~実録・闘病体験記~ 家族の存在がクローン病と闘うモチベーションになっている
3児のママ、うたさんは、3人目の子がまだ未就学児の時にクローン病と診断され、1カ月もの間入院することになりました。その経験や病院の受診を先延ばしにしてしまった後悔、家族との絆、不安なことも相談できる主治医との出会いなど、闘病中のエピソードを聞かせてもらいました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。
体験者プロフィール:
うたさん(仮称)
大阪府在住、1979年生まれ。主婦。夫と3人の子どもとの5人家族。2017年にクローン病と診断され、現在も投薬治療中。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
食べることを控えたらトイレの回数が減って楽になった
編集部
クローン病とはどのような病気ですか?
うたさん
消化管に炎症や潰瘍が起こる病気です。原因不明で決め手となる治療法もなく、指定難病の対象とされています。主な症状は腹痛と下痢。完治はしないので、薬で寛解に持っていき、その状態をできるだけ維持させるのが治療の目的だそうです。
編集部
クローン病の症状はいつ頃からありましたか?
うたさん
20歳の時に潰瘍性大腸炎の診断を受け、何年か投薬治療を続けまして、その後は落ち着いていました。それから結婚し、妊娠時にお腹がゆるくなる事が気になりましたが、2人目の出産後は元に戻ったので、特に気にせず生活していました。
編集部
ということは、3人目の出産時は違った?
うたさん
第3子妊娠中もお腹がゆるくなっていたのですが、それまでとは違い産後も続きました。子どもが小さかったこともあり、自分さえ我慢すればいいと、受診を先延ばしにしました。いつかまた元通りに戻るだろうと楽観的になっていて……
編集部
どのようなきっかけで受診に踏み切ったのですか?
うたさん
口内炎が辛くて食べるのを控えたところ、トイレの回数が減り、楽になったので、自然と食事の量が減り始めました。そこからどんどん体重が減って、生理も止まり、疲れやすくなりました。外出後は昼寝をしないと動けなくなるなど、日常生活に支障が出てきて、さすがに何かの病気かもしれないと思いはじめました。そこで、自分でインターネット検索をし、潰瘍性大腸炎を疑いましたが、治療法としてネットで出てきた生物学的製剤、免疫抑制剤などが受け入れられず、受診まで更に時間がかかってしまいました。
編集部
その後、受診を決意されたのですね?
うたさん
意を決して大学病院を受診し血液検査をしたところ、結果がかなり悪くその日のうちに大腸カメラまですることになり、すぐに診断がつきました。潰瘍性大腸炎ではなくクローン病であったことに驚きました。
クローン病と治療について
編集部
クローン病の治療について教えていただけますか?
うたさん
私の場合は、医師から症状がひどいので強い薬を使った方が良いと説明を受けました。また、難治性だといわれました。最初に使ったレミケードは「劇的に効く」と聞いていたのですが、そこまで効果を感じられませんでした。1年も経たないうちに点滴中にアナフィラキシーショックを起こし、使用を中止しました。次に1カ月間の入院治療をすすめられ、絶食と24時間の点滴生活を送りました。経過良好で点滴治療は終了し、ヒュミラという自己注射に切り替わりました。ヒュミラもよく効き、無事に退院できることになりました。
編集部
効き目があって良かったですね。
うたさん
そこまでは良かったのですが、注射後の腫れと痒みが強く出るようになってきました。アレルギーの薬を追加しましたが徐々に効かなくなり、ついにパラドキシカルリアクション(逆説的反応)が起こり、全身に薬疹と浮腫が出たため緊急外来に行きました。そこで、原因となっていたヒュミラを中止しなければならないと言われ、すごく落ち込みました。
編集部
またお薬を変えたのですね。
うたさん
今は2カ月に1度病院を受診し、ステラーラという薬を投与しています。絶好調という訳ではないですが、辛くは無い状態で落ち着いています。初めて同じ薬を1年以上続けられているので、この状態を維持したいと思っています。
心境の変化
編集部
診断確定された時はどのような気持ちでしたか?
