熱の出ないインフルエンザがあるってウソ? ホント?
素人にとって、インフルエンザにかかったかどうかの判断材料は“発熱”です。だとすると、熱が出ていない限り「大騒ぎする必要はない」と考えていいのでしょうか。インフルエンザと受診動機について、「ソージュ山下町内科クリニック」の中村先生に、詳しく解説していただきました。
監修医師:
中村 蓉子(ソージュ山下町内科クリニック 院長)
東京医科歯科大学医学部医学科入学後、海外留学を経て、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程神経病理学分野入学、修了。東京医科歯科大学医学部附属病院や横浜市立みなと赤十字病院へ勤務後の2020年、神奈川県横浜市に「ソージュ山下町内科クリニック」開院。予防の観点から、定期的に相談できるかかりつけ医を目指している。医学博士。日本内科学会認定内科医、産業医、協力難病指定医。
言われて気付く、意外な落とし穴
編集部
発熱はインフルエンザに顕著な症状ですよね?
中村先生
そう思います。一般には風邪より症状が強く、40度近い発熱も起こり得ます。そこで本題、「熱の出ないインフルエンザ」についてですが、基本的に、発熱を伴わないインフルエンザウイルスは“ない”と思われます。
編集部
強い主訴へ注目がいって、微熱に気付かないとか?
中村先生
それも考えられますが、まず、高齢者ほど熱の出にくい傾向があります。免疫力が加齢によって落ちているためです。ほかに考えられることとしては、事前のワクチン接種により軽症で済んでいる場合や、腰痛などで普段から「鎮痛剤」を常用されているケースでしょうか。鎮痛剤の中には解熱の成分を含むお薬があります。
編集部
常用薬の影響は別として、微熱なら軽症と考えていいですか?
中村先生
怖いのは、別の病気による発熱ですよね。仮にインフルエンザだったとしても、免疫力が下がることで、ほかの病気を抱えこんでしまう可能性もあります。また、ウイルスを抱えたまま動き回ると、他人へうつしかねません。
編集部
熱や症状の軽重を問わず、受診だけはするべきだと?
中村先生
そうしてください。インフルエンザの場合、発熱から48時間以内に抗インフルエンザ薬を投与すると、その後の症状がかなり楽になります。受診した方が、かえって会社や学校を休まなくて済むかもしれません。
風邪との違いを知っておく
編集部
単なる風邪なら、熱が出ない場合もあるのでしょうか?
中村先生
これから熱が出る場合もありますし、なんとも言えないですね。インフルエンザと風邪の違いを外見や問診から鑑別することは、医師でもなかなかできないことです。それぞれ原因となるウイルスが異なりますから、検査を要します。その一方、インフルエンザだろうが風邪だろうが対症療法としては同じだから、「わざわざ検査する必要はない」とする考え方もあるでしょう。
編集部
風邪とインフルエンザの違いは、ウイルスの差だったのですか?
中村先生
ウイルスの違いもあるのですが、両者の最も大きな違いは、「特効薬の有無」だと考えています。インフルエンザには抗インフルエンザ薬が開発されていますが、風邪の特効薬はありません。ウイルスの多くは、ご自身の免疫力でやっつけていただくほかないのです。ただし、つらい症状を抑える目的の「風邪薬」は、ご存じのようにあります。
編集部
ほかにも違いがあったら、教えてください。
中村先生
風邪は通称で、正式な名称を「急性上気道炎」といいます。つまり、ウイルスを原因とした喉の上部の炎症です。その結果として、せきやくしゃみ、発熱、鼻づまりといった症状が出ます。対するインフルエンザは、ウイルスを原因とした全身疾患という扱いになります。症状だけなら似ているかもしれませんが、体のどこでなにをされるのかは、ウイルスと免疫次第です。
編集部
そして、インフルエンザには、専用の抗インフルエンザ薬が有効だと?
中村先生
はい。ただし、抗インフルエンザ薬の目的は、「ウイルスの増殖を抑えること」であって「ウイルスを死滅させること」ではありません。先ほど、48時間以内の投与について触れましたが、ひきはじめに「ウイルスの増殖を抑えること」が大切なのです。ウイルスが増えきってしまった後に抗インフルエンザ薬を使用しても、あまり意味はないでしょう。
編集部
結果として、インフルエンザなのに「風邪薬」が処方される場合もありますか?
中村先生
現実としてはありますね。発症からの日数や、抗インフルエンザ薬の副反応も考慮した上で、どちらがふさわしいのかを決めていきます。ただし、ケース・バイ・ケースですので、パターン化して覚えてしまうのはおやめください。診断は医師に任せ、お体のつらさを、なるべく早くご相談していただければ結構です。
インフルエンザの種類と発熱の関係
編集部
インフルエンザの「A型」とか「香港型」って、なんのことでしょう?
中村先生
対策がきちんと取れるような分類名です。ABCなどのアルファベットは基本の型で、香港やソ連などの地名は“亜型”といいます。例えば、A型はトリなどにもうつるので、「トリインフルエンザにも気をつけよう」という対策が取れます。他方、B型ならヒトだけにうつるので、我々の集団感染を防げばいいことになります。こうした基本の型があった上でさらに細分化され、「今年はA香港型の流行が予測される」などと報道される仕組みです。
編集部
型や亜型による症状差はあるのでしょうか?
中村先生
基本的にインフルエンザのタイプは毎年、異なります。ですから、その意味においては「差あり」ですね。一方、A型やB型に固有な症状があるかと問われれば、その答えは「差なし」です。今回のテーマである発熱も、その年のタイプに聞いてみないとわかりません。
編集部
いずれにしても、ワクチン接種が有効な予防方法であるということでしょうか?
中村先生
そう言っていいでしょう。インフルエンザは、一通り感染して、一定数の人が抗体をもつことによって収束します。ただし、ワクチンの中にインフルエンザウイルスは“一匹も”いません。その中身は“ソックリさん”で、事前の模擬戦により抗体をつくって、本番に準備しておくようなイメージです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
中村先生
昨今、新型コロナウイルスの流行もありますので、「疑わしいなら調べる」意義は、より大きくなってきていると考えます。もしかしたら「コロナウイルスと判明したくない」などの心情があるかもしれませんが、なにより感染の拡大防止に努めてください。そのための第一歩が受診です。「単なる風邪だろう」という素人判断は、ぜひともやめていただきたいですね。その際、直に来院されるのではなく、各自治体の発熱外来ルールを確認しましょう。
編集部まとめ
発熱を伴わないインフルエンザは「ない」という結論でした。解熱鎮痛剤を常用しているパターンなど、無意識な要因が多かったように思います。むしろ発症を見逃しかねないという点で、注意が必要かもしれません。微熱であっても、居住地の発熱外来ルールを確認し、受診に結びつけてください。自分だけで完結する話ではありません。
風邪に関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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