~実録・闘病体験記~ 産後に不明熱で発覚した難病「成人スティル病」との戦い
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年10月取材。
体験者プロフィール:
宮本さん
神奈川県在住、1981年生まれ。夫と娘と3人暮らし。診断時は生後9ヶ月の娘の育休中、職業はフリーランスの通訳と翻訳業。2017年夏に成人スティル病を発症。秋から2ヶ月間の入院を経て退院する。その後はステロイドと定期的な自己注射による免疫抑制剤の投与。2019年に再燃。1年間に3度入院をし、現在は通院で免疫抑制剤のアクテムラを2週に1度のサイクルで点滴投与中。在宅メインで翻訳業を続けている。
記事監修医師:
副島 裕太郎(医師)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
入院後の検査でようやくわかった成人スティル病
編集部
成人スティル病が判明したきっかけを教えてください。
宮本さん
産後1~2カ月は関節痛と不明熱が続いていました。産後だったこともあり「育児疲れだろう」「寝不足だろう」と気にしていなかったのです。実際、骨にも異常は見当たらず、内科でも体の痛みの原因がわかりませんでした。鎮痛剤を飲んでも痛みが取れなかったし、熱は上がったり下がったりを繰り返していました。水を飲むのもつらいほどの咽頭痛が出ても、抗生剤が効かなかったあたりで、ようやくおかしいと気づきました。その後、整形外科で診てもらった医師に、大学病院のリウマチ内科の医師を紹介してもらい検査を受けました。
編集部
どのような検査を受けたのですか?
宮本さん
大学病院では、通院しながらCT、MRI、レントゲン、血液検査、PET-CTを受け、症状から考えられるほかの病気の可能性が排除されました。その後、炎症を表すCRPの数値が13を超えたため、入院してさらなる詳細な検査を続ける流れとなりました。入院するころには毎日38度以上の熱が、夜から明け方に出て、入院直後からは造影剤を用いたMRI、心エコー、骨髄穿刺(せんし)、血液培養検査などを受けて3週間ほどで確定診断に至りました。
編集部
確定までが大変だったのですね。
宮本さん
成人スティル病は発熱に伴いサーモンピンクの皮疹や関節痛が出現し、解熱とともに症状が消える点などが特徴的なのですが、私の場合は代表的な特徴である皮疹が現れなかったので、確定診断まで時間がかかりました。
編集部
合併症があったとお伺いしました。
宮本さん
はい。成人スティル病は自己免疫疾患のひとつで、現時点では特効薬がなく、完治、根治は難しいとされています。合併症も多岐に渡り、実際に私も入院中には胸膜炎、再燃時には心膜炎を経験しています。再燃率も高く、私も2017年に発症後、退院して1年で再燃し、2019年には続けざまに3回入退院を繰り返しました。
生後8ヶ月の娘が会いに来てくれるのが入院中の楽しみ
編集部
どのように治療を進めていくと医師から説明がありましたか?
宮本さん
入院当時(2017年)は、「まずは3日間の点滴によるステロイドの大量投与で、山火事のように燃えさかっている炎症を叩き、あらかた消えたところでステロイドの経口投与をおこない鎮火させる」との話を受けました。ただ、ステロイドの大量投与や長期投与は副作用の症状も重いため、後々は暴走する免疫を抑えるための免疫抑制剤を並行して投与し、バランスを取りながら炎症を封じ込める方向で治療していく予定であると説明されました。
編集部
成人スティル病が判明したときの心境について教えてください。
宮本さん
てっきり育児疲れだと思い込んでいたところへ、完治する見込みのない難病である可能性が指摘され、診察室を出てから泣きました。すぐには病気について調べる余裕もなく、その後ネットで検索しても出てくる情報や体験談も少なく、余計に不安になりましたね。子どもも小さく、このまま自分が死んでしまったらどうしようかと、痛みと熱の中で不安しかありませんでした。
編集部
発症後、生活にどのような変化がありましたか?
宮本さん
疲れやすくなり、激しい運動ができなくなりました。点滴の投与が2週に1度あるので、海外旅行などの長期旅行もできません。また、免疫抑制剤やステロイドの服用により感染症にかかりやすくなったために人混みを避けたり、人と会うときはマスクをつけたり、手指消毒を心がけたりと、まさにコロナ禍の現在と同じような生活を、2017年からずっと続けています。
編集部
治療中の心の支えはなんでしたか?
宮本さん
家族や友人です。最初の入院時、その後の再入院時も、夫と娘が2人で休みごとに会いに来てくれることが1週間の楽しみでした。平日に娘を世話してくれていた母も、娘と一緒に会いに来てくれ、週末になると誰かしら友人もお見舞いに来てくれました。解熱剤で無理矢理にでも熱を下げて、面会時間を作るくらい大切なひと時でした。2ヶ月も入院していると、看護師さんとも仲良くなりましたね。プライベートな話や雑談をしてくれる若い看護師さんや、主治医に言いづらいことをさりげなく伝えてくれるベテラン看護師さんなどに恵まれ、家族に限らず、優しく支えてくれる人が多くとても恵まれていたと思います。
難病と向き合うためにはマインドが大切
編集部
もし昔の自分に声をかけられたら、どんな助言をしますか?
宮本さん
長い付き合いになる病気なので、気負わず、ネットの情報をうのみにしすぎず、気になることはどんどん主治医や看護師さんなどに素直に相談した方がいいと助言しますね。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
宮本さん
現在はステロイドなどに加えて、2週間に1度、免疫抑制剤の点滴を打ちながら症状を抑えている状態です。慎重にステロイドの量を減らしていき、脱ステロイドを目指しています。激しい運動はできないし、疲れやすくなったのは残念です。薬の副作用で増えた体重と大きく変わった体型を、なるべく健康的な状態に戻したいと思っているところですね。友人や仕事仲間にも特に隠すことなく病気のことは伝えていますが、理解のある方ばかりでストレスなく日常生活を送れています。
編集部
医療従事者に望むことはありますか?
宮本さん
世界的に見ても症例の少ない難病ですが、研究や治療薬の開発などが今後も進むことを期待しています。最初に入院した2017年から4年が経ちますが、その間にも正式に「成人スティル病の症状を抑える治療に有効」として承認される薬も出ました。今後も新しい治療法や選択肢が増えると嬉しいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
宮本さん
同じ病気の方や、家族が成人スティル病で少しでも病気について知りたいと調べている方へ。私も病名を告知されたときには、ネットを色々調べて怖くなり眠れなくなる日もありました。その後、世界中の同じ病気の方とSNSを通して情報交換するうちに、病気を受け入れることよりも「自分に対するハードルを下げること」が、心の安定に必要なのだと思えるようになりました。「朝ちゃんと起きられた、えらい」「家事できた、えらい」「きちんと休んだ、えらい」という具合になるべく楽観的に生きていくマインドの大切さを学んだ気がします。ご家族や友人の中に、見た目にはわかりづらい難病を治療中の方がいるとしたら、疲れて寝てばかりいても、決して怠けているわけではないことを知っておいてほしいと思います。
編集部まとめ
「不明熱が続いたら、我慢せずにかかりつけクリニックだけではなく総合病院を紹介してもらって精密検査を早期に受けることをおすすめします」と難病の早期発見に対して注意を促す宮本さん。体調不良の裏には難病が隠れていることも。読者の方も疲れやすい日々を送っていませんか? 体のSOSを聞いて必要であれば受診を検討してみましょう。