【硝子体手術】これ1本で分かる!! 硝子体手術8つの質問を眼科専門医に聞いてみた
副編集長の佐藤あやが、気になる医療情報を専門医に聞く対談企画。今回は硝子体手術について眼科専門医・イナガキ眼科の稲垣先生に徹底解説いただきました。
監修医師:
稲垣 圭司(イナガキ眼科 院長)
順天堂大学医学部卒業。聖路加国際病院眼科でフェローを経た後に順天堂大学医学部・大学院医学研究科眼科学修了。聖路加国際病院眼科にて、医局長や副医長などを歴任。2020年、千葉県浦安市に位置する「イナガキ眼科」の院長を父親より継承。レーザーを中心とした「安全で丁寧な手術」に努めている。医学博士。日本眼科学会眼科専門医。日本網膜硝子体学会会員。
佐藤あや(「Medical DOC」副編集長)
モデル。最新医療に関心が高く、2021年8月から「Medical DOC」副編集長に。YouTubeチャンネル『教えてドクター・Medical DOC』でMCとして活動。一児の母としての目線にも注目。
硝子体ってどんなもの? 硝子体手術を受ける人の代表的な病気3つとは
佐藤あや
硝子体手術とはなんでしょうか?
稲垣先生
硝子体手術とは目の中にあるゼリー状の物質(硝子体)を除去したり、眼球の内側の壁にある網膜という組織を治したりする手術のことです。硝子体手術は、眼科手術の中では比較的難しい繊細な手術に分類されます。
佐藤あや
硝子体について詳しく説明をお願いします。
稲垣先生
硝子体というのは目の大半を占める、水とコラーゲン繊維でできた物質です。生まれたときは目の内側の壁にくっついていることが多いのですが、加齢性の変化で徐々に網膜から剥がれてきます。そのときに網膜を引っ張ってしまって、網膜剥離という病気の原因になったり、血管をちぎってしまい硝子体出血という目の中が出血で覆われてしまうような病気の原因になったりすることがあります。
佐藤あや
剝がれてくることは問題ではないのですか?
稲垣先生
硝子体が内側の壁から剥がれること自体は大きな問題にはならないのですが、飛蚊症という目の中にごみが浮いて見えたり蚊のようなものが見えたりする病気の原因になることがあります。
佐藤あや
歳をとると必ず誰もがなることなのですか?
稲垣先生
全員が自覚するわけではないですが、晴れた日や白い壁などを見たときに自覚することが多いですね。まばたきをしても全くゴミが消えなかったり、暗い部屋に入ったときに症状が出にくかったりするといった特徴があります。
佐藤あや
実際に硝子体手術を受ける人はどんな症状がありますか?
稲垣先生
硝子体手術を受ける方の代表的な病気は3つ挙げてみますと
網膜剥離
糖尿病網膜症
黄斑前膜(黄斑上膜)といわれる病気です。
佐藤あや
聞いたことのない病気もありますね……。それぞれについて教えてください。
稲垣先生
わかりました。はじめに網膜剥離について説明します。目の内側の壁の部分に網膜という組織があり、カメラでいうフィルターにあたります。その壁が破れ剥がれてきてしまう病気で、徐々に視野が欠けてきてしまうのです。黄斑部という、ものを見るのに大事な場所が網膜にあり、その黄斑部まで剥がれてしまうと大きな視力障害をきたしてしまうこともあり、放置してしまうと最悪失明に至ってしまいます。
佐藤あや
最悪失明にもなり得るのですね……。2つ目の糖尿病網膜症はいかがでしょうか?
稲垣先生
長期間糖尿病に患っていると徐々に内側の網膜というところが栄養不足になっていき、新生血管という異常な血管が目の中に生えてきてしまいます。新生血管というのは非常にもろくて簡単に破れてしまいます。新生血管が破れると目の中に硝子体出血という出血が起きてしまい、視力低下を引き起こしたり、増殖膜といい新生血管が膜を作ってしまい網膜剥離が起きてしまったり、いろいろな異常をきたしてしまうのが糖尿病網膜症という病気です。
佐藤あや
3つ目の黄斑前膜(黄斑上膜)について教えてください。
稲垣先生
黄斑前膜(黄斑上膜)は、ものを見るために大事な黄斑という場所の真上に、蜘蛛の巣やセロハンテープの膜のようなものができて黄斑部をゆがませてしまい、ものの歪みや視力低下を起こす病気です。黄斑前膜(黄斑上膜)を長期放置すると、なかなか視力が改善しないケースもありますので、ものの歪みや視力低下など自覚した場合は早期に眼科を受診していただくことが重要です。
佐藤あや
早い段階なら治るものですか?
