「カルシウム不足だとイライラする」これってウソ? 本当?
「カルシウムが不足するとイライラする」と思っている方は多いのではないのでしょうか? 一度は聞いたことがあるこのカルシウムとイライラの関係性とカルシウムの役割について「管理栄養士」の落合さんに詳しく伺いました。
監修:
落合 美月(管理栄養士)
和洋女子大学家政学部健康栄養学科卒業。卒業後は、美容皮膚科のスタッフとして勤務。現在は管理栄養士のライターとして、正しくわかりやすい情報を発信中。
目次 -INDEX-
カルシウムとイライラの関係は?
編集部
カルシウムが不足するとイライラするというのは本当でしょうか?
落合さん
カルシウムの働きは「イライラを抑える」というより、正しくは「脳神経の興奮を抑える」という表現になります。血中のカルシウムの働きの一つに「神経伝達物質の放出」があり、脳神経の興奮を正常に抑えます。この働きが「イライラを抑える」と解釈されて、「カルシウムが不足するとイライラする」というように伝わってしまったのかもしれません。
編集部
血中のカルシウム不足が原因で脳神経が興奮し続けてしまうのでしょうか?
落合さん
血中のカルシウムが不足することはほとんどありません。食事の内容に関わらず、血中のカルシウムは一定の濃度になるように体内で調整されているためです。摂取したカルシウムの99%は骨に蓄えられ、残り1%が血中に存在しています。血中のカルシウムが不足しても骨から血中へ調整されるので、血中のカルシウム濃度が著しく下がるということはないのです。つまりカルシウム不足が原因で脳神経の興奮は起きないといっていいでしょう。
編集部
では、カルシウムは不足しても大丈夫ということでしょうか?
落合さん
いいえ。血中のカルシウム濃度が調整されるときに骨に蓄えられているカルシウムが失われてしまうので、将来的に骨や歯が弱くなってしまう可能性があります。カルシウム不足がイライラと直結することはありませんが、健康な体づくりのためにカルシウムはしっかり摂ることをおすすめします。
カルシウムとは
編集部
そもそもカルシウムとは、どのような成分なのでしょうか?
落合さん
カルシウムは5大栄養素の中の「ミネラル」に分類されます。ミネラルは必要量や摂取量によって「多量ミネラル」と「微量ミネラルに」分けられますがカルシウムは「多量ミネラル」の一つで、体内において最も大量に存在するミネラルになります。
編集部
カルシウムにはどのような役割がありますか?
落合さん
先ほどお話しした神経物質の伝達は重要な働きのひとつで、そのほかにも筋肉の収縮やホルモンの分泌、血圧を下げるなどの幅広い調整作用があります。また、カルシウムは骨や歯の構成成分であり、不足すると骨がもろくなることで骨粗しょう症になりやすくなったり、骨の成長が遅れてしまったりします。
編集部
カルシウムの効率的な摂取方法があったら教えてください。
落合さん
カルシウムの含有量が豊富な牛乳、チーズなどの乳製品のほかに、小魚や海藻類に多く含まれているので、これらの食材を普段の食事で積極的に取り入れるといいでしょう。また、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを一緒に摂取するのもおすすめです。ビタミンDは、しいたけやきくらげなどのキノコ類、イワシや鮭などの魚に多く含まれています。ビタミンDは紫外線に当たることでも体内で合成されますが、コロナ禍もあり日差しにあたる機会が少なくなっている人は、食事から積極的に摂ることをおすすめします。
イライラを抑える食材とは
編集部
では、イライラを抑えるにはどうしたらいいのでしょうか?
落合さん
「セロトニン」というホルモンは「幸せホルモン」とも呼ばれており、「セロトニン」の分泌が不足するとイライラなどの感情に影響するといわれています。したがって、「セロトニン」を合成するのに必要な成分を食事から積極的に摂取することをおすすめします。
編集部
その「セロトニン」の合成を促すためには、どのような食材を選べばいいのでしょうか?
落合さん
体内でのセロトニンの合成にはタンパク質やビタミンBを含む食材が必要になります。これらの成分が多く含まれている食材として牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品、大豆製品、バナナなどがよく知られています。特にタンパク質のひとつであり、セロトニンをつくるのに重要な「トリプトファン」は必須アミノ酸といって体内で作ることができないので、食事からの摂取が必要です。
編集部
そういった食材の効果的な摂取方法や食べるのにおすすめのタイミングなどあれば教えてください。
落合さん
ビタミンB群は水溶性ビタミンで、水に溶けやすく熱に弱い性質があるので、調理過程で栄養素の損失率が高い傾向にあります。生の食材で摂る、加熱時間を短くするなどの工夫が必要です。また、トリプトファンを摂取してセロトニンが合成、分泌されるまでには時間がかかるので朝食でしっかりとタンパク質とビタミン類をチャージすることが重要になります。朝食を含む1日3食を基本に、規則正しい生活を送ることがイライラを抑えることにもつながります。
編集部
最後に読者へのメッセージがあれば。
落合さん
カルシウム不足とイライラはイコールではありませんが、丈夫な骨の維持や成長のためにカルシウムは非常に重要な栄養素です。一般的に日本人はカルシウム不足になりやすいともいわれています。カルシウムが不足しないようバランスの良い食事を毎日心がけましょう。
編集部まとめ
「カルシウムが不足するとイライラする」は「血中のカルシウムが脳神経の興奮を抑える」という説が間違って解釈され伝わってしまったようです。「そもそも血中のカルシウムが不足することはほとんどない」ということから、カルシウムとイライラはあまり関係ないということがわかりました。しかし、カルシウムには私たちの健康維持のために多くの役割があります。このカルシウムの補給に最適な牛乳などの乳製品は、イライラを抑える幸せホルモン「セロトニン」を体内で作るのにも有効です。また、カルシウムに限らず、心身の健康のために普段の食事から栄養素をバランスよく摂取するのが大切です。