母乳とミルク(人工乳)ってどっちで育てるのがいいの? それぞれのメリット・デメリットを教えて!
出産後、赤ちゃんの栄養を「母乳」にするか「ミルク」(人工乳)にするかは、多くのお母さん達が悩まれることの一つです。病院や人によっては「母乳」を強く勧めたり、「ミルク」だけでもいいと言われたり、結局どちらがよいか分らないという声がいまだに多く聞かれます。今回は「母乳」と「ミルク」のメリット・デメリットをふまえ、赤ちゃんとお母さんにとってベストな栄養はどちらなのか、「看護師・助産師」の古市さんに詳しく伺いました。
監修:
古市 菜緒(看護師・助産師・保健師)
助産師として1万件以上の出産に携わり、5000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。現在バースコンサルタントを起ち上げ、高齢出産の対象とされる35歳以上の女性の「妊娠・出産・育児」をサポートする活動や、関連記事の執筆・監修・商品監修等に携わる。
「母乳」のメリット・デメリットとは
編集部
まず、母乳について教えてください。
古市さん
母乳とは母体の血液から作られるヒト由来の栄養で、赤ちゃんにとって消化しやすく、生体利用効率の高い栄養素や免疫が豊富に含まれています。特に出産後早期の母乳(初乳)は、生後28日未満の新生児にとって最適な栄養と言われています。
編集部
母乳のメリットは何ですか?
古市さん
母乳には多くのメリットがあげられます。母乳は赤ちゃんにとってバランスのよい栄養が含まれており、免疫物質も含まれているため、赤ちゃんが病気に罹りにくくなります。くわえて、ヒト由来の栄養であることからアレルギーもほぼみられません。また、スキンシップも自然にとれるため母子の愛着形成に有効です。さらに、産後のお母さんの子宮収縮を促し、出血予防にもつながります。そして経済的で準備や片づけの手間がかからないというのもメリットになります。
編集部
デメリットはあるのでしょうか?
古市さん
母乳にはビタミンKが不足しているため、赤ちゃんの出血性疾患を招くおそれがあります。しかし、現在の日本では出産した全ての赤ちゃんに対しビタミンK製剤の投与が行われます。また、母乳を介して感染する病気が稀に存在します。さらに完全母乳だと、人に預けることが難しく、外出先での授乳場所に困ることなどがあげられます。
「ミルク」(人工乳)のメリット・デメリットとは
編集部
ミルク(人工乳)のことについても教えてください。
古市さん
ミルク(人工乳)は乳児用調整粉乳といい、主に牛乳を原料とした母乳代用品と言われる食品の一つです。現在の国産ミルクは、各社がしのぎを削っていることもあり、より母乳に近い成分になってきています。そのため品質の良さは世界でもトップクラスであり安全・安心な栄養食品です。
編集部
ミルク(人工乳)のメリットは何ですか?
古市さん
ミルクはお母さんの母乳が十分に出ない場合や、母乳が継続できない場合に利用できるというメリットがあります。また、母親以外の授乳が可能であり、家族も授乳に参加できます。赤ちゃんが低出生体重児などの場合は、母乳よりも高栄養な成分が含まれるミルクが必要な場合もあります。
編集部
ミルク(人工乳)のデメリットについても教えてください。
古市さん
現在のミルクの成分はより母乳に近くなってきており、母乳に足りないビタミン類も補充できる高品質ですが、動物由来の栄養成分であるため母乳より消化に時間がかかります。また、経済的な負担も多く、準備や後片付けが必要で手間もかかります。外出する際は、母乳のみの方に比べて準備に時間がかかったり、荷物が多くなったりしてしまうといったデメリットがあります。
母乳とミルク(人工乳)は、お母さんと赤ちゃんの状況によって使い分けるのがベスト
編集部
結局のところ、母乳とミルクはどちらの方がいいのでしょうか?
古市さん
日本小児科学会は、赤ちゃんに最も望ましい栄養は母乳としています。しかし、母乳の状態や赤ちゃんの状況、育児環境等によってミルクの力を借りることも必要です。そのため、一概にどちらがよいというのではなく、その母子にあった方を選択することが大切です。
参照:日本小児科学会「栄養委員会・新生児委員会による母乳推進プロジェクト報告」
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/saisin_110916.pdf
編集部
赤ちゃんに与える栄養方法は具体的にはどのようなものがあるのですか?
古市さん
赤ちゃんの栄養方法には、ほぼ母乳のみしか与えない「完全母乳法」と、ミルクのみを与える「完全ミルク法」、どちらも与える「混合栄養法」の3種類があります。妊娠期間中から、自分はどの方法で赤ちゃんを育てていきたいのかをじっくりと考えましょう。また、自分だけではなく、産後の育児状況をふまえて家族でゆっくり話をすることも大切です。
編集部
自分と赤ちゃんにとって一番いい栄養方法を見つけるには?
古市さん
母子によって最適な栄養方法は異なります。また産後の状況の変化で、妊娠期に理想としていた栄養方法ができない可能性も十分にあります。大切なことは、置かれている状況によって栄養方法も変わることを理解し、自分達にとって最善な方法で育児を行っていくことです。分からない場合は、出産した施設や近くの助産院などに相談をしてみましょう。
編集部
最後に読者へのメッセージがあればお願いします。
古市さん
母乳が出るのであれば、母乳で育てたいという考えの方も多くいらっしゃいます。しかし、母乳にこだわり過ぎて、心身のバランスを崩してしまう方もいらっしゃいます。育児中はお母さんの心身のバランスを上手にとることも重要です。それぞれ置かれている母子・育児環境は違います。そういった意味でも、栄養方法はほかの人と比べるのではなく、自分と赤ちゃんにとってどの方法が最適なのかを自分達で考え、少しでも育児を楽しくできるように過ごしていただけたらと思います。
編集部まとめ
お母さんと赤ちゃんの状況次第で、母乳とミルクを使い分けることが大切であることがわかりました。赤ちゃんの授乳は出産してからすぐ始まる育児の一つです。分らない場合は専門家に相談しながら、無理なく続けることができる栄養方法を探してみてください。