【闘病】小学生のころから10年も原因不明の苦しみだった「小腸型クローン病」
たとえば、子どもが「お腹が痛い」と言って、検査でも原因がわからなかったとき、あなたならどう考えますか? 闘病者・諸橋佳奈さんは、お腹の痛みの原因が「小腸型クローン病」と判明するまでに10年掛かったそうです。果たしてその診断がつくまでの道のりと、小学生のころから続いた病気とともに暮らす生活の実態とはどのようなものだったのでしょうか? 話を聞かせてもらいました。
体験者プロフィール:
諸橋 佳奈
1997年7月生まれ。新潟県在住。2019年にクローン病と診断を受け現在も治療中だが、診断がつくまでには10年以上の月日を要した。モルモットとハムスターが癒しの存在。
記事監修医師:
今村 英利(いずみホームケアクリニック)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
診察してくれた医師もクローン病患者だった
編集部
子どものころから症状に悩まされていたと伺いました。
諸橋さん
小・中学生のころから原因不明の腹痛と下痢があったのですが、高校に入ってからは更にひどくなり、嘔吐、食欲不振、急激な体重減少などもありました。胃カメラや大腸カメラをしても原因がわからず、もともと、うつ病などの精神疾患があったため、「ストレス性のものでは?」と言われてしまいました。体重減少が著しかったころは「拒食症」と言われて入院になったこともあったほどです。その時は160cmで41kgまで体重が落ちました。
編集部
どうやって確定診断に至ったのですか?
諸橋さん
高校生のとき、父の転勤で新潟県内で引っ越しをしました。2019年の2月ごろ、転居先で救急外来を受診し血液検査や大腸カメラをした結果、小腸カプセル内視鏡の検査を受けることになり、そこで小腸型のクローン病と判明しました。通常の胃カメラや大腸カメラでは届かない深いところに病変があったようです。
編集部
やっと原因が分かったのですね。
諸橋さん
私を診てくれた医師は、ご自身も同じ小腸型のクローン病を抱えている方で、私の症状と家族の病歴から「もしかして?」と思ったそうです。胃カメラ・大腸カメラなど、詳しく検査してくれました。「潰瘍性大腸炎かもっと悪ければクローン病でしょう」と言われました。
編集部
クローン病には、どんな治療法があるのですか?
諸橋さん
「ペンタサ」という薬を内服しながら、月1回の通院と血液検査で様子をみましょうと言われました。クローン病は今の医療では完治することはなく、寛解と再燃を繰り返す病気ですが、寛解期に入れば、内服をしながら普通の人と同じような生活がおくれるようになるとも言われました。ただ、再燃期にはステロイド剤、免疫抑制剤、生物学的製剤、血球成分除去療法など、たくさんの薬や治療が必要になります。
苦しみの原因がやっとわかった
編集部
クローン病と言われたときの心境について教えてください。
諸橋さん
小学生のころからずっと辛かったのに、なかなか周りにわかってもらえず苦しんでいました。最初のころは、家族の理解も得られなかったのです。診断名がついて、やっと自分を苦しめていた病気がわかったと正直ホッとしましたね。
編集部
クローン病と診断されて、生活にどのような変化がありましたか?
諸橋さん
毎日、食前・食後の内服と、月に一度の通院が必要になりました。薬は少しずつ増え、今は診断がついたころの約4倍の薬を飲んでいます。月に一度の受診時は毎回、採血などのほかにレミケードという点滴を2時間かけて行わなければならず、とても大変で億劫です。生活面では、症状が悪化するので、油ものや食物繊維はあまり摂らなくなりました。あとは、ストレスを溜めないように気をつけています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
諸橋さん
母の存在です。母はいつも私の心配をしてくれます。具合が悪いときは傍にいてくれるし、悩みも聞いてくれて、とても大切な存在です。
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
諸橋さん
「大丈夫だよ。ちゃんと原因が見つかるから安心して」と伝えたいです。
就労支援制度
編集部
現在の体調はいかがですか?
諸橋さん
今は、内服と点滴治療で寛解期を保っています。免疫抑制剤も服用していて、風邪などをひきやすいし、治りにくいので、菌やウイルスをもらってこないように気をつけています。私のために家族みんなが気をつけてくれていて、とてもありがたいです。ここのところ調子がいいですね。
編集部
お仕事はどのようにされていますか?
諸橋さん
診断がついてからも仕事は続けていたのですが、やる気はあっても、急に腹痛が起こってトイレにこもったり、激しい倦怠感のために急にお休みをもらったりしなくてはなりませんでした。それがストレスになってさらに病状が悪化し、そのまま入院して職場に居づらくなって退職する、ということを繰り返していたんです。就労支援を利用して、主に座ってできる仕事をさせてもらっていますが、周りの方も優しく、病状に合わせて作業ができ、体調が悪かったら休ませてもらえるので、とても働きやすいです。私のような病気を持っていると「お腹が痛くなったらいつトイレに行ってもいい」という理解があるだけで本当に助かります。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
諸橋さん
私は、小腸型のクローン病と診断がつくまで10年以上かかりました。その間、何度も大腸カメラと胃カメラの検査を受けました。原因がわからないからといってストレス性のものと決めつけずに、もっと広い視野で診察・診断してほしいと思いました。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
諸橋さん
小腸型のクローン病は、発見が難しい病気です。最初は過敏性腸症候群やストレス性のものと診断されることが多いと思いますが、もらった薬で効果が感じられなかったら主治医の先生に相談して、カプセル内視鏡などを受けさせてもらうとよいと思います。周りの人に理解してもらえないことはとてもつらいことです。でも、わかってくれる人は必ずいます。あなたは一人じゃありません。
編集部まとめ
診断がつくまで10年以上、何度も大腸カメラや胃カメラの検査に耐えてきた諸橋さん。確定診断がついた時はホッとしたといいます。同じ思いの人をこれ以上作りたくないという思いから、「ちょっと違うな」と思ったらカプセル内視鏡などでしっかり検査してもらってください、と教えてくれました。「特に問題はない」と言われてしまうと、つい我慢して様子を見ようとしてしまいますが、専門の医師に調べてもらうのが大事です。諸橋さん、ありがとうございました。