成人女性の10人に1人がかかる「橋本病」、その原因や治療法とは
免疫細胞の攻撃により、ホルモンの分泌を担う甲状腺に炎症が生じてしまう「橋本病」。全身倦怠感や便秘など様々な症状を引き起こすことがありますが、明確な発症原因が分かっておらず、有効な予防法がありません。はたして、橋本病を早期に発見して対策するためには、どのようなことが必要なのでしょうか。今回は、「むさしの糖尿病・甲状腺内科」の田口学先生に、橋本病について解説していただきました。
監修医師:
田口 学(むさしの糖尿病・甲状腺内科 院長)
岩手医科大学医学部卒業。その後、国家公務員共済組合連合会虎の門病院、東京大学医学部附属病院、国立病院機構災害医療センターで内科、糖尿病・甲状腺を中心とする内分泌疾患の治療に携わる。2019年、東京都武蔵野市に「むさしの糖尿病・甲状腺内科」を開院。これまでの経験を活かし、地域で専門的な医療を提供するクリニックづくりを心がける。医学博士。日本内分泌学会評議員、日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医、日本甲状腺学会専門医。
目次 -INDEX-
橋本病とは
編集部
まず、橋本病について教えてください。
田口先生
一言で言えば、橋本病は自己免疫疾患の一種です。自己免疫疾患とは、外部から体内に侵入してきた細菌やウイルスを攻撃するはずの免疫細胞が、誤って自分の細胞を攻撃してしまう疾患のことを指します。橋本病は、この免疫細胞の攻撃によって「甲状腺」という喉の下のあたりに存在する組織が攻撃されてしまうのです。
編集部
甲状腺が攻撃されると、どうなるのでしょうか?
田口先生
攻撃を受けた甲状腺の組織は徐々に破壊され、代謝など全身の機能の調整をおこなう甲状腺ホルモンの働きが低下します。その結果、「甲状腺機能低下症」という状態になってしまうこともあります。甲状腺機能低下症になってしまうと、全身の倦怠感やむくみ、便秘、寒がりなどを生じることもあります。また、多くはありませんが、月経過多になる女性もいらっしゃいます。
編集部
橋本病には、どのような症状がみられますか?
田口先生
甲状腺が炎症を起こすため、喉の下の辺りが腫れたり大きくなったりするほか、それに伴って喉の圧迫感や違和感を生じることもあります。ところが、橋本病を発症しただけでは自覚症状が乏しいこともあります。
編集部
橋本病になってしまう原因はなんでしょうか?
田口先生
自己免疫疾患の1つなので、免疫の異常によるものと考えられていますが、はっきりとした原因はよくわかっていません。ストレスやホルモンバランスの異常が原因という説もありますが、メカニズムは未だ解明されていないのが現状です。
橋本病の発症頻度
編集部
橋本病になりやすい人の特徴とかは、あるのでしょうか?
田口先生
橋本病は、成人女性の10人に1人が発症すると言われており、とくに30~40代の女性に多くみられる傾向にあります。また、男性でも40人に1人が発症するということも分かっているため、比較的発症頻度の高い疾患と言えるのではないでしょうか。その一方、子どもで発症するケースは稀です。
編集部
なぜ、30~40代の女性に多く発症するのでしょうか?
田口先生
一部では妊娠やホルモンバランスの変化によるものという説もあるようですが、実際には30~40代の女性に多く発症する原因について解明されていません。
編集部
先ほど話にあった甲状腺機能低下症の発症頻度についても知りたいです。
田口先生
甲状腺機能低下症を発症する患者さんは、5~6人に1人以下の確率と言われています。また、実際に橋本病を発症した患者さんに対しておこなわれた研究でも、治療を必要とする甲状腺機能低下症を生じた患者さんの割合は、全体の5%以下という結果だったそうです。
編集部
橋本病を発症したからといって、必ずしも甲状腺機能低下症になってしまうというわけではないのですね。
田口先生
そうですね。大半の患者さんは、甲状腺ホルモンの数値が正常に保たれています。しかし、少なからず甲状腺機能低下症を発症するリスクはあるため、定期的な検査や経過観察を受けることが重要です。
橋本病の予防や治療法
編集部
橋本病を予防する方法はあるのでしょうか?
田口先生
残念ながら、今のところ有効とされる予防法はありません。しかし、甲状腺ホルモンの数値に異常が生じている場合には、ヨードと呼ばれるミネラルの摂り過ぎが原因の場合がありますから、ヨード摂取を控えることでホルモン値が改善することがあります。また、ヨードは海藻類以外に、一部のうがい薬などにも含まれています。
編集部
橋本病になってしまった場合、どのような治療がおこなわれるのでしょうか?
田口先生
甲状腺ホルモンの数値が正常な場合には、定期的な検査で経過観察をして様子をみます。一方で甲状腺機能低下症を生じている場合には、ホルモン剤の内服や先述したヨードの摂取制限などをしてもらうこともあります。また、甲状腺ホルモンの異常が軽度の場合でも、妊娠を希望する場合や不妊治療をおこなっている場合、妊娠中の場合には、ホルモン剤の内服をすることがあります。
編集部
ホルモンの数値がそれほど悪くなくても、妊娠を希望する場合や妊娠中の場合などにホルモン療法をおこなうのはどうしてですか?
田口先生
軽度であっても、流産や早産などのリスクを高めてしまうことがあるためです。しかし、これから妊娠することが分かっている場合や妊娠中の場合には、ホルモン療法でリスクを回避できることが分かっています。
編集部
日常生活での注意点はありますか?
田口先生
ホルモンの数値が正常であれば、それほど神経質になる必要はありません。規則正しい生活習慣を心がけたり、疲れを溜めたりしすぎしなければ問題ないです。しかし、随時ホルモンの数値や症状に異変がないかを調べることは重要です。自分で自覚するのも困難なため、定期的な受診は怠らないようにしてほしいですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
田口先生
橋本病は女性の10人に1人に発症する、決して珍しくない疾患です。多くの場合、経過観察だけで過ごすことができますが、甲状腺機能低下症を生じてしまうと、ホルモン療法を続けなければなりません。また、喉の違和感や便秘、むくみなどの煩わしい症状が慢性的に生じてしまうこともあります。その一方で、予防することが困難な疾患であるため、早期発見がカギになってきます。健康診断で判明することもあるため、定期的に受けるようにしてください。
編集部まとめ
橋本病は30~40代の女性に多く発症する疾患とのことでした。とくに、妊娠中、もしくは妊娠を希望する場合は、流産などのリスクが高まるとされるため留意しておきたいですね。また、自覚症状も気づきにくいので、定期的に検査を受けるようにしましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |