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~実録・手術体験記~ リストカット痕への偏見と嘲笑の解決策「戻し植皮手術」

 更新日:2023/03/27

リストカットによって残った傷痕を目立たなくする治療は、傷痕をキレイさっぱり無くすことだけが目的ではないようです。およそ20年前にリストカットを経験した長野さん(仮名)は、2019年になって職業訓練と子ども教育の観点から戻し植皮手術でリストカット痕の治療を行いました。目指した完成形は「リストカットに見えない傷痕」。本記事では、長野さんがリストカットに至った経緯や手術方法の選択理由、治療の背景と想いについて、詳しく話を聞きました。

※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年6月取材。

長野さん(仮名)

体験者プロフィール
長野さん(仮名)

プロフィールをもっと見る

埼玉県在住、1982年生まれ。結婚し、夫と2人の子どもとの4人家族。およそ20年前の18歳のときに、父親とのケンカが理由で手首に計5回の切り傷を負う。その後就職、結婚、出産と順調に月日を重ねてきたが、2019年4月から看護師の専門学校に通うことになり、それを機に傷痕を目立たなくする戻し植皮手術を受けることを決意。現在は学生と主婦として二足の草鞋を履く日々を送っている。

村松 英之

監修医師
村松 英之(医師)

父親とケンカの末、激高してリストカット

父親とケンカの末、激高してリストカット

編集部編集部

手首の傷痕はどのようにして負ったものですか?

長野さん(仮名)長野さん

自ら切ったということに違いはないのですが、私の場合、世間一般に理解されているようなリストカットではなく、父親とのケンカの中で、「死ね」という言葉に呼応する形で感情的になって自分を切り付けたときにできた痕です。手首は手首でも、手の甲を上にしたときに見える側を、家にあった包丁で5回ほど切り付けました。

編集部編集部

お父様とのケンカの原因はなんだったのですか?

長野さん(仮名)長野さん

父親のお酒です。日常的にお酒を飲んでは荒れていたので、ケンカ自体は多かったのですが、刃物に手をかけたりしたのはその1回だけです。自傷行為もそれまでに経験はありません。

編集部編集部

物や父親ではなく、刃先が自分に向かったのはなぜですか?

長野さん(仮名)長野さん

他人を殴ったこともありませんでしたので、今考えると人を傷つけるよりもハードルが低かったと思います。瞬間的に激高していたので、5回も切ったのだと思います。このとき、病院に行かず、自分で傷を手当したのも、傷痕には良くなかったかもしれません。

編集部編集部

なぜ傷痕を治療しようと思ったのですか?

長野さん(仮名)長野さん

ずっと傷痕は気になっていましたが、2019年4月から看護専門学校へ通うことになりまして、その前に治療をしようと思いました。看護師として働いていくときに、命に携わる現場でリストカット痕があることが望ましいとは思えなかったので。また、そろそろ子どもが5歳になり、色々と理解してくるころなので、その前に治療を受けたいとも思っていました。

編集部編集部

リストカットから20年ほど時間が空きましたが、もっと早く治療できたのではないですか?

長野さん(仮名)長野さん

そもそもこういう治療ができることを、長い間知りませんでした。ある程度まとまった金額も必要(手術はおよそ40万円ほど)だったので、知っていても家庭内での優先順位は低かったかもしれません。たまたまネット広告で治療の存在を知り、自分でいろいろと調べた上で、タイミングとしても良い機会となったので手術することになりました。

編集部編集部

日常生活でリストカット痕による不都合はありましたか?

長野さん(仮名)長野さん

人の目はやはり気になりました。また、悪意を持って「その傷どうしたの?」と聞いてきたり、笑いながらいじってきたりする人もいました。嘘で受け流すこともできるんですけど、やっぱり繰り返し嘘付くのは精神的に辛かったです。

戻し植皮手術で「リストカットに見えない傷痕」を手に入れる

戻し植皮手術で「リストカットに見えない傷痕」を手に入れる

編集部編集部

リストカット痕は、どれぐらいのレベルにしたかったのですか?

長野さん(仮名)長野さん

傷も深かったし、リストカットする前のような手首にするのは、望んでいませんでした。たぶん難しいだろうと。なので、ある程度目立たず、リストカットに見えないようにしてほしいと思っていました。別のケガや火傷痕などに見えるならOKでした。

編集部編集部

そのためにどんな手術を行いましたか?

