~実録・闘病体験記~ 「大切な家族のため自分の健康を優先すべき」子宮体がんを克服した母
出産を経験していても、していなくても、婦人科に行くのは女性にとって少し勇気がいるものです。また、「仕事も家事も育児も忙しい」という生活をしていると、つい自分の体調を後回しにしがちです。今回は、そんないわゆる“あるある”な日常を過ごしていた中で、突然「子宮体がん」を宣告され、手術、抗がん剤治療を経験することになったNORIKOさん(仮称)に、闘病生活の話を聞きました。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。
体験者プロフィール:
NORIKO(仮称)
東京在住、45歳。シングルマザーのため仕事・子育てを優先し、自分も健康のためにサプリメントなども摂取していたが、子宮体がんステージ3Cの診断。子宮、卵巣とともに傍大動脈リンパ節などの周辺組織も9時間かけて一度に切除・摘出するという大手術の後、TC療法(パクリタキセル・カルボプラチン/抗がん剤治療)を経て、現在経過観察中。フリーランスに転身し、仕事をしている(取材時)。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
母の付き添いで行った大学病院で、がん宣告を受ける
編集部
病気が判明した経緯について教えてください。
NORIKOさん
不正出血があったのですが、40歳を過ぎているし、「閉経するのか」と冗談半分で受け止めて放置していました。痛みもなかったので。しかし、その後も半年くらい不正出血が続き、鮮血も出たためさすがにおかしいと思い、街の婦人科クリニックで超音波検査をしてもらいました。でも、原因はわからないと。その1週間後、母の付き添いで大学病院に行ったときに、婦人科が空いていたので飛び込みで診察してもらいました。その場で内診、超音波検査をして、即日で、「恐らくがん」だと宣告されました。
編集部
そのときどう感じましたか?
NORIKOさん
まさか自分が、という思いでした。手術になるだろう、子宮は取らざるを得ないだろうという説明を聞き、娘に「もう弟・妹をつくってあげられないんだなぁ」とか、「自分に何かあったら娘はどうなるのだろう」と心配になりました。娘の心配はもちろんのこと、同居の母が病気で手術することになっており、家に穴を開けないように自分の手術は母の手術の後にまわそうと考えていました。周りの心配ばかりしていたので、主治医の先生に「自分の心配をしなさい」と叱責されてハッとしました。
セカンドオピニオンを受けるため、がん専門病院へ
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
NORIKOさん
最初に行った大学病院では、腫瘍が大きいので手術になると聞きました。手術の際は、足の付け根のリンパ節も切除するだろうとのことでした。大きな手術なのでセカンドオピニオンを受けようと思い、がんの専門病院を紹介していただきました。
編集部
そこではどのような説明がありましたか?
NORIKOさん
がん専門病院でセカンドオピニオンを受け、説明がしっかり納得できたのでそちらに転院しました。転院後、すぐに検査をしたところ、足のリンパ節にはがんは無かったので切除しなくても良いと言われました。そして検査の後、最短日に手術を予約しました。
編集部
子宮体がんになってから、生活にどのような変化がありましたか?
NORIKOさん
痛みもなかったので、生活そのものは特に変わらず、手術で入院する前日まで普通に仕事をしていました。でも、振り返るととにかく疲れやすかったり、不正出血もびっくりするような鮮血が出たりして、今考えるとおかしかったと思います。忙しかったので自分のことは全て後回しになってしまっていました。
編集部
手術を終えてどうでしたか?
NORIKOさん
開腹した際、おなかの大動脈リンパ節にもがんが広がっていたため、なるべく早く抗がん剤治療をしたほうがよいと勧められました。抗がん剤治療は絶対避けたかったのですが、そんなことも言っていられない状況だとわかり、半年間月1回のTC療法(パクリタキセル・カルボプラチン)の抗がん剤投与を始めることにしました。
編集部
治療中はどのように過ごしていましたか?
