「胃がんリスク層別化検査(ABC検診)」とは? 胃カメラやバリウム検査との違いは?
多くの人は胃がん検査といえば、「内視鏡検査(胃カメラ)」「バリウム検査」を思い浮かべるのではないでしょうか。今回は、血液検査だけで胃がんになる危険性を調べることができ、早期胃がんの発見率はバリウム検査よりも2倍高いといわれている「胃がんリスク層別化検査(ABC検診)」について、「臨床検査技師」の納家さんに詳しく解説していただきました。
監修:
納家 はるか(臨床検査技師)
大学卒業後は大阪の総合病院にて、臨床検査技師として勤務。文章を書くことが好きで、自分の知識や経験を活かした情報を発信することを理念として活動中。
目次 -INDEX-
ABC検診とは?
編集部
ABC検診は何を調べる検査ですか?
納家さん
胃がんのなりやすさ、これからなる危険性を調べる検査です。胃がんは早期に治療できれば完治も可能ながんのため、早期発見が非常に重要になります。ABC検診は、胃がんの直接的な発見にはつながりませんが、胃の健康状態を確認して将来的な胃がんの発生リスクを診断することができるため「胃がんリスク検診」とも呼ばれています。
編集部
ABC検診はどうやって判定するのですか?
納家さん
血液検査で、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染有無とペプシノゲンの値を調べます。この2つの値の組み合わせで、胃がんになる可能性をA~D群の4段階で判定します。
編集部
どうして、ピロリ菌の有無とペプシノゲンの値で、胃がんのなりやすさがわかるのですか?
納家さん
ピロリ菌は主に胃に感染する菌で、胃炎や胃がんの原因になります。一般的に、ピロリ菌が長期で胃に住みついていると胃粘膜の老化現象である萎縮が進み、より一層胃がんになりやすい状態になるといわれています。また、ペプシノゲンは胃の消化酵素ペプシンの元になる物質で、胃粘膜の萎縮性胃炎が進むと産生が減少し、胃がんになりやすい状態であるということを示します。
編集部
胃がんのリスク判定は、どんな人でもすることができるのでしょうか?
納家さん
元々胃の疾患がある人、胃を切除したことがある人、胃薬や抗生剤を飲んでいる人、腎不全である人、ピロリ菌を除菌済みの人は、ABC検診を受けても正しい判定ができない場合があります。特にピロリ菌除菌後の方は、A~D群とは別にE群(除菌群)として扱われて、分類の対象外になります。
ABC検診の判定結果
編集部
ABC検診の判定結果について詳しく教えてください。
納家さん
A群はピロリ菌感染陰性、胃粘膜萎縮陰性の健康な胃です。B群はピロリ菌感染陽性、胃粘膜萎縮陰性で少し弱った状態の胃です。胃がん発症リスクがあるため、内視鏡検査やピロリ菌の除菌をした方がいいでしょう。C群はピロリ菌感染陽性、胃粘膜萎縮陽性で弱った状態の胃です。胃がん発症リスクが高いため、B群と同様に内視鏡検査やピロリ菌除菌治療をおすすめします。D群はピロリ菌感染陰性、胃粘膜萎縮陽性でかなり弱った状態の胃です。ピロリ菌が住めないほど胃粘膜が萎縮している状態であり、胃がん発症リスクはかなり高いため、必ず内視鏡検査を受けましょう。また、血液検査でピロリ菌抗体価が陰性でも、ほかの検査で陽性の場合はピロリ菌除菌治療をおすすめします。
編集部
ABC検診を受けた後の流れはどのようなものですか?
納家さん
A群は基本的に経過観察ですが、必要に応じて画像検査や内視鏡検査を行うこともあります。B、C群はまずピロリ菌の除菌を行い、定期的に画像検査や内視鏡検査を行います。D群は、まずピロリ菌の感染有無をほかの検査によって確認し、感染が認められる場合には除菌をします。また、胃がんになるリスクが極めて高いため、1年に1回以上の内視鏡検査で定期的に胃の観察も行います。
編集部
ABC検診のメリットはなんですか?
納家さん
ABC検診は少しの採血で検査をすることができるため、内視鏡検査やバリウムと比較して身体にかかる負担が非常に少ないということがメリットとしてあげられます。
ABC検診と胃がん検診の違い
編集部
ABC検診を受ければ、胃がん検診を受けなくても大丈夫でしょうか?
納家さん
ABC検診は、あくまでも胃粘膜の状態を判定し、胃がんになる可能性を診断する検査です。胃がんに罹患しているかを診断する検査ではありません。胃がんの診断をするには、内視鏡検査またはバリウム検査を受ける必要があります。
編集部
ピロリ菌を除菌すれば胃がんにならないのでしょうか?
納家さん
ピロリ菌の除菌に成功すれば、胃がんのリスクは3分の1になると言われています。しかしゼロにはなりません。また、除菌をしても胃の萎縮は改善しないため、ピロリ菌除菌治療後も、定期的な検診が必要です。
編集部
ABC検診はどのくらいの頻度で行えばいいのでしょうか?
納家さん
ABC検診は原則として成人の場合は生涯1回でよいとされています。ピロリ菌の感染は5歳までに起こるので、一度A群と判定されれば、その後の判定は変わらないためです。B~D群と判定された場合も、ピロリ菌除菌治療後はほかの検査でピロリ菌の感染有無を調べるため、再度行う必要はありません。しかし、ABC検診以外の画像検査や内視鏡検査は定期的に行うことをおすすめします。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
納家さん
ABC検診は便利な検査ですが、万能ではありません。しかし、ほかの検査と比べると手軽に受けることができる検査です。多忙な方や内視鏡に抵抗がある方は、胃がん発症リスク判定のために、まずこの検査を受けてみるのがいいでしょう。
編集部まとめ
ABC検診は、将来胃がんになるリスクを判定する検査であることが分かりました。ピロリ菌に感染していても、除菌をすれば胃がんのリスクは減らすことができます。健康な胃を保つためにも、ABC検診を、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。