長野さん(仮名)長野さん

戻し植皮手術を受けました。傷痕があるところの皮膚を四角い形に切り取り、傷痕を目立たないようにして、向きを90度回転させた状態で元の場所へ縫い合わせるような手術です。時間は1時間ぐらいで終わりましたね。その後は翌日とその1週間後に感染症などを起こしていないか診てもらい、そこからは月1度の経過観察で何度か通院して、終了となりました。

編集部編集部

ほかにどんな治療方法があり、なぜ戻し植皮手術をすることになったのですか?

長野さん(仮名)長野さん

ほかにはレーザー手術や傷痕の切除して縫い合わせる手術などがあるようでしたが、私の場合、傷痕が大きく、形も盛り上がっていたので、どちらも選択肢としては選べなかったと思います。そもそも自分で調べた中で、受けたかったのが戻し植皮手術なので、なんの問題もありませんでした。

編集部編集部

治療後、施術箇所に問題などはありませんでしたか?

長野さん(仮名)長野さん

指に少し痺れがありましたので、整形外科へ行って鍼治療と電気治療を受けました。こちらは戻し植皮手術特有のものではなく、ただ私の場合そうなっただけだと思います。麻酔なのか、シーネの影響なのか、先生も原因はわからなかったようですが、現在は完治しています。あと、戻し植皮手術の箇所に茶色いブツブツのようなものができてしまいました。こっちは特有のものだったみたいです。

編集部編集部

茶色いブツブツの原因はなんだったのでしょうか?

長野さん(仮名)長野さん

植皮した皮膚の下に毛が生えて、「埋没毛」となってしまっていたそうです。毛穴と毛根が合わなくなって、そのような状態になってしまいました。手首の内側ではなく、毛のある外側だったからこそ、そうなったのではないでしょうか。そのブツブツは、脱毛専門の病院で、塗り薬を処方してもらって治療しました。今は無くなっています。

編集部編集部

手術後、手首を隠したりせずに行動できるようになるまでどれぐらいかかりましたか?

長野さん(仮名)長野さん

手術から5か月ぐらい経って、リストバンドを付けずに外出できるぐらいになりました。おかげさまで目指していた「リストカットには見えない手首」(写真)になっていたと思います。今後の願望としては、より縫い目を目立たなくしたいと思っていて、今度先生に相談してみたいと考えています。

長野さんのリストカット痕

リストカット痕の治療はなるべく早めが良い

リストカット痕の治療はなるべく早めが良い

編集部編集部

リストカットが目立たなくなって、生活に変化はありましたか?

長野さん(仮名)長野さん

手術前は夏場でもカーディガンを羽織って、傷痕を露出しないようにしていましたので、半袖で外出ができるのが嬉しいです。あと、今までは傷痕について聞かれたとき、その場をやり過ごすのが億劫でしたが、リストカットに見えなくなったので「ガラスで切ったので皮膚を移植した」など、相手に納得してもらえそうなもっともらしい説明ができるようになりました。

編集部編集部

リストカット痕の手術をした率直な感想を教えてください。

長野さん(仮名)長野さん

傷痕のことを人に聞かれることが一番負担になっていたので、それが改善されたのが嬉しいです。看護師として働くとき、制服も半袖ですし、患者さんとの距離感が近いので、その距離感でも目立たないのは仕事もしやすいだろうなと思っています。もし今後、新たな仕事に就くとしても、職業選択の幅が広がったような気がします。

編集部編集部

最後に、読者へメッセージがあればどうぞ。

長野さん(仮名)長野さん

大前提として、刹那的な感情に流されて自分で傷痕を作らないことが一番大事です。ただ、すでに傷痕ができてしまっているのであれば、早めに治療を行ってほしいと思います。私の場合、傷を負ってから20年近い時間が経って手術を受けていますが、もっと早く受けていれば、今よりももっと目立たない形になっていたと思います。若ければ若い方が、より手術の痕も目立たなくなるはずですので、早めにお医者さんに相談してほしいです。

村松先生

監修医師からのコメント:
村松先生

長野さんと同じようにリストカット痕で悩まれている方は多くいらっしゃいます。皆さんが同じく一時的な自傷行為なのですが、その後長期間にわたって傷痕に悩んでいます。この戻し植皮手術は、長年の悩みを解決できる素晴らしい方法だと思います。現在ではこの手術を受ける事ができる施設は当院以外にはほとんどありませんが、是非沢山の方に受けていただき長野さんと同じように悩みが解決される事を願っています。

編集部まとめ

リストカットは絶対に思い止まるべきです。その前提の上で、リストカットの痕によって後々後悔することは、ここに紹介挙げた以外にもたくさん存在すると思います。今回のケースでは40万円ほどの費用を要しましたが、長野さんのように手術の対価として享受できるものが明確にあるのであれば、積極的に選択して良い手段ではないでしょうか。

この記事の監修医師