~実録・闘病体験記~ 「乳がんが与えた生きるパワー、マスコミも注目する絆の求心力」
がんの部位別罹患率で、女性のトップを占めるのが乳がんです。およそ9人に1人の女性が罹患するとされるこの病気に対し、早期発見を促す「ピンクリボン運動」などもおこなわれています。今回、取材に応じていただいたのは、乳がんのステージ2bと診断された増田さん。温泉巡りが趣味だった彼女が、右乳房全摘手術を受けることになりました。その後の人生がどう変わったのか、女性必見の体験記です。
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年2月取材。
体験者プロフィール:
増田 郁理さん
静岡県在住、1977年生まれ。結婚し、夫と長女の3人暮らし。株式会社プラス・ブレストの取締役として、自らの飲食店経営や個人事業主への販促コンサルタントなどを手掛けている。乳がんと診断されたのは2019年8月。右乳房全摘を含む2回の手術を経て、現在は通院治療中。術後の患部を覆う「入浴着」の周知・普及にも取り組んでいる。
記事監修医師:
楯 直晃(宮本内科小児科医院 副院長)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
体を手で洗うセルフチェックが功奏する
編集部
さっそくですが、乳がんと気づいたきっかけは、なんだったのでしょう?
増田さん
2019年の6月ごろでしょうか、娘と一緒に入浴していたとき、乳房をセルフチェックしていて「触るものがある」と不安になりました。セルフチェックの習慣は、テレビなどで「石けんを付けた手で洗いながら確かめる」方法を紹介していたので、以前から取りいれていたのです。
編集部
自覚を元に、自ら進んで検診を受けられたのですね?
増田さん
はい。ちょうどそのころ、「企業健診のお知らせ」が届いていたため、人間ドックのオプションを申し込みました。実際に人間ドックを受けたのは2019年7月中旬のことです。私には消化器系がんの家族歴があったため、大腸がんや子宮がんの検診は、それまでにも定期的に受けていました。乳がん検診は、その1年半前に受けたのが最初です。
編集部
前回の乳がん検診では、「異常なし」だったのですか?
増田さん
マンモグラフィで乳房を挟まれた後に、分泌液のようなものが染み出たことを覚えています。しかし、結果は「異常なし」でした。今思えば、そのときから発症していたのかもしれません。後で知ったことですが、「触診時に分泌液が出る」ことも、乳がんを疑うサインなのだそうです。
編集部
話を戻しますね。人間ドックの結果はどうだったのでしょう?
増田さん
人間ドックの5日後、あらためて医師から、乳がんと大腸ポリープの精密検査をするよう勧められました。その結果、最終的に乳がんの診断が付いたのは8月下旬です。1カ月ほど時間が空いてしまいましたが、「家族と一緒に説明を聞きに来てください」と言われ、なかなかタイミングがそろわなかったのです。それと同時に、「私、乳がんなのかな」という予感がしました。
編集部
告知を受け、最初に頭をよぎったことはなんでしょう?
増田さん
あまり記憶にありません。ただし、担当医師から「お子さんがまだ小さいので、あなたの命を優先したほうがいい。腫瘍の部分摘出ではなく、乳房の全摘を検討してみては」と言われたことを覚えています。なぜか隣にいた夫が、その場で「全摘でお願いします」と即答していました。私の体のことですが、「“胸”って、自分だけのものではないんだな」というのが、そのときの印象です。
患者側の視点を保てる、強い味方が登場
編集部
再発のリスクなどを考慮して、全摘にふみきったのですね?
増田さん
受診した病院には「がん専門の看護師さん」がいらっしゃって、病気の説明や今後の予定、メンタルのサポートなど、いろいろと尽力していただきました。また、医師に対し“強い物言い”ができた方で、自ら作成した「手術結果ならびに治療計画書」を担当医に渡して書かせるなど、強い味方になってくれましたね。そんなこともあって、全摘への不安は薄れていきました。
編集部
増田さんにとってはとても頼りがいのある方だったのですね。
増田さん
その方から、「同病者のブログなどは一切、参考にしないこと。乳がんにはいくつかのタイプがあるので、別物と考えたほうがいい」と言われたことも大きかったですね。なにより、情報に振り回されることがなくなりました。夜、1人になると、どうしても不安になるんです。つい、他人のブログなどを見たくなるのですが、思いとどまるようにしました。
編集部
ちなみに、セカンドオピニオンは受けられましたか?
