睡眠時無呼吸症候群が引き起こす様々なリスク、「糖尿病になる確率が約1.6倍高まる」
糖尿病との深い関わりも指摘されている「睡眠時無呼吸症候群」。一体、どのような関係があるのでしょうか。また、睡眠時無呼吸症候群を改善するにはどうしたらいいのかについて、「上福岡くろだ内科クリニック」の黒田先生に教えていただきました。
監修医師:
黒田 直孝(上福岡くろだ内科クリニック 院長)
東京医科大学医学部卒業後、東京医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科に所属。昭島病院、仁和会総合病院糖尿病専門外来、医療法人みなとみらいなどで経験を積む。2020年、埼玉県ふじみ野市に「上福岡くろだ内科クリニック」を開院。専門分野である糖尿病や睡眠時無呼吸症候群をはじめ、大学病院や総合病院に近い検査を院内で実施し、一人ひとりに合った最善の治療を常に追求している。日本糖尿病学会専門医、日本内科学会認定内科医。日本内分泌学会、日本睡眠学会、日本禁煙学会、日本甲状腺学会の各会員。
睡眠時無呼吸症候群のリスクとは?
編集部
まず、睡眠時無呼吸症候群について教えてください。
黒田先生
「睡眠時無呼吸」は、睡眠中に呼吸が10秒以上停止する状態のことで、文字通り寝ている間に何回も呼吸が止まる症候群です。そして、1時間に5回以上、無呼吸や低呼吸が発生するため熟睡できず、日中に異常な眠気を催してしまうこともあります。
編集部
睡眠時無呼吸症候群には、どのようなリスクがあるのですか?
黒田先生
睡眠時無呼吸症候群は、単に呼吸が止まるだけの疾患ではありません。無呼吸を何度も繰り返すことによって、体内が低酸素の状態になります。そして、心臓や脳、血管に負担がかかってしまいます。その結果、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす可能性が高まります。最悪の場合は、突然死につながってしまうことも考えられます。
編集部
睡眠時無呼吸症候群は、命を落とす危険性もあるのですね……。
黒田先生
はい。そのほかにも、様々なリスクがあります。体が低酸素の状態になると、脳が防衛的に目覚めて、呼吸を無理やり再開させます。脳がずっと働いている状態になるので、熟睡することが困難になりますし、日中も睡眠不足の状態になってしまいます。そのため、「日中の強い眠気」、「倦怠感」、「起床時の頭重感」、「気分の落ち込み」などの症状が起こり、日常生活の質を低下させることになってしまいます。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係性
編集部
睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病とも深い関係があると聞きました。
黒田先生
最近の研究によると、「睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、正常な人に比べて糖尿病になるリスクが1.62倍も高い」ことがわかっています。また、睡眠時無呼吸症候群の重症度が高ければ高いほど、糖尿病を発症する可能性が高くなることも判明しています。
編集部
なぜ、睡眠時無呼吸症候群だと糖尿病になりやすいのでしょうか?
黒田先生
睡眠時無呼吸症候群は、寝ている間に呼吸が止まってしまうため、睡眠中に何度も目が覚めたり、息苦しい感覚になったりして、体に強いストレスがかかります。そうすると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの働きが低下し、結果的に糖尿病になりやすくなると言われています。
編集部
そもそも、睡眠時無呼吸症候群はどのような原因で起こるのですか?
黒田先生
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に鼻から喉にかけての気道が塞がれてしまうことが原因とされています。気道が塞がってしまう要因としては、肥満によって気道の周辺に脂肪がつき過ぎていることが挙げられます。ほかにも、扁桃・アデノイドが肥大していたり、上気道へ舌が落ち込んでしまったりすることも関係しています。とくに日本人やアジア人は、肥満ではなくとも、睡眠時無呼吸症候群を発症している人が多い傾向にあります。
編集部
どういった理由があるのでしょうか?
黒田先生
下顎が後退して、小さくなってしまったのが理由とされています。そのため、横たわった時に舌の入るスペースがなくなり、奥へ追いやられて上気道を塞いでしまうのです。実際、とてもスリムな体型でも睡眠時無呼吸症候群を発症している人は少なくありませんし、そういう人は糖尿病のリスクが高くなります。とくに女性は顎が小さい人が多いので、気をつけていただきたいですね。
睡眠時無呼吸症候群を改善するには?
編集部
睡眠時無呼吸症候群は、どのように症状を改善したらいいでしょうか?
黒田先生
まずは、食生活の乱れを解消することが先決です。先述したように、肥満は睡眠時無呼吸症候群の危険因子です。食べ過ぎを控えて、栄養バランスの取れた食事を規則正しく摂るようにしましょう。また、アルコールの過剰な摂取も控えましょう。加えて、病院などで管理栄養士による栄養指導を受けることをおすすめします。
編集部
それでも改善が難しい場合は?
黒田先生
睡眠時無呼吸症候群の治療法として、「CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)」というものがあります。これは現在、欧米や日本国内で最も普及している治療方法です。CPAP装置からエアチューブを伝って、鼻に装着したマスクから気道へと空気を送り込み、寝ている間に無呼吸の状態になることを防ぎます。
編集部
装着するだけで睡眠時無呼吸症候群が改善されるのですか?
黒田先生
そうです。それだけでなく、糖尿病も改善傾向になることが示唆されているデータもあります。睡眠時無呼吸症候群であり、なおかつ、糖尿病の傾向もある人にとって、CPAP療法はおすすめの治療法と言えるでしょう。
編集部
ほかには、どのような治療法が考えられますか?
黒田先生
解剖学的に気道が狭い場合は、咽頭や扁桃、鼻の手術などをおこなうことで、睡眠時無呼吸症候群を改善できることもあります。気になるようであれば、耳鼻咽喉科に相談してみるといいと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
黒田先生
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群の間には深い関わりがあることが問題視されています。その一方で、2つの病気を同時に診察し、トータルで対応してくれる医療機関は、それほど多くないのが現状です。しかし、別々の医療機関に通院する場合、通院記録や検査結果をもう片方へ提出しなければなりませんし、必ずしも医療機関同士の連携がスムーズに進むとは限りません。睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の両方が疑われる場合は、まとめて診察してくれる医療機関を探すと効率的だと思います。
編集部まとめ
睡眠時のトラブルだけでなく、命のリスクにもなり得る睡眠時無呼吸症候群。なかなか自分では気づきにくい病気ですが、糖尿病などのリスクを考えると、早めの対処がベターです。もし、家族やパートナーから指摘があったら、念のため早期に受診することをおすすめします。
医院情報
所在地 | 〒356-0004 埼玉県ふじみ野市上福岡1-7-5 |
アクセス | 東武東上線「上福岡駅」 徒歩1分 |
診療科目 | 内科、糖尿病内科、内分泌内科 |