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~実録・闘病体験記~ 呼吸すらも難しい「スティッフパーソン症候群」

 更新日:2023/03/27
~実録・闘病体験記~ 呼吸すらも難しい「スティッフパーソン症候群」

スティッフパーソン症候群は、中枢神経の異常によって脳から筋肉への命令がうまく伝わらなくなり、筋肉の硬直やけいれんなどの症状が出る自己免疫疾患で、罹患者も少ない稀な病気です。病気の進行によっては自力で呼吸ができなくなることもあります。根治的な治療法は現時点でも見つかっていません。23歳の時に、スティッフパーソン症候群と診断されて治療を続けている闘病者・門傳さんに、発症の経緯とその後の暮らしについて、話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年9月取材。

門傳佑子さん

体験者プロフィール
門傳佑子さん

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神奈川県横浜市在住、1996年生まれ。夫と二人暮らし。9月1日に出産予定。診断時の職業は言語聴覚士。2019年5月末に呼吸が苦しくなり、精密検査をするも原因がわからなかった。徐々に呼吸状態が悪くなり、非侵襲的人工呼吸器と電動車椅子を導入した。症状や検査結果から、神経疾患であるスティッフパーソン症候群と確定診断された時には、発症時から半年以上経過していた。免疫療法を全て実施するも、効果は乏しく副作用が強いため断念し、現在は筋弛緩剤などの薬剤によって症状のコントロールを行っている。現在妊娠中であり、9月に全身麻酔下で、帝王切開での分娩予定である。

村上 友太

記事監修医師
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。

稀な難病のため、確定診断まで半年以上かかった

稀な難病のため、確定診断まで半年以上かかった

編集部編集部

病気が判明した経緯について教えてください。

門傳佑子さん門傳さん

2019年5月末に呼吸が苦しくなって入院したのですが、改善を認められなかったので、大学病院へ検査目的で転院しました。なかなか診断がつかないものの、呼吸苦と呼吸機能の低下が著しかったため、非侵襲的人工呼吸器と電動車椅子を導入して9月に一時退院しました。

編集部編集部

そこからもなかなか診断がつかなかったそうですね。

門傳佑子さん門傳さん

はい。10月に反射亢進や麻痺という神経の異常を指摘され、11月上旬には「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」と告げられました。11月末には訪問看護師に右肺の呼吸音の異常を指摘され、緊急受診し、気管切開と侵襲的人工呼吸器(TPPV)を導入しました。同じ頃に、原因不明の不随意運動に加え、筋硬直が現れてきたため、再度検査を行ったところ、ALSではなく、「スティッフパーソン症候群」と診断されました。

編集部編集部

どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?

門傳佑子さん門傳さん

症状緩和のためにジアゼパム、リオレサール、抗てんかん薬の内服をするとともに、治療として血漿交換、免疫グロブリン療法、ステロイドパルスの順に免疫療法を実施すると伝えられました。

編集部編集部

実際の治療はどのようなものですか? 効果がありましたか?

門傳佑子さん門傳さん

まず血漿交換をしましたが、初回実施時に血圧低下や意識消失などの副作用が出たため治療を断念しました。その後、免疫グロブリン療法を2回とステロイドパルスを行いました。しかし、治療効果が乏しく、副作用も強かったので免疫治療は断念しました。血漿交換の影響で、原因不明の低血圧症になり、現在でも血圧が低い状態が続いています。上記治療を断念した後は、症状のコントロールのための内服薬が始まりました。抗てんかん薬については効果が乏しく、中止になりました。一方で、ジアゼパム、リオレサールに加えてチザニジンを服薬することとなりました。

編集部編集部

内服薬は効果がありましたか?

門傳佑子さん門傳さん

いいえ、内服薬だけでは筋緊張が強く、痛みのコントロールも難しかったため、3か月に1度のボトックス治療が始まりました。ボトックスの効き方によって、ADL(日常生活動作)とQOL(生活の質)は変化しますが、良い時には両方とも向上するようになりました。現在は定期的な通院と往診医の連携で、薬剤調整を行いながら生活を送っています。さらに、平日の訪問看護による体調管理が欠かせません。

つらい時期を乗り越え、国内初の出産へ

つらい時期を乗り越え、国内初の出産へ

編集部編集部

病気が判明したときの心境について教えてください。

門傳佑子さん門傳さん

発症時には、声帯機能不全と診断されており、自分自身の職業である言語聴覚士が関わる病気だったので、どのようなリハビリテーションをすれば改善がみられるか、と前向きに考えていました。その後、ALSと診断された際は、多くの人の力になれるように、当事者かつ専門家としてコミュニケーション機器の開発や啓発、嚥下障害に対する工夫や新しい嚥下食の開発などに関わっていきたいと思っていました。最終的に、スティッフパーソン症候群という稀な自己免疫疾患と告げられた時も、希望を持っていました。なぜかというと、ALSは進行性の難病ですが、自己免疫疾患であるスティッフパーソン症候群は治療によって症状が落ち着く可能性が十分にある病気と捉えており、自らの経験から得たことをたくさんの人に発信していけるのではないかと考えたからです。

編集部編集部

治療中の心の支えはなんでしたか?