増田さん
全摘手術の予定日まで1カ月ほどあったので、受けるべきかどうか、その看護師さんに相談しました。すると、「標準治療の手順を踏んでいるので、大きな違いはなく、時間が過ぎるだけでしょう。ただし、最後に決断するのは自分自身なので、よく考えて決断してください」とのこと。だったら、この看護師さんがいる医院を信じよう思いました。
編集部
手術後の状況についても教えてください。
増田さん
全摘を受けるまで、私の乳がんは「ルミナルA」タイプだと思われていました。抗がん剤は不要で、ホルモン剤による投薬治療を続ける予定だったのです。ところが、摘出した組織を調べたところ、あらためて「HER2(ハーツー)陽性乳がん」であることがわかりました。このタイプの乳がんには、抗がん剤の投与が推奨されるそうです。
編集部
抗がん剤というと、副作用の話を耳にします。
増田さん
そうですね。「ルミナルAだから、抗がん剤が必要ない」と思っていただけにショックでした。でも、腹をくくるしかありませんよね。なので、髪の毛が抜けはじめる前から、「アピアランスケア」と呼ばれる抗がん剤対策をそろえておきました。具体的には、頭に装着するウィッグなどですね。
編集部
「ステージ2b」ということは、ワキのリンパ節への転移がおきてたのですよね?
増田さん
はい。2回目の手術で、右上腕部のリンパ節を摘出しました。手術直後は、腕が上げづらかったですし、恒常的な“うずき”を感じていました。いまでも、違和感のような感覚が残っています。また、外傷が治りにくく、加えてむくみやすいそうなので、日頃から注意を払っています。
編集部
お話を聞いていると、即断即決で物事が進んでいますよね?
増田さん
私にとって最も嫌だったのは、「情報が足りなくて、思い悩むこと」でした。その点で、私には「がん専門の看護師さん」がいらっしゃったので、助かりましたね。また、子どものケアを専門にする「HPS(ホスピタル・プレイ・スペシャリスト)」の方もいらっしゃいました。子どもと遊びながら、医療の説明やストレスの緩和をしてくれる、専門職なのだそうです。
がんの体験者同士は、強い絆で結び付き合える
編集部
治療中、なにを心の支えにしていましたか?
増田さん
「抱えていられない性格」なので、告知から1週間後くらいにSNSで“カミングアウト”しました。そうしたら、会ったことのないがんサバイバーの方から、声援をいただくようになったのです。私にとって、社会復帰への原動力でしたね。今おこなっている「入浴着の普及活動」も、そのときに思いついたアイデアです。
編集部
「入浴着」ですか?
増田さん
乳房摘出の手術跡を人目にさらさずとも入浴できる、サポーターのような衣料です。私は元々、スーパー銭湯や温泉巡りが好きでした。ですから、「これから、お風呂どうするんだろう」と思って調べていたところ、どうやら、入浴着というものがありそうだと。そこで、ネットで入浴着の意見交換会を開いたのが、後の「入浴着普及委員会」設立のきっかけです。友人1人と他県に住む乳がん経験者3人が、参加してくれました。
編集部
今では、普及活動が、地元のテレビなどでも取り上げられていますよね?
増田さん
「入浴着を着ているのに、人が来ると、さらにバスタオルなどで隠してしまう」という話を聞いて、切なくなってしまったのです。こういう衣料を必要としている人がいるんだと。そのことを1人でも多くの人に知ってもらいたいと思って、周知活動に努めています。また、たまたま手描きムービーがつくれる人を見つけて趣旨説明したところ、無償で協力していただけました。
編集部
がんであることが、別のエネルギーを生んでいると?
増田さん
どうでしょう。がんの経験者だからこそ、「同病の方を支援したくなる」という側面はあると思います。身内にがん患者さんがいる方もそうですよね。「2人に1人ががん」という時代ですから、人脈の広がりが顕著です。加えて、入浴施設の管理者さんや管理企業さんも、一定の耳を傾けてくださいます。
編集部
読者に向けて、一言お願いします。
増田さん
「私はがんと無関係」という、変な自信をもっていただきたくないですね。女性で、企業健診や40歳以上の特定健診が受けられない方は、ぜひ、セルフチェックの習慣を心がけてください。やり方は、自治体のホームページなどに載っています。また、マンモグラフィだけでなく、超音波検査との併用を検討してみてはいかがでしょうか。
編集部
例えば、どこかの月の19日を「検査記念日」に決めてしまうとか?
増田さん
はい。毎月19日は、1(ピン)と9(ク)になぞらえた、「ピンクリボンデー」とされています。誕生日や結婚記念日でもいいので、忘れないように定期的な検査を受け続けていただきたいですね。また、私の友人も含め、「心当たりがないのに、なんだか疲れる」という予兆が、がんの発症時期と重なっているようです。とくに女性の場合、「更年期のせい」にしがちなのではないでしょうか。乳がんは、早期に発見できれば、克服できる病気です。
編集部まとめ
がんの経験者は自身がつらい思いをしてきたからこそ、同じような思いをしているであろう「同病の方を支援したくなる」。そこに、今まで見えていなかった可能性を垣間見ました。「闘病を経ることで見えてくる世界もある」ということを教えていただきました。もっとも、こうした境地へ至れたのは、セルフチェックによる早期の気づきがあったから。そして、時間を空けず「全摘の決断ができた」からでしょう。乳がんを自分で発見できれば、その後の心持ちも変わるはずです。すぐに今から、セルフチェックをはじめてはいかがでしょうか。