〜実録・闘病体験記〜 脳梗塞で左片麻痺でも弁当作りは欠かさない。子どもがリハビリの原動力
介護職に就いていたChikaさん(仮名)を突然襲ったアテローム血栓性脳梗塞。左片麻痺を発症し杖歩行になりましたが、毎日3食の食事の支度やお弁当作りは欠かしていないそうです。病気が判明したときは毎日泣いていたというChikaさんが、どのようなリハビリに取り組み、乗り越えてきたのか、またその原動力となっているものなどについて語ってもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2022年2月取材。
体験者プロフィール:
Chikaさん(仮称)
東京都在住、1979年生まれ。結婚し、夫、息子、娘との4人暮らし。2017年11月アテローム血栓性脳梗塞発症、急性期病院へ入院。同年12月回復期リハビリ病院へ転院し、2018年5月に退院。2020年8月には短下肢装置を卒業、自立度が高いことから2021年12月リハビリを卒業した。現在は脳卒中の当事者やその家族の悩み相談を受けている。2022年からは身体障害者の人専用の単身住居や集合住宅を手がける会社のアドバイザーの仕事にも携わることになっており、車椅子を利用して公共施設で日々勉強に励んでいる。発症当時の職業は福祉作業員。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
ある日突然車いす生活に
編集部
脳梗塞を発症した日のことを教えてください。
Chikaさん
とても寒い日の朝、暖かい部屋から玄関に出たところで、後頭部をなにかで殴られたかのような激痛が走りました。しかし、出勤しなくてはという気持ちがあったため、自転車に乗り、職場へ向かおうとしました。その時には左半身麻痺が徐々に始まっていて、自転車から転倒し救急搬送され、「アテローム血栓性脳梗塞」と診断されました。
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
Chikaさん
正直、放心状態だったので記憶にありません。また、高次脳機能障害(感情失禁)があり、泣いていたため、言語聴覚士さんや担当看護師さんから丁寧に説明をしていただき、寄り添っていただきました。
編集部
後遺症などが判明したときはどのような心境でしたか?
Chikaさん
突然のことだったので、病室で毎日泣いていました。利き手は使えましたが、車椅子に乗ることになったので不安しかなかったです。
編集部
脳梗塞を発症する原因に思い当たることはありますか?
Chikaさん
若いころから月経困難症があり、低用量ピルを服用していたのですが、喫煙を続けていたために血栓ができやすかった、というのが原因かもしれません。
編集部
病院ではどのような検査を行ったのでしょうか?
Chikaさん
主にMRIの検査をしていました。そのほか、言語聴覚士さんからの認知機能や言語の検査、嚥下の検査などを受けました。結局、左片麻痺を発症し杖歩行になりましたが、上肢は機能全廃でした。簡単に言うと、麻痺した手がまったく動かせません。
周囲に恵まれ、乗り越えたリハビリ生活
編集部
入院から1か月後に回復期リハビリ病院へ転院されたそうですが、そこではどのようなリハビリに取り組まれたのでしょうか?
Chikaさん
主にリハビリ室のトラックを何周も歩いたり、麻痺側の手を動かせるように、そして固まらないように、理学療法士さんに動かしてもらったりしていました。
編集部
退院後は訪問リハビリを受けているのですね。
Chikaさん
週に1度、理学療法士さんには屋外歩行訓練やストレッチなどを、作業療法士さんには亜脱臼改善のために肩周りのストレッチと肘や手指の伸展動作補助などをしていただいています。そのほかでは、自費リハビリにて自宅に設置してもらった滑車を使って下肢の訓練やストレッチボードに乗って足首の訓練などをしています。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
Chikaさん
リハビリの各療法士さん、同じ片麻痺の先輩方や、SNSを通じて知り合った全国の見ず知らずの療法士さんたちに支えられ、知恵と工夫と意地で4年が経ちました。不自由はありますが、毎日3食の食事の支度とお弁当作りは欠かしていません。
編集部
それはすごいですね。その原動力となっているものはなんでしょうか?
Chikaさん
子どもたちです。子どもたちの存在が心の支えです。子どもたちに手料理を「美味しい!」と食べてもらえることが本当に幸せです。
「日頃から健康診断などを受けられることをお勧めします」
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな言葉をかけますか?
Chikaさん
「頑張りすぎ」ですかね。早朝から子どものお弁当を作り、パートに出ていました。主人が夜勤のドライバーなので、ワンオペで家事も育児も一人でこなしていました。
編集部
現在の体調や生活の様子について教えてください。
Chikaさん
片麻痺はありますが、気持ちとしては発症前よりも元気です。2022年からは新しい仕事も始まる(取材時)ので、そのための勉強に励んでいます。
編集部
あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。
Chikaさん
突然、誰もがなりうる病気です。若いから大丈夫と過信しないでください。喫煙は血管に対して悪影響を及ぼします。ピルを服用する際にも、タバコを吸っていれば血栓症になりやすくなります。禁煙するなど、若いうちから生活習慣を見直すことは大事です。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
Chikaさん
おそらく、自身もなってみないと分からないことだと思うのですが、当事者にきちんと心で寄り添ってほしいです。特にマイナスの発言を患者に投げ掛けてほしくありません。あとは頑張っている方々に「頑張ってください」と言わないようにしてもらえると。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
Chikaさん
私は37歳のときに脳梗塞を発症しました。早くに結婚、出産をしていたため、手のかかる小さな子どもがいなかったことだけが救いでした。それでも、私がしてあげられることがかなり減ってしまいました。なってしまったものは仕方がないですが、低用量ピルを服薬中に喫煙をしていたことを後悔しています。脳梗塞は、防ごうと思えば防げる病気だと思います。ですから、何もなくても日頃から健康診断などを受けられることをお勧めします。それから、同じ病気で悩んでいる方へは、「不自由だからと自宅に引きこもるのではなくて、どうして不便なのか、どうしたら便利になるのかなどを一緒に考えていけたらいいですね」と伝えたいですね。
編集部まとめ
脳梗塞は高齢者の病気というイメージですが、30代という若さで発症してしまい、治療やリハビリを地道に続けて苦難を乗り越えてきたことは、想像を絶する大変さがあったと思います。Chikaさんが「脳梗塞は、防ごうと思えば防げる病気」だと言っていましたが、日頃から食生活や禁煙、運動、飲酒などの生活習慣を意識しながら過ごすことが大切であることを改めて感じました。