されましたか?
佐藤さん
コートリルという薬で治療していくと説明がありました。容量は毎月の血液検査で調節されています。高熱や嘔吐など普段と違う病気や症状が出る時は、通常の5倍量程度のコートリルを飲むことになっています。
編集部
治療による副作用はありましたか? どのような症状でしたか?
佐藤さん
コートリルもステロイドなので、不眠、体重増加などはありましたが、プレドニンに比べたら無いに等しいくらいでした。
ネットではあまり情報が出てこない
編集部
病気の情報収集はどのようにされましたか?
佐藤さん
ネットでも医原性の副腎皮質機能低下症の情報があまりにも少なく、私のように呼吸器内科でプレドニンを長期使用して病気を発症した方は探せませんでした。ステロイドの副作用を検索すると、不眠、体重増加、ムーンフェイスなどたくさん出てきますが、さらに使い続けることについてもっと情報が欲しいですし、周知されるべきだとも思います。
編集部
では、医療関係者からの説明は十分でしたか?
佐藤さん
どの先生もとても丁寧に、わかりやすく説明してくださいましたし、入院中は看護師さんに励ましていただき、たくさんの元気をもらいました。私の不安を少しでも取り除こうという想いがつたわる、優しい対応をしてくれました。コミュニケーションの中で、自分の頭の中や気持ちが整理されました。
編集部
医療関係者に望むこと、伝えたいことはありますか?
佐藤さん
ステロイドは何にでも効く便利な薬ですが、その分副作用もあります。安易に高容量のステロイド長期処方をしないでほしいですね。そして、もし高容量のステロイドを長期処方するのであれば、血液検査データなどで、体に異常がないかどうか定期的に細かくチェックしてもらいたいです。そういった事がなされていれば、私の病気も防げたのではないかと思っています。
編集部
治療中の心の支えとなったものは、何でしたか?
佐藤さん
子どもの存在と家族の協力、そして先生の「必ず治りますから」という励ましの言葉ですね。
編集部
治療開始後、生活・仕事それぞれにどのような変化がありましたか?
佐藤さん
コートリルを服用してから以前のような倦怠感がなくなり、ほぼ普通に生活できるようになりました。相変わらず常に寒さを感じ、喉も乾きやすく、疲れやすいのですが、家族も病気をよく理解していて、感謝しています。ただ、外出時に「緊急時のお願い」というカードを肌身離さず持ち歩いています。普通に暮らしつつも危険と隣り合わせなのだと思っています。
編集部
現在の体調、生活、仕事の様子を教えてください。
佐藤さん
体調は日によって違います。まだACTHが低値(4~11)で、コルチゾール値は0.2前後なので、コートリルを毎日5mg服用しています。倦怠感が出た時はコートリルを0.25mg頓服しています。少し忙しい日が続くなど倦怠感で動けない時は、休みながら生活しています。
編集部
最後に何か伝えたいことがありましたら、お願いします。
佐藤さん
国には難治性喘息を難病に指定し、バイオ医薬品をもっと安価で提供してほしいと思います。バイオ医薬品が高価なために治療のステップアップが出来ず、ステロイド漬けになり、私のような病気を併発している患者さんがたくさんいますので、どうかお願いします。
編集部まとめ
治療のための薬で副作用が出て、その副作用の治療が必要だけれども、高価すぎるバイオ医薬品は選びにくい、という悪循環で闘っておられる佐藤さんにその様子をお聞きしました。このような事例で闘っている方もほかにも多々いらっしゃると思います。薬価が安い治療法の開発が待たれます。