「睡眠時無呼吸症候群」は夜間頻尿やEDを引き起こす可能性があるってホント?
寝ているとき、呼吸が一時的に止まる「睡眠時無呼吸症候群」。一時的とはいえその間、身体や脳への酸素提供が止まってしまいます。そう考えると、“下半身の老化”が前倒しして起きたとしても不思議ではありません。今回は、気になる下半身の悩みとの関連性について、「自由が丘わたなべ泌尿器科クリニック」の渡邊先生を取材しました。
監修医師:
渡邊 晃秀(自由が丘わたなべ泌尿器科クリニック 院長)
杏林大学医学部卒業。泌尿器医として臨床を積んだ後の2020年、東京都目黒区に「自由が丘わたなべ泌尿器科クリニック」開院。生活スタイルに適した治療法の提案に努めている。日本泌尿器科学会専門医。日本癌治療学会、日本性機能学会、日本性感染症学会、日本排尿機能学会、日本尿路結石症学会の各会員。
老化と似た現象が起きている
編集部
夜中に何度も、オシッコで目が覚めてしまいます。
渡邊先生
夜間頻尿の原因は様々あるので調べてみないとわかりませんが、もしかしたら睡眠時無呼吸症候群が原因かもしれません。この症候群は、息が断続的に止まって「就寝中の低呼吸状態」を起こすことによって生じる症状の総称です。なお、睡眠時にいびきをかく人は、睡眠時無呼吸症候群である可能性が高いとみなされます。
編集部
酸素不足が尿意の原因になるのですか?
渡邊先生
そうです。酸素不足は体にとって危険な状態ですから、体が副交感神経の優位な「お休みモード」から交感神経の優位な「興奮モード」へ切り替わります。怖い体験をしたときにオシッコを漏らしそうになる感覚に近いですね。加えて、酸素不足を補おうとして血流が増えますので、それだけ尿がたくさんつくられるのです。
編集部
なるほど。睡眠時無呼吸症候群の影響は、「日中の眠気」にも表れると聞いたことがあります。
渡邊先生
そのとおりです。おそらく「夜間に十分な睡眠が取れていない」からでしょう。同じく、睡眠不足は、「ED(勃起不全)」とも関係しています。男性ホルモンは主に睡眠中につくられるので、足りていないと「男性のヤル気」を阻害してしまうのでしょう。
編集部
夜間頻尿にしてもEDにしても、「年のせい」にしがちです。
渡邊先生
たしかに考えようによっては、男性の更年期障害ともいえますよね。睡眠時無呼吸症候群にしても男性の更年期障害にしても治療の対象になりますから、治せるなら治した方がいいです。生活の質や充実度の向上が期待できますので、心当たりのある人は、睡眠時無呼吸症候群の検査だけでも受けてみてはいかがでしょうか。実際、不眠や夜間頻尿のお悩みで受診されて睡眠時無呼吸症候群が発覚する人も、少なくありません。
一部の例外はあるものの、「自分の首を絞めている」状態
編集部
それにしても、人生に欠かせない「睡眠」で合併症を引き起こすことがあるなんて……。
渡邊先生
通常の状態なら起きにくいものの、気道が狭くなることで睡眠時無呼吸症候群を引き起こします。その主な原因としては、「喉の周りに付いた脂肪が気道を狭める」、あるいは「顎の未発達によって舌の収納スペースに欠くこと」などでしょうか。後者の場合、とくに仰向けになっていると、舌が喉を塞いでしまいかねません。また、寝る前の飲酒も血管の膨張によって気道を狭める原因になります。
編集部
太っていていびきをかくから睡眠時無呼吸症候群というわけでもないのですね?
渡邊先生
痩せ型でも顎の発育が不十分だと、睡眠時無呼吸症候群になり得ます。また、更年期になると筋力の衰えによって、「気道を広げて確保しようとする働き」が衰えてきます。「閉経後にいびきをかくようになった」という女性も少なくないのではないでしょうか。
編集部
いびきなしで、「下半身の悩み」だけが生じるパターンもあり得ますか?
渡邊先生
はい。いびきにご自身で気づかないこともありますし、夜間頻尿の相談に来られて、そこで初めて睡眠時無呼吸症候群が発覚することもあります。泌尿器系のお悩みに限らず「なんだか最近、体の調子がおかしいぞ」と感じたら、最寄りの医療機関を受診してみましょう。呼吸器や循環器の病気がみつかることもあるはずです。その際、泌尿器科を入り口にしても、呼吸器・循環器系の内科を先に受診しても構いません。それぞれアプローチの仕方が異なるので、両方を受けてみてもいいでしょう。主訴に応じて医療機関を選んでください。
編集部
今回は睡眠時無呼吸症候群に限るとして、受診時に寝て調べるのでしょうか?
渡邊先生
入院して検査する方法もありますが、専門の計測器をお貸しして、ご自宅で寝ている間に計測してもらうことがほとんどです。貸出し費用に保険の適用が認められていますので、2日間続けてモニターしてみてください。
CPAPの効果は、違和感をはるかに上回る
編集部
仮に睡眠時無呼吸症候群が判明したとしたら、どんな治療をするのでしょうか?
渡邊先生
治療方法としては、「CPAP」という機器を装着するのが主流です。CPAPは、特殊なマスクのような形状をしていて、呼吸の止まりそうな瞬間に空気を送り込んでくれます。なお、空気の挿入によって「睡眠から覚めてしまうこと」は、ほとんど起きません。むしろ、快適な睡眠を続けることができます。
編集部
寝ている間にマスクを着けるって、違和感を覚えないですか?
渡邊先生
人それぞれだと思いますが、「CPAPの効果が違和感を上回る」とする患者さんも少なくありません。CPAPをやってみて、「こんなに体調を崩していたのか」と体感することもあります。一方で、慣れずにやめたいという人もいるのは事実です。その場合は別途、マウスピースを使った改善方法などを検討します。
編集部
睡眠時無呼吸症候群そのものは、治るのでしょうか?
渡邊先生
どちらかというと、「CPAPを使い続ける」というパターンの方が多いと思います。喉周りの脂肪を落とそうとしても、そうそう鍛えられる箇所ではないですよね。一方で器質的な原因に限らず、単に「枕が合っていない場合」や「寝るときの体勢が関係している場合」もあるでしょう。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
渡邊先生
ことにEDでは心療内科を受診される人が多いものの、その前に睡眠時無呼吸症候群を疑ってみてください。夜間頻尿や日中の眠気、起床時の口の渇きを伴ってはいないでしょうか。そもそも男性の更年期障害は泌尿器科の専門分野ですので、「年のせい」と片付けてしまわず、治せるものは治していきましょう。
編集部まとめ
「怖い体験をしたときにオシッコを漏らしそうになる」の例えが秀逸でした。人はピンチになると、尿意を覚えるようです。また、睡眠時につくられる男性ホルモンの量が減ると、EDを起こしかねないとのこと。こうした睡眠時無呼吸症候群の合併症は、男性の更年期障害と非常に似た性質をもちます。それだけに、泌尿器科を睡眠時無呼吸症候群の窓口にしても構わないとのこと。主訴が眠さやだるさなのか、それとも「下の悩み」なのかで、受診先を分けてみてください。
医院情報
所在地 | 〒152-0035 東京都目黒区自由が丘2丁目15-11 |
アクセス | 東急東横線・東急大井町線「自由が丘駅」徒歩3分 |
診療科目 | 泌尿器科 |