NORIKOさん
抗がん剤の副作用は想像以上にしんどく、脱毛していく途中は切ない気持ちになりましたが、家族や友人たちのおかげで明るく前向きに過ごせました。友人は、がんと宣告された後、気持ちを保つ本やメッセージ、情報などを送ってくれました。入院中も、花束の写真と「毎日想っているよ」とメッセージを添えて送ってくれたので、本当に心が明るくいられて、とてもありがたかったです。また、家族ともこんなにゆっくり時間がとれたのは初めてで、自分が忙しさのあまり忘れていたものを思い出した気がしました。
子どもを大切にするためには、ママの健康を後回しにしない
編集部
もし昔の自分に声をかけられるなら、どんな助言をしますか?
NORIKOさん
体の不調を感じたらすぐに病院で診てもらうことです。世の働くママさんは、家のこともして、子育てもして、自分のことを後回しにしている人は多いと思います。ですが、いざ自分が病気になって子どもや家族のことを考えたとき、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。大切な人を大切にするためにも、自分の健康はきちんと最優先で守るべきだなと思います。
編集部
現在の体調などはどうですか?
NORIKOさん
抗がん剤治療も終わり、経過観察中です。仕事は、抗がん剤治療後の副作用で手足がしびれたり、歩くとすぐに息切れしたりしたので、会社員を辞めて個人事業主となりました(取材時)。完全在宅で、ウェブ企画やライターなどをしています。抗がん剤治療を終えて半年近くは体温も上がらず、体力もなく、お昼休みに日光浴をして体温を上げたり、体を休めたりしないと午後が持ちませんでしたが、ミネラルを摂ったり、オンラインヨガで体を動かしたりするようにしていると、少しずつ体温も上がり、体力もついてきました。
編集部
子宮体がんという病気を意識していない人に一言お願いします。
NORIKOさん
不正出血など、異変があればとにかく早く病院へ行って下さい。街のクリニックで原因がわからない場合は、必ず大学病院で検査をすることをお勧めしたいです。子宮体がんの治療は子宮と卵巣・卵管の摘出手術を行うことが基本です。しかし、早期がんであれば子宮や卵巣を残すことも可能になる場合もあります。やはり早期発見が大事です。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
NORIKOさん
実体験として感じるのは、手術で切除するということは、体の負担も本当に大きいということです。また私の場合、病院によって、手術でどこまで切除するかの見解が違っていました。セカンドオピニオンを受けていなければ足の付け根のリンパ節も切除する話になっていました。患者さんの体に無用な負担がかからないよう、ぜひ手術範囲については慎重に見極めていただきたいです。入院中励ましてくださった主治医や看護師さんには本当に感謝しています。退院後はなかなかお会いできないですが、現在の元気な姿を見せたいです。
編集部
今は社会情勢(コロナ禍)もあり、面会も難しいですからね。
NORIKOさん
はい。外出もできませんでした。病院に中庭があったのですが、あれほど癒されるとは思いませんでした。手術後に初めて外に出て草花と青空を見たときの、生命力あふれる感動は忘れられません。病棟の多くの人が点滴をぶら下げながらでも来ていました。ぜひそういう場所を作っていただけると、入院患者さんの心の癒しになると思います。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
NORIKOさん
がん専門病院に行ってみて、がん患者さんの多さに心の底から驚きました。普段生活していると見えませんが、「2人に1人ががんになる」という話も聞きます。決して隣の世界の話ではありません。異変を感じたら、大げさと思わずちゃんと受診するのをお勧めします。そしていざ病気になっても、現実の友人のほか、SNSなどで同じような病気の人とつながり支えあえる時代です。一人で抱え込むことはありません。健康でも病気になっても、人生は必ず終わりが来ます。病気になることは、自分がどうありたいのか、生き方を考えさせられるきっかけなのだと感じます。悲観にくれず現在できることを大切に、支えあって生きて生かされていきましょう。
編集部まとめ
がんと宣告されてもなお「子どもに申し訳ない」「自分は母の手術が終わってから」と、周りに気を遣い、手術入院の前日まで普通に仕事もされていたというNORIKOさん。様々な経験をされた現在、「大切な人を大切にするためにも、自分の健康はきちんと最優先で守るべき」と、異変を放置せずに受診することの大切さを訴えておられました。そして、治療方法についても、セカンドオピニオンを受けた貴重な経験を聞かせていただきました。ありがとうございました。