視力とストレスの関係を眼科医が解説、働き盛りの男性はとくに注意!?
ストレスが原因で、胃炎などの炎症を起こすことは知られています。もし、ストレスが視力にも影響するとしたら、それはどのような病気なのでしょうか。最近になって解明されてきた「目とストレス」の関係を、「セントラル眼科クリニック」の渡邊先生に解説していただきました。
監修医師:
渡邊 一弘(セントラル眼科クリニック 院長)
東邦大学医学部卒業、慶應義塾大学医学部・医学研究科博士課程修了。複数の病院で手術治療の修練を経た後、総合病院の眼科医長や慶應義塾大学病院網膜硝子体専門外来などを歴任。2020年、千葉県市川市に位置する「セントラル眼科クリニック」の院長を父親より継承。「安心して安全に、より良い医療」を心がけている。専門は網膜硝子体・白内障・緑内障の手術治療。医学博士。産業医。日本眼科学会認定専門医・PDT認定医。日本眼科手術学会、日本網膜硝子体学会、日本緑内障学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本眼光学学会、日本眼科アレルギー学会の各会員。
バリバリ働く男性はとくに注意
編集部
新型コロナウイルス下の生活で、ストレスを感じることが多くなってきました。
渡邊先生
たしかに、そういった人は増えています。眼科医の立場からすると、ストレスによって視力の低下を招くことがあるので、「見えの状態」を随時、チェックしていただきたいです。視野の歪みなども含めて、「何かおかしいぞ」と異変を感じたら、念のため眼科を受診しましょう。
編集部
ストレスで視力が悪くなるのですか?
渡邊先生
はい。ストレスが原因で、網膜に栄養を与える脈絡膜の血管の透過性が増えたり血液がうっ滞したりします。それにより網膜の大事な細胞が障害され、水分が染み出て、網膜の一部に「水たまり」をつくってしまうのです。このことが原因で、視力低下や中心視野の歪みなどが出ると考えられています。
編集部
正常な状態だと、水分がたまることはないのですよね?
渡邊先生
そうです。目には本来、「水たまりを排出するポンプ機能」が備わっている細胞がありますので、正常な状態では水分がたまることはありません。しかし、細胞の障害と血液のうっ滞によって、このポンプが十分な機能を果たせなくなると水分がたまってしまいます。
編集部
問題になるのは目へのストレスですか? それとも精神的なストレスですか?
渡邊先生
両方考えられますが、医学的に証明されているのは、精神的なストレスの方です。とくに、「仕事などをバリバリこなす、活動的な中年男性」に顕著ですね。このような人を、アグレッシブやアクティブ、アングリーなどの頭文字から「A型気質」と呼ぶことがあります。
視野のセルフチェックは片目ずつおこなうのがポイント
編集部
ところで、問題の水たまりは自然に治りますか?
渡邊先生
基本的には、数カ月以内に自然と治る場合が多いですね。しかし、30~40%のケースでは一度治癒しても再発したり、長期間改善せず遷延化したりすることもあります。また、新たな血管が出現するケースもあります。
編集部
視野の中に漂う「ゴミくず」のようなものが、裂けた網膜の細胞だと聞きます。
渡邊先生
全てがそうではありません。例えば、眼球の中にある「透明なゼリー状の水」の変質によって、“ゴミくず”が見えることもあります。また、眼球に生じた炎症細胞、何らかの疾患による出血、あるいは、裂けた網膜の細胞によっても生じます。これらは一例で、ほかに病的なものや加齢による生理的なものなど、様々な原因が考えられます。
編集部
ストレスが原因で、網膜剥離を起こすことはあるのでしょうか?
渡邊先生
網膜剥離には、網膜の裂け目が原因で生じる「裂孔原(れっこうげん)性網膜剥離」と、「漿液(しょうえき)性網膜剥離」に分けられます。先ほどからお話に出ているストレスが原因で起こる病気は「漿液性網膜剥離」に分類され、具体的な病名は「中心性漿液性脈絡網膜症」といいます。この病気の原因はストレス以外に、喫煙者やステロイドを内服している人にも起こりやすいのが知られています。また、中心性漿液性脈絡網膜症の顕著な異常としては「ゴミくず」よりも、「中心視野の歪視」と「中心暗点」、「色覚異常」ですね。これらの症状をご自身でチェックするとしたら「片目ずつ」おこなうようにしてください。視野の中心部の見え具合ですから、正しくチェックすれば気づきやすいと思います。
眼科ができることと、自分でできること
編集部
続いて、「水たまり」の治療方法について教えてください。
渡邊先生
自然回復することがありますので、まずは3~4カ月ほど経過観察します。それでも治らなかったら、血管内に造影剤を入れて、「水たまりの漏れの部位や状態」を詳しく調べます。患部が特定できたら、レーザーを直接当てたり、または特殊な薬液を血管内から投与してレーザーを照射したりして、水たまりを治療します。
編集部
治療できたとしても、ストレスは受け続けますよね?
渡邊先生
そこが大事な観点です。自然に治ったとしても、この病気は再発してしまうケースがあります。そのため、受けているストレスを自己分析して、「なくしていく工夫」が必要でしょう。目に関するストレスであれば、眼科医でもご相談に乗ることができます。他方、職場や仕事でのストレスは、社会保険労務士さんや職場の産業医に相談してみてもいいと思います。
編集部
ストレスは蓄積するので、年齢とも関係してきそうですね。
渡邊先生
そうですね。先ほど「中年の男性に多い」と申し上げましたが、仕事に限らず、マイホームの取得やお子さんの受験などのライフスタイルとも重なります。ぜひ、この機に「加齢による老眼とは別に、ストレスによる目の病気があること」を知っておいてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
渡邊先生
ストレス自体をなくすことは難しいかもしれませんが、ストレスによる目の病気は片目ずつおこなうセルフチェックで見え方の異常に気づくことができます。長期間視力が悪くなると、なかなか元に戻らないことがあるので、異常に気づいたら検査してみましょう。
編集部まとめ
ストレスが原因で、目の脈絡膜からにじみ出てきた水分が「水たまり」になって、見えの異常を起こすとのことでした。目にはもともと、この「水たまり」を排出する機能が備わっているのですが、精神的なストレスによって機能しにくくなってしまいます。とくに、「働き盛りのA型気質」の人は、注意してみてください。
医院情報
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診療科目 | 眼科 |