うたさん
いつかマシになると思い、病院へ行くのをずるずると先延ばしにした事をとても後悔しました。食事制限が一生続くと考えると絶望もしました。なぜ私が、私だけがと、納得できず、受け入れるのに時間がかかりました。
編集部
食べられるものが制限されてしまうのですか?
うたさん
現在まで普通に食べていたお菓子や食事、外食もこれまで通りにできず、かなり辛いです。家族が何気なく食べているのを見るとイラッとしてしまう時もあります。外食することになっても行ける店が限られてしまい、家族を巻き込んでいるようで辛く感じます。
編集部
具体的にはどのような制限がありますか?
うたさん
例えば、1日の脂質は30gまでに制限されているので買い物の時には栄養成分表を必ず見て超えないように気を付けています。脂質が低いものを見つけたときは嬉しいです。また、エレンタールという栄養剤を朝食に置き換えてそれを飲んでいます。
編集部
入院中はどのように精神状態を保っていましたか?
うたさん
家族が心の支えでした。入院期間は1カ月と短いものでしたが、子どもに負担をかけているようで辛かったです。もう同じ思いはさせたくないという思いが、食べたい物を我慢するモチベーションになっています。
頑張りすぎて苦しかった時、「もっと気楽に」と言ってくれた主治医
編集部
セルフコントロールが必要な治療ですね。
うたさん
最近では、体調もストレスも自分なりに少しずつ対処できるようになってきました。エレンタールは1日2包飲むのですが、最初は真面目に飲んでいました。でも、それが辛くなってしまった時に一度主治医に相談したら、「真面目にやりすぎると続かないから、もっと気楽に」と。脂質についても「1日の数字も大事だけど、1週間で見てみるくらいで良いのでは?」とアドバイスを頂き、とても楽になりました。人間ですから、我慢できる時もあれば誘惑に負けてしまう時もあります。
編集部
主治医との信頼関係が築けていたのですね。
うたさん
入院中、通院中のアドバイスで助かった事もありますし、こちらの希望もできる限り聞いてもらえるので有り難いです。やはり入院中に不安なことを聞いてもらえたのが1番心に残っています。同じ病気の方を何人も見ている中でのアドバイスには説得力があり、聞いてもらえるだけで心が軽くなりました。
編集部
後悔していることなどはありますか?
うたさん
自分自身に対してです。症状がありながらも受診しなかった過去の自分に対し「不調を感じたら我慢しないで早く病院に行って!」「放っておいても自分では治せないよ!」と言いたいです。
編集部
社会に対して、何か思うことなどありますか?
うたさん
誰でも、お腹を壊して下痢をした経験があると思います。すごく体力を使い辛いですよね。クローン病はそれが1日中続き10回以上下痢をしてしまう病気です。外出中もトイレの場所が気になりますし急にお腹が痛くなる事もあります。見た目は健康に見えるかもしれませんがお腹が痛くならないか常にドキドキしています。頻繁にお腹が痛くなる事や、食事に制限があるという事だけでも理解してもらえるととても安心します。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
うたさん
クローン病と聞いても、多くの人がわからないと思いますが、わからなくて良いので、患っている人たちの食事とトイレについて、寛大になってもらうだけで本当に助かります。街中でヘルプマークをつけている方も増えてきました。一見普通に見えてもそれぞれ何かを背負いながら頑張っていると理解していただけると、ヘルプマークの方々ももっと外出を楽しめると思います。
編集部まとめ
病気で食べ物が制限されることへの辛さと、それでも家族と同じものを食べたい、という思いが伝わってきました。家族にとって食事の時間は大切ですよね。また、「不調を感じたら我慢せず早く病院に行って!」という過去の自分へのメッセージは、仕事や育児で自分自身を後回しにしがちな全ての人に伝えたいと感じました。