稲垣先生
早期に治療すれば、ほぼ完全に回復することが多いですが、時期を逃してしまうと視力が戻りきらなかったり、後遺症を残したりすることがあります。急激に見えなくなる、視野が欠ける、ものがゆがむなどの症状を自覚された場合は早期に眼科へ受診されることが重要です。
佐藤あや
網膜の病気になったとき、目の痛みは感じるものですか?
稲垣先生
網膜という場所は、破れて出血を起こしても全く痛みを感じることがありません。そのため、放置してしまうことが多いので、見え方の異常や飛蚊症の症状が急に増えてしまった場合は、早めに眼科を受診された方がいいと思います。
佐藤あや
放置して失明してしまったら怖いですね。
稲垣先生
そうですね。また、失明までならなくとも、大きな視力障害を残してしまったり、視野が欠けてしまったりという方は多くみられますね。
硝子体手術の手術方法、術後の見え方や注意点について
佐藤あや
硝子体手術にかかる時間と麻酔について教えてください。
稲垣先生
硝子体手術は従来1~2時間ぐらいかかる手術で、入院も1~2週間、長くて1か月ぐらいの期間ですが、近年手術器具が細くなってきており、傷口が小さく済むようになり、早期回復が見込めるようになりました。症例にもよりますが、30分程度で手術が終わるような症例もあり、日帰り手術も可能になってきています。麻酔方法は、昔の手術は傷口も大きく手術時間も長かったので、全身麻酔を大学病院で受けて行うこともありましたが、近年ではほとんど局所麻酔ですね。注射と目薬で手術を行うことが多くなっています。
佐藤あや
麻酔の注射はどこに打つのですか?
稲垣先生
注射は白目の裏のテノン嚢といわれる場所に行ったり、眼の壁に沿って球後麻酔という長い針を入れて麻酔をしたりする方法があります。
佐藤あや
目の上に沿って長い針とはどういうことですか?
稲垣先生
球後針といわれる非常に細く少ししなる針で、目の下の部分から壁に沿って目の奥まで針を入れて麻酔薬を注入して麻酔を行います。痛みが強いわけではなく、麻酔をすることで手術中の目の痛みが軽減されて目の動きも止まりますので安全に痛みなく手術を行うことができます。全ての患者さんの硝子体手術で行うわけではないのですが、目の動きが大きい方や、痛みが強い方に球後麻酔を扱っています。
佐藤あや
硝子体手術の費用相場はどれぐらいでしょうか?
稲垣先生
症例によって手術の費用は違います。術式によっても大きく異なりますが、大体保険適用(三割負担)の方で、黄斑前膜(黄斑上膜)など短時間で終わる手術の場合、15万円程であることが多いですね。糖尿病のひどい方ですと、網膜剥離を合併していたり、出血を合併していたりということで一回の手術で終わらないこともありますので手術費用も高額になってしまうことがあります。
佐藤あや
なるべく早く受診したほうが費用も抑えられるということですか?
稲垣先生
なるべく早期に受診いただいたほうが軽症な状態で治療を受けられる場合が多いですから、手術時間も短くなりますね。
佐藤あや
術後の注意点などはありますか?
稲垣先生
術後は目薬を約1~2か月程度続けて使うことが多いですね。硝子体手術の場合、目の中に空気やガスが入ることがあります。そういった場合は術後体位といい、うつぶせを長期間とったり、仰向けになっていただいたり、網膜の穴ができている場所や症状によって体位が変わりますので、手術を受けたクリニック医師の指示に従っていただけたらと思います。
佐藤あや
患者さんが気を付けなければいけないことも多いのですね。
稲垣先生
黄斑上膜など比較的短時間で軽症に分類されるような手術の場合は1~2週間で視力も改善しますし、デスクワークなどへの復帰も可能ですが、網膜剥離などは網膜の穴を塞いだとしても、完全に穴が塞がり定着するのに約1か月程かかることが多いので、一時的に網膜剥離が治ったからといって、仕事などに復帰してしまうと、また網膜が剥がれてしまって再手術になる方も多いですから術後の安静が重要になってきます。
佐藤あや
実際に手術した後の見え方は変わるものですか?
稲垣先生
例えば黄斑前膜(黄斑上膜)は術後1~2週間程度で歪みが軽減されて、視力が改善することが多くなっています。逆に網膜剥離などの手術で目の中に空気が入ってしまった場合は、空気やガスが吸収されるまで視力が回復しなかったり1~2か月程度かけて徐々に視力が上がったりするケースもあります。手術後すぐに見えなかったとしても徐々に回復しますので安静を保っていただいて、医師の指示に従っていただくことが重要かと思います
佐藤あや
硝子体手術を受ける際、クリニックの選び方はありますか?
稲垣先生
硝子体手術の後は術後まめに通院が必要になるケースも多いですから、家から通いやすい・通院しやすいことが重要になってきます。