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認知症のリハビリってどんなことをするの?

 更新日:2023/03/27

高齢化が進むにつれて、年々増加している「認知症」。歳を重ねるにつれて発症リスクも高まりますが、はたして認知症のリハビリ方法には、どのようなものがあるのでしょうか。今回は、自宅でのリハビリに携わり、多くの認知症の方と関わっている「作業療法士」の石原さんに、認知症の方のリハビリについて詳しい話を伺いました。

石原 綾乃

監修作業療法士・介護支援専門員
石原 綾乃(作業療法士・介護支援専門員)

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東京都立保健科学大学卒業。リハビリテーション病院や大学病院の非常勤勤務にて、主に脳血管疾患、整形外科疾患、難病の方に対するリハビリテーションに従事。その後、医療介護分野のIT企業の一般職に転職。現在、リハビリテーションを通して一人ひとりの人生に寄り添いたいという考えから、訪問看護ステーションに在籍。病気や障害に限らず、ライフバランスが崩れたり、生活のしづらさを感じたりしている方に対して、1歩を踏み出す準備や後押しのサポートをしている。

認知症のリハビリの目的

認知症のリハビリの目的

編集部編集部

まず、どんな人が認知症のリハビリを受けているのでしょうか?

石原 綾乃石原さん

認知症と診断される症状の程度や要因は、その人によって異なります。リハビリを通して関わらせていただくのは、認知機能の低下によって、生活のしづらさを感じている人が多いですね。

編集部編集部

具体的に、生活が不便とは?

石原 綾乃石原さん

例えば、家事やトイレ、着替えなどの身の回りのことが自身でできなくなってきたり、何かをおこなう気力がなくなったり、外出後に家に帰れなくなったりと様々です。このように本人や家族を含む周囲の人が生活場面で困ったり、心配したりすることが増えてきた時が、リハビリを始めるタイミングだと思います。

編集部編集部

なぜ、リハビリをしていく必要があるのでしょうか?

石原 綾乃石原さん

リハビリの目的は、主に3つあります。1つ目は「症状の進行によって低下していく認知機能を維持、活性化させること」です。2つ目は「生活のどの場面で過ごしにくさがあるかを整理し、代替できる手段を検討して、生活しやすさにつなげること」。3つ目は「好きなことや馴染みがあることを楽しむことで、穏やかに笑顔で過ごす時間を増やすこと」です。

3種類のリハビリ方法

3種類のリハビリ方法

編集部編集部

認知症のリハビリの方法には、どのようなものがありますか?

石原 綾乃石原さん

人の認知機能と行動の流れは、大まかに「感じる」→「考える」→「動く」の繰り返しとなります。リハビリの方法は、この各部分を強化する課題が効果的であると考えています。

編集部編集部

それぞれ解説をお願いします。まずは「感じる」から。

石原 綾乃石原さん

「感じる」こととは、見る、触る、聞く、味わう、匂うなどの「五感」です。特に匂いは、記憶と深く関わる脳の海馬を刺激するという研究結果もあります。また、音楽療法や園芸療法、料理や趣味活動などの手作業は「感じる」ことがとても多いので、リハビリの方法で多く取り入れられています。さらに、それがご本人の昔から好きなことや馴染みがあることだと、楽しく取り組むことができますよね。

編集部編集部

「考える」は、脳トレなどですか?

石原 綾乃石原さん

「考える力」自体を鍛えていきます。昨今、計算ドリルなどの様々な脳トレがありますが、「考える」ことにフォーカスを当てると、手作業や会話もとてもいい方法です。特に「回想法」と呼ばれる昔の出来事を思い出しながら語る方法は、脳機能の活性化だけではなく、記憶に残る部分を語ることで自分自身のことを振り返り、安心感が得られ、穏やかな気分になれる心理的効果も期待されています。このように考えることで、脳血流量が増加して脳全体の機能向上が期待できます。

編集部編集部

最後の「動く」についてもお願いします。

石原 綾乃石原さん

運動がメインになってきますね。適度な有酸素運動が脳血流量の増加を促すことは有名だと思います。さらに近年、認知課題と運動課題を2課題同時におこなう「コグニサイズ」と呼ばれる方法が、より効果的だという研究結果が出ています。ただし、高齢者や認知症以外の疾患をもっている人も多いため、取り組みやすい運動の方法や量、負荷の調整は必要と考えています。

編集部編集部

自分でも手軽にできる方法はありますか?

石原 綾乃石原さん

自分で動ける人は、例えば、街中にある好きな色を探しながらウォーキングをしたり、数を数えながら「テレビ体操」をしたりするのはアリだと思います。また、運動が難しい場合でも、2課題同時におこなうコグニサイズの視点で考えるならば、歌を歌いながら座って足踏み体操や手拍子をすることも手軽に取り組みやすい方法だと思います。

編集部編集部

でも、全部やるのは大変そうです……。

石原 綾乃石原さん

取り組みやすい方法からおこなってもらえれば十分です。認知機能の低下によって、できること・苦手なことは人によって様々ですし、お話するのが好きな人もいれば、運動が好きな人もいるように、好みもそれぞれ違います。これらの視点で本人が取り組みやすい方法を検討したり、症状の進みに合わせて内容を変えたり、見直したりしながら続けていくことが大切だと考えています。

自分らしい生活を続けるのも認知症リハビリのうち

自分らしい生活を続けるのも認知症リハビリのうち

編集部編集部

ほかにも大切なことはありますか?

石原 綾乃石原さん

認知症の診断に限らず、年齢を重ねると認知機能の低下により、少なからず生活のし辛さを感じることがあると思います。共通して言えることは、今までやっていたことをやり続けることが大切です。

編集部編集部

今までやっていたこととは、どういうことでしょう?

石原 綾乃石原さん

料理が好きな人は料理をすること、運動が好きな人は体を動かすことなど、趣味的なことから、お風呂に入った時に体を自身で洗う、ご飯を自身で食べるなどの生活場面でおこなっていたものまで、多岐に渡ります。

編集部編集部

認知症の症状があると、自分でやり続けるのは難しいこともありますよね?

石原 綾乃石原さん

たしかに苦手なことも出てきますので、全てを今まで通りおこなうのは難しいかもしれません。苦手なものに対して必要なサポートを受けながら、部分的にでも今できることをやり続けることが大切です。今できることや苦手なことを整理し、家族や支援者にサポートの方法を伝えることも作業療法士の役割の1つなので、頼ってみてください。

編集部編集部

苦手分野をサポートしてもらった上で、好きなことを続けられたら気持ちが明るくなる感じがします。

石原 綾乃石原さん

こちらとしても、ぜひ続けてもらいたいですね。自身では動くことや、言葉でのやり取りが難しくなった人で、もともとコーヒーを毎朝飲んでいた人が、コーヒーの香りを嗅いでもらったところ、とても穏やかな表情になられることもありました。今までおこなってきたことは、その人らしい生活を最期まで送ることにもつながる大切な視点であると考えています。

編集部まとめ

認知症の人のリハビリは、さまざまな視点の方法があることを知りました。その方法の中でも自分に合った、好みの方法を探して続けていくことが大切なようです。ご自身やご家族だけでは不安に感じることもあると思いますので、まずは近くの医療機関や施設、地域にいる作業療法士に相談してみてはいかがでしょうか。

この記事の監修作業療法士・介護支援専門員