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授乳中に薬を服用すると、赤ちゃんに影響はありますか?

 更新日:2023/03/27

母乳で赤ちゃんを育てているお母さんは、授乳中に薬を服用すると赤ちゃんへの影響が心配になり、服用をためらう方も多いと思います。しかし、薬を服用しないというのも症状を悪化させてしまうことも考えられます。そこで今回は、授乳中の薬の服用について、病院に勤務している薬剤師の渥美さんに解説していただきました。

渥美 景子さん

監修
渥美 景子(薬剤師)

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北里大学薬学部卒、ロンドン大学School of pharmacy臨床薬学修士修了。製薬企業で副作用情報の収集・評価業務に従事。その後、病院薬剤師として勤務。総合病院や大学病院で経験を積む。「正しい情報を、分かりやすく」がモットー。3児の母。

赤ちゃんに影響する可能性は低いことが多い

赤ちゃんに影響する可能性は低いことが多い

編集部編集部

授乳中に薬を服用すると、赤ちゃんに影響がありますか?

渥美 景子さん渥美さん

赤ちゃんに影響する可能性は低いことが多いですね。多くの薬で、お母さんが服用したあと、母乳へ移行する量は極めて少ないことがわかっています。また、赤ちゃんの離乳が進むと母乳を飲む量が少なくなるので、さらに影響が少なくなります。とはいえ、影響がゼロというわけではないので、服用する際は注意が必要です。

編集部編集部

薬の服用時間と授乳のタイミングは赤ちゃんへの影響に関係しますか?

渥美 景子さん渥美さん

関係することが多いですね。一般的には、薬を服用してから数時間以内は、母乳中に薬の成分が多くなります。そのため、授乳直後に薬を服用すると、次の授乳まで間隔をあけることができ、より赤ちゃんへの影響を少なくできます。授乳中の服用が安全といわれる薬の場合、必須ではありませんが、念のため授乳直後に服用すると安心です。薬によっては長く血液中に留まり効果が続くものもあり、その場合は服用時間と授乳のタイミングは関係ありません。

編集部編集部

薬の説明書に授乳を中止するように書かれていて、不安を感じる方も多いようです。

渥美 景子さん渥美さん

薬の添付文書の「授乳を中止すること」の記載は、根拠が乏しいことも多いので、添付文書の記載を心配する必要はありません。以前は、動物や人の実験でわずかな量でも薬が母乳ヘ移行したことのみで、授乳中止と記載されていることも多くありました。その場合、薬が母乳へ移行した結果、どれくらい赤ちゃんに影響するのかまでは考えられておらず、実際は問題ないことが多くなっています。2019年以降は、母乳への移行のみでなく、赤ちゃんへの影響などを考えて授乳中止を記載するよう定められました。しかし、今でも十分な情報収集や検討がされず、科学的根拠が乏しいまま記載されていることも多いですね。

編集部編集部

医師や薬剤師は、服用可能かどこから情報を得ているんですか?

渥美 景子さん渥美さん

私は、授乳に関する情報を網羅している海外のデータベースや、授乳中の薬のリスクをランク付けしている海外の書籍を使用して調べることが多いですね。日本の書籍やデータベースを使用することもあります。1つの情報のみで判断するのではなく、なるべく複数の情報源を参照するようにしています。

母乳栄養のメリット

母乳栄養のメリット

編集部編集部

母乳栄養にはどのようなメリットがありますか?

渥美 景子さん渥美さん

子どもの免疫機能や、認知機能を高めることを示した研究があります。将来、肥満、高コレステロール血症、糖尿病、高血圧などの発症リスクを減らすという報告もあります。また、母乳栄養は母親・社会に対するメリットもあります。

編集部編集部

母親・社会へのメリットについて教えてください。

渥美 景子さん渥美さん

母親へのメリットとしては、乳がん、子宮体がん、卵巣がん、骨粗しょう症、関節リウマチ、糖尿病などのリスクを減らすといわれています。また、体重を落として産後の肥満、月経再開を遅くして母の貧血を予防することができます。社会へのメリットとしては、子どもと母の病気の発症を減らし、医療費削減につながります。

編集部編集部

母乳栄養は多くのメリットがあるのですね。

渥美 景子さん渥美さん

そうですね。母乳栄養の多くのメリットを考えると、薬の服用によって授乳を中断することは、可能な限り避けなければなりません。

具体的な薬の例

具体的な薬の例

編集部編集部

具体的な薬についてお聞きしたいのですが、痛み止めはいかがでしょうか?

渥美 景子さん渥美さん

多くの薬は、母乳にわずかしか移行せず影響は少ないとされています。安全とされる代表的なものは、アセトアミノフェン(カロナール)イブプロフェン(ブルフェン)です。これらの成分を含む市販薬は、種類によってほかの成分が含まれているため、服用を希望される場合は医師、薬剤師にご相談ください。

編集部編集部

花粉症に使うアレルギーの薬はいかがでしょう?

渥美 景子さん渥美さん

花粉症には抗ヒスタミン薬がよく使われますが、昔からある抗ヒスタミン薬のうち、お母さんが服用して眠くなるものは可能であれば避けた方が良いでしょう。フェキソフェナジン(アレグラ)ロラタジン(クラリチン)母乳への移行が少なく、眠くなりにくいことから安全とされています。痛み止めも花粉症の薬も、ここにあげたもの以外にも服用可能と判断される薬は多くあります。個々の薬については医師、薬剤師にご相談ください。

編集部編集部

服用したら断乳が必要な薬はありますか?

渥美 景子さん渥美さん

断乳が必要な薬は限られています。代表的なものに抗がん剤があります。抗がん剤でも、授乳を永久に中止するか、一時的な中断でよいかは、個々の薬とお母さんの状況によります。また、断乳までは必要なくても、服用期間中は赤ちゃんを注意深く観察する必要がある場合があります。その場合は特に、本当にその薬を服用する必要があるのか、母親や赤ちゃんの状況はどうか、より安全な代替薬があるか、など合わせて判断することが多いですね。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

渥美 景子さん渥美さん

多くの薬は授乳中に服用可能であるものの、個々の薬で根拠となる情報が異なり、その情報も日々更新されています。また、データだけでは判断できず、母親や赤ちゃんの状況、代替薬があるかなどによっても対応方法は異なります。専門家でないと判断が難しいことも多くなっています。薬や授乳を諦めなければならないケースは多くないので、授乳のために薬の服用を我慢したり、自己判断で断乳したりせず、遠慮なく医師、薬剤師に相談してほしいと思います。

編集部まとめ

多くの場合、授乳中に薬を服用しても母乳へ移行する量はわずかで、赤ちゃんへ影響する可能性は低いということがわかりました。一方、赤ちゃんへの影響がある薬が存在することも事実です。個々の薬により対応が異なるため、授乳中に薬の服用を希望される場合は、医師、薬剤師へ相談してください。

この記事の監修薬剤師