蓄膿症(副鼻腔炎)の手術方法とは? 対象となる人やリスクなどを解説
蓄膿症(副鼻腔炎)の手術と聞くと、歯ぐきを切開するなど侵襲度の高い手術をイメージされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし現在、副鼻腔炎の治療は、内視鏡を使用して鼻の穴からおこなう手術が一般的です。しかし、どんな人が手術の対象になるのか、手術のリスクなどについても気になるところです。そこで、副鼻腔炎の手術について「耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院」の老木浩之先生に話を聞きました。
監修医師:
老木 浩之(耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院 院長)
近畿大学医学部卒業。平成2年神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)で副院長、平成6年近畿大学医学部附属病院(現・近畿大学病院)で講師を務め、平成9年に府中病院部長を務める。平成13年耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院開院。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会耳鼻咽喉科専門医。医学博士。難病指定医。補聴器相談医。身体障害者認定医。日本耳科学会、耳鼻咽喉科臨床学会に所属。手術が必要な急性期疾患から長期治療が必要な慢性疾患まで幅広く治療にあたる。
蓄膿症(副鼻腔炎)とは? 原因、症状について
編集部
副鼻腔炎とはどんな病気ですか?
老木先生
顔や頭の骨の中に形成された副鼻腔と呼ばれる空洞に生じる炎症のことで、「蓄膿症」とも呼ばれます。副鼻腔は、小さな穴を介して鼻腔と繋がり、空気で充たされています。副鼻腔炎では、この副鼻腔に病原菌が入り、炎症を起こしてしまうのです。風邪などに引き続いて起こった状態を「急性副鼻腔炎」、炎症が2~3か月以上続いて慢性化したものを「慢性副鼻腔炎」と呼びます。
編集部
副鼻腔炎を発症する原因は何ですか?
老木先生
副鼻腔炎の原因は、大きく二つ挙げられます。一つは、先ほどもお話ししたように、副鼻腔に病原菌が侵入し、炎症を起こすことです。もう一つは、鼻の中が狭く、副鼻腔と鼻腔との交通が狭くなっている場合など、鼻腔内の形態が影響して発症するものもあります。また、アレルギーが原因になることも多いと言われています。これとは別に、最近では「好酸球性副鼻腔炎」が増加し、問題になっています。好酸球性副鼻腔炎は従来の副鼻腔炎とは異なり、白血球の一種である好酸球が浸潤することで生じる炎症です。はっきりとしたメカニズムは解明されておらず、厚生労働省では難病指定されています。
編集部
副鼻腔炎では、どのような症状がみられるのですか?
老木先生
よくみられる症状としては、鼻詰まりや鼻水が挙げられます。また、副鼻腔炎に特徴的な症状として、鼻水が喉にまわる「後鼻漏」(こうびろう)という症状もあります。副鼻腔に膿が溜まれば、頭痛や不快感、注意力の散漫などにもつながります。このほか、慢性副鼻腔炎では鼻茸(はなたけ)という粘膜の変性をきたす場合があります。鼻茸は「鼻ポリープ」とも呼ばれ、鼻の内側の粘膜が一部膨らみ、鼻腔内に垂れさがったものです。鼻茸ができると、薬では対処できないほどの鼻詰まりを起こすこともあります。
副鼻腔炎の「手術方法」や「対象となる人」
編集部
副鼻腔炎の診断では、どのような検査がおこなわれますか?
老木先生
まずは鼻の中の状態を見せていただき、粘膜の発赤・腫脹(しゅちょう/炎症などが原因で、からだの組織や器官の一部がはれ上がること)がないか、鼻茸がないかなどを確認します。視覚的に異常が確認されたら、確定診断のためにはCT検査をおこないます。副鼻腔の骨の形は非常に複雑なため、単純レントゲン検査では正確に診断できません。
編集部
治療が必要なのは、どんなケースでしょうか?
老木先生
検査から副鼻腔炎の所見が確認でき、鼻詰まりや鼻水、頭痛などの諸症状があるという場合には、全員が治療の対象になります。しかし、まれに無症状でも副鼻腔炎の後遺症として副鼻腔に小さなポリープだけが残っていることがあります。このような場合には、治療をせず、様子を見ることもあります。
編集部
副鼻腔炎の手術方法は、歯ぐきなどを切開しておこなうと聞いたことがあるのですが。
老木先生
最近の手術ではそのようなことはありません。内視鏡を使用して、鼻の穴からおこなう手術が一般的です。現在、国内でおこなわれている副鼻腔炎の手術は「内視鏡下鼻副鼻腔手術」という手術方法です。加えて、鼻の形態を正常に整える手術も並行しておこないます。手術は15cmくらいの金属の筒を鼻腔内に入れ、CCDカメラを着けて鼻腔内の状態をモニター画面に映しながらおこないます。
編集部
この手術によるリスクはあるのでしょうか?
老木先生
鼻は脳や目と隣接していますので、副鼻腔炎の手術では脳や目の合併症のリスクがあります。脳の合併症としては、髄液が鼻の中に漏れてしまう「髄液鼻漏」、目の合併症では、目を動かす筋肉の損傷による複視や視神経の切断による失明などが挙げられます。髄液は頭蓋内を満たす水ですが、手術時に鼻の方へと漏れ出してしまうことがあるのです。また、目と鼻の間は非常に薄い骨で仕切られているのですが、この骨が破れ、目を動かす筋肉が傷つき、ものを見るときに二重に見えることなどがあるのです。ほかにも視神経の障害のリスクもあり得ます。このように副鼻腔炎の手術では、いくつか重篤な合併症のリスクはありますが、いずれの場合も、発生頻度はごくまれです。
編集部
術後の注意点はありますか?
老木先生
術後特に注意していただきたいのは、再出血の予防です。手術後はもちろん止血処置をおこないますが、完全な止血には数日かかります。しかし、数日経過して一旦止血した後も、まれに数週間経過してから鼻血が出てしまうことがあるのです。そのため、手術から1か月前後は、飲酒や激しい運動を避け、無理をしないようお願いします。このほか、手術を受けた病院の指導にもよりますが、術後は自宅で鼻洗浄をおこなっていただくこともあります。
副鼻腔炎を悪化させない対処法
編集部
副鼻腔炎の悪化予防など、自分でできる対処法はありますか?
老木先生
生活習慣の改善や、鼻詰まりを起こすようなことを控える必要があります。特に、アルコールは血管を拡張させる作用があるので、飲酒によって鼻粘膜が膨れ、鼻詰まりを起こしやすくなります。しかし、飲酒は絶対に禁止というわけではなく、嗜む程度に控えたり、毎日飲むことを避けたりしていただきたいところです。ほかに、市販の点鼻薬を使用する方もいますが、「血管収縮薬」が配合されているものを常用することはやめた方が良いでしょう。短期的に使用すると鼻詰まりが解消されるのですが、常用すると鼻の粘膜が腫れ、余計に鼻詰まりがひどくなってしまうことがあるのです。できれば点鼻薬は耳鼻科で処方されたものを使用してください。
編集部
鼻洗浄(鼻うがい)について教えてください。
老木先生
鼻洗浄(鼻うがい)をおこなうことで鼻詰まりが解消し、スッキリするなどのベネフィットがあれば、患者さんご自身により、自宅でおこなっていただくことがあります。しかし、鼻洗浄だけでは副鼻腔炎は治りませんので、あくまでも治療を受けていただくことが大切です。
編集部
ありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。
老木先生
副鼻腔炎の治療では、症状がよくなると途中で通院をやめてしまう方がいらっしゃいます。しかし、こうして治療を中断してしまうと、症状が悪化したり慢性化したりして治りにくくなってしまうこともあるのです。自己判断で治療をやめず、しっかりと医師の指示に基づいて治療を受けてください。副鼻腔炎の手術は、ほかのどの手術とも同じように、リスクがゼロではありません。しかし、手術やその後の通院治療をおこなうからこそ、長年の症状から解放されることが多いのです。手術の合併症にだけ目を向けて手術を避けるのではなく、手術も含めて前向きに治療に取り組んでいただくことを願っています。
編集部まとめ
副鼻腔炎の手術では、ごく稀とはいえ脳や目の合併症などのリスクがあります。一方で、再出血については術後の過ごし方によってリスクを高めてしまうこともあるでしょう。手術の対象になった場合には、主治医の指示に従い、術後は安静に過ごしましょう。
医院情報
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診療科目 | 耳鼻咽喉科 |