門傳佑子さん門傳さん

当初は、自己免疫疾患なので治療をすれば改善すると期待していましたが、どの治療でも効果が得られずに症状も進行していきました。この病気自体が珍しいので周囲の理解も得づらく、生きていることがつらくなった時期もありました。しかし、そのような時に訪ねてきた友人が、私の様子を見て、今の私だからこそ、気管切開をして人工呼吸器をつけている人でも発声できる送気法を広めることができると励ましてくれました。私の大学時代の夢は、医療が発展していない国でも、その国に合わせた言語聴覚療法を普及させ、社会復帰しやすい環境を作りたいというものでしたが、自らの経験を通して送気法を広められれば、最終的に自分の目標を達成できるかもしれないと考えられるようになりました。友人の言葉を通して、まだ自分にはできることがある、むしろ私だからこそできることがある、と思えるようになり、それが治療中の心の支えになりました。

編集部編集部

発症後、生活にどのような変化がありましたか?

門傳佑子さん門傳さん

発症後にSNSを始め、前述した送気法について書き込んだところ、患者さんに実施してみたという言語聴覚士からご報告を受けることもありました。また、様々なSNSを使って自らの姿を映して発信するようになりました。一方で、退院直後からほぼ24時間、生活の記録をされながらヘルパーさんと過ごす生活に疲れていました。そのような時にプロポーズをされて結婚を決意してからは、リラックスできる時間も持てるようになり、ストレスの軽減と共に大きな発作も減りました。

編集部編集部

ご結婚されてからの変化は?

門傳佑子さん門傳さん

夫との子どもを妊娠しました。担当医から薬の副作用で流産する可能性があること、ボトックス治療も中止していなかったので胎児にどのような障害が起きるか予想がつかないこと、などを伝えられました。妊娠が判明した時点で夫婦ではすでに話し合っており、出産することを決意していました。ありがたいことに、臨月に至る今日まで妊娠を継続できており、今のところ胎児も順調に育っています(取材時)。

編集部編集部

現在の体調について教えてください。

門傳佑子さん門傳さん

2021年9月1日に全身麻酔下での帝王切開でスティッフパーソン症候群患者として出産に挑みます(予定通りに無事出産)。自己免疫疾患は、妊娠中に症状が大幅に改善することがあります。私の場合も、妊娠前は座ることすらできませんでしたが、現在は薬を減らしているにも関わらず歩けるようになりました。ただ、薬を完全にやめることはできないため、生まれてくるまで油断は禁物ですが、お腹の中で赤ちゃんが元気に過ごしているのを感じてはほっとする日々を送っています(取材時)。

病気の存在や治療について知ってもらえると嬉しい

病気の存在や治療について知ってもらえると嬉しい

編集部編集部

もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?

門傳佑子さん門傳さん

現在、自らが悩みながらも前を向いて努力をしていること、失敗したこと、それを乗り越えたことは必ずいつかどんな形かはわからないけれど、自分だけでなく人のためにも役に立つと伝えたいです。どんな状況でも諦めずに挑戦し続けることが、未来に繋がると現在の私なら伝えることができます。

編集部編集部

あなたの病気を意識していない人に一言お願いします。

門傳佑子さん門傳さん

もし、稀な病気と闘っている方と接する機会があれば、知らない、わからないと素通りするのではなく、少しでも興味を持って多くの方に発信していって欲しいと思います。病気の存在が認知されると、患者が生活しやすくなったり、行政からの理解を得られやすくなったりすることがあります。知ろうとしていただける姿勢が私たちの大きな力になります。

編集部編集部

医療従事者に望むことはありますか?

門傳佑子さん門傳さん

スティッフパーソン症候群は、お医者さんにも十分に知られていない病気で、診断がつくまでに長い時間を要することも多いようです。診断がついても、自らの暮らす地域では治療が受けられない方もいると聞きます。より多くの医療従事者の方に病気の存在や治療について知っていただけたらと思います。

編集部編集部

最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。

門傳佑子さん門傳さん

自分の体験を通して、いつどんな病気になってもおかしくないのだと実感しました。スティッフパーソン症候群は、なかなか覚えにくい病名かもしれませんが、頭の片隅に入れていただけたら幸いです。スティッフパーソン症候群以外の稀な病気と闘われている方も、まだ数多くいらっしゃるので、もし目にしたり、聞いたり、接する機会があれば少しでもご興味を持っていただけると大変嬉しいです。

編集部まとめ

スティッフパーソン症候群は、全身の筋肉がこわばり、呼吸も難しくなる可能性のある難病で、門傳さんのように治療をしても症状が進んでしまうことがあります。このような難病と闘っているにもかかわらず、前向きに病気と向き合い、その経験をほかの患者さんや医療従事者のために役立てようとする姿勢が印象的でした。現在、なにかの病気と闘っている人も、そうでない人も門傳さんの生き方に励まされるのではないでしょうか。また、取材を通して、たとえ珍しい病気だとしても知ろうとする気持ちが大切なことに気付かされました。

この記事